104ーモヤモヤ
「兄さま! オク! あれ!」
俺が指差した方に、ユキの様に黒いモヤモヤを纏ったベアー系の魔物がいた。
「リリ、あれはユキと同じだな」
「はい、兄さま。なんで? ユキ、分かる?」
「いや、我には分からん」
「リリ、ユキの穢れの原因は何だったんだ?」
「ルー! えっとね、コレ!」
俺はポケットに入れていた、ユキの体から取り出した弾を見せた。
「リリ、これクリスタルだな?」
「そう? 浄化したらこうなったの。最初は真っ黒のモヤモヤだった」
「人間はなんて馬鹿な事を!」
珍しくルーが怒っている。
「ルー様、どう言う事ですか?」
「クリスタルの弾に、呪詛を掛けたんだろう。この弾がもしかしてまだ森にもあるのか? ユキ、覚えてないか?」
「我が受けた弾丸は、リリが取り出した1発だけではなかった。我の力で、体から取り出したのが3発あったはずだ」
「ルー様、その影響ですか?」
「クーファル、もしかして食ったのかもな」
「兄さま、モヤモヤの魔物も3頭ですね」
「ああ。リリ、決まりだな」
「リリ、浄化できるか?」
「うん、ルー。任せて!」
『ピュリフィケーション』
俺は両手を前にかざして、一気に浄化した。
「リリはとんでもないな。人間か?」
「ユキ、失礼だよ?」
「ハハハ、そう思うよな」
「ルーまで。ま、いいけど」
神獣のユキと、精霊のルーには言われたくないよねー。
「リリ、まだだよ!」
「ルー、分かってる。兄さま、きっと体の中の弾自体を解呪しないと駄目だと思います」
「オクソール殿とリュカは、殿下をお守り下さい! 私が行きます!」
そう言ってシェフが走り出した。
「シェフ!! 兄さま、シェフが!」
「リリ、大丈夫だ」
でも、シェフ一人だぞ! いくらシェフが強くても……!
シェフが剣を振りかざす。馬で走りながら切り倒し、まず1頭。
振り返り様にまた1頭。
そして、薙ぎ払って最後の1頭。
あっと言う間に、シェフはモヤモヤの出ていた3頭を倒してしまった。しかも全て首を狙って一撃だ。
「シェフ! 凄ーい!!」
「リリ、弾を出さないと」
「兄さま、そうでした。オク」
「はい、移動します」
「リリ分かるか?」
俺はルーと魔物の死体をジッと見る。
「ルー、これやっぱり食べてるね?」
「みたいだな」
3頭共、腹の辺りから黒いモヤモヤが浮き出ている。
「もう死んでるのに」
「ああ、このまま放っておけば、澱みになるな」
「オク、お腹のモヤモヤが出てる所を狙って切れる?」
「はい」
オクが剣でかるく一振りした。残りの2頭も同じ様に腹を切った。
「うわ、これ、銃弾を食べた魚を食べたんだ」
「殿下、魚もまだ真っ黒ですよ」
「リュカやめて、キモイから」
まだ黒いままの消化されずに残った魚と、コロンと出てきた黒い弾。
オクが3体をまとめてくれる。
俺はそれに向かって手をかざす。
『ディスエンチャント』
黒い弾が、透明に変わった。
そして俺は3頭の魔物の死体に向かって手をかざす。
『ピュリフィケーション』
魔物の死体から、わずかに出ていた黒いモヤモヤが消えた。
「うん、これで大丈夫だろう」
「ルー、待って。周りを確認してみるよ」
俺は池を見つけた時の様に、魔力を森の中に広げてみる。薄く、広く、レーダーの様に……よし、大丈夫だ。
「大丈夫、もう何もないね」
「リリ、今のは索敵、サーチか?」
「ルー、さく? さ……何?」
「リリは、分からずにやっていたのか?」
「ルー、分かる様に言って」
「リリ、索敵だ。サーチと言ってな、魔力を流して敵の居場所を特定する事ができるんだ」
「ルー、ボク知らなかった」
「リリ、もしかして鑑定も出来るんじゃないか?」
「かんてい? ルー、何それ?」
「俺がさっきユキにやってただろう?」
「えー、知らな〜い」
「なんでだよ!? リリはさぁ、本当に分からん! 時々、ボケボケなのは何でだ?」
「ええー、ルーなんだよぉ」
「リリ、その魔物の死体に集中して『鑑定』てやってみな?」
「魔物の死体に?」
「ああ」
魔物の死体に向かって……
『鑑定』
おー! そうなのか! これいいじゃん。全部情報が分かるんだな。もっと早く教えて欲しかったぜ。
「ルー、分かった! これいいね!」
「やっぱ、出来たか」
「うん。大丈夫、もうちゃんと浄化されてるよ!」
「ルー様、スキルですか?」
「ああ。クーファル。これまた初代皇帝が、よく使っていたスキルだ。使える奴は聞いた事ないな」
「リリ、もう兄さまは驚かなくなったよ」
「え? 兄さま、何ですか?」
「いや、リリいいよ。ルー様、このクリスタルの弾丸は持っていても無害ですか?」
「ああ、もうリリが解呪したからな。弾丸の形をした、ただのクリスタルだ。」
「リリ、兄さまにくれるかな?」
「はい、兄さま。ユキのとあわせて全部で4個です」
クーファルにクリスタルの弾丸を渡した。
「ルー様、この魔物はどうしましょう?」
シェフが聞いてきた。
「このまま放置すれば澱みの原因になりますよね?」
「シェフ、そうだな。もう無害だから、取り敢えずマジックバッグに入れて、森を出たら焼いてしまう?」
「分かりました」
「私が入れておきます! シェフのマジックバッグに入れるのはちょっと抵抗が」
リュカが言った。ま、気持ちの問題なんだが。でも気持ちは良く分かる。食料が沢山入ったシェフのマジックバッグには入れてほしくないよな。……いやいや、待てよ。もう既にあの超キモイでっかいトードが入ってんじゃね!?
いや、考えるのはやめておこう。
気がつけば、あれだけ出てきていた魔物がどこかにいなくなっていた。
「ルー、なんでだろう?」
「魔物か?」
「うん。黒いモヤモヤが消えたら、魔物もいなくなった」
「ああ、本能でモヤモヤから逃げて来たんだろう。どんな呪詛だったかだ」
「そっか」
「ユキ、河向こうの国だと言っていたかな?」
「ああ、そうだ」
「しかし、神獣を捕らえようなどと、よく思いついたもんだね」
「ね、ルーもそう思うよね。こんなに可愛いのにね〜」
「リリ………… 」
おや? 俺なんか変な事言ったか?ユキは可愛いだろうよ。