103ー小ちゃくなった。
「ねえ、兄さま」
「リリ、どうした?」
「お腹が空きました」
「アハハハ! リリアス殿下は、本当に肝が座っておられますね!」
「アル殿。だってお腹が空いたら、力も出ないよ?」
「その通りですな。では、魔除けの内側で食事にしますか?」
「アラ殿、そうしましょう! あ、ボク結界を張っておきます」
えっと……結界は……
「主人よ」
「ユキ? ボクはリリだって言ったじゃん」
「では、リリ。我が張っておく」
そう言うと、ユキの体から白い閃光が広がり魔物避けのある場所を基準に、キラキラと透明な結界が張られた。
「ユキ、凄いね。こんな事が出来るのに、人間にやられたの?」
「それを言うでないわ」
「プフフ……」
またリュカが笑ってる。
ユキはカッコいいのに、なんだろ? ちょっと惚けたところがあるのかな? 可愛いぞ。親しみやすくて良いじゃん。
「殿下! お食事にしましょう!」
「シェフ! お腹すいた!」
皆で結界の内側で食事だ。食べながらだけど、俺はユキに皆を紹介した。
騎士団と領主隊が興味津々だ。
おぉー! と拍手している隊員までいる。なんで?
「殿下、だってカッコいいでしょう!」
と、領主隊隊長のウルが言っていた。だよなー、カッコいいよなー!
「……ユキはね……モグ」
「ああ、先に食べるといい」
「うん……お腹すいてない?……食べる?」
と、モグモグしながらマジックバッグから予備のバーガーを出した。
「……いいのか?」
「うん! いいよー! はい、あーん!」
「あーん?」
「お口開けて。入れてあげるから。」
「あ、あー……ん……美味いな!」
デケー犬歯だなぁ。ちょっと怖いよ?
「でしょー! シェフの料理は絶品だよ!」
「おや、食べられますか? 駄目なものはないですか?」
「ああ、特にはない」
「はいはい。では、これもどうぞ。沢山持ってきてますから、遠慮せず食べて下さい」
シェフがマジックバッグから、ドドンとお肉やパンを出した。
「かたじけない!」
ユキは豪快に食いついた。食べてるよ。マジ、がっついてるよ。
「お腹空いてたんだねぇ……」
「怪我してましたしね。血も失っていたでしょうし」
「リュカ、そうだよね。ねえ、レピオス。薬湯はいらないかな?」
「どうでしょう? 私は神獣を見るのも初めてですから」
「だよねー」
「殿下、大丈夫だと思います」
「オク、どうして?」
「神獣は我等とは違います。それにあの食欲だと大丈夫でしょう」
「そうだね。スッゴイ食べてるもんね」
マジ、豪快に食べている。この様子だと心配なさそうだ。
結界の外に魔物がウロウロしだした。グリーンウルフや大型の物がいる。
食事を終えた領主隊がチラホラと、討伐する為に結界を出て行く。腕を伸ばしたり関節をボキボキ鳴らしたりしながら、さもこれから鍛練ですよ、と言った感じで普通に出ていく。
その様子を見て、領主隊にとっては魔物討伐は日常なんだと思った。
「凄いね、めっちゃ強い」
薬師達は結界があっても、怖いらしい。皆で固まって見ている。
「兄さま、ケイアはどう思っているのでしょう?」
「さあ、どうだろなぁ。魔物を間近で見るのも初めてだろうし」
「はい」
「まあ、少しは意識が変わるだろう。魔物なんて出る筈がないなんて、言っていたからな」
「そうですね」
「では、皆さん。帰りは霧吹きの駆除剤を持って下さい。トゲドクゲや卵を見かけたら、たっぷりと散布して下さい。散布しながら戻りましょう。
来る時に大体は燃やしたので、帰りは駆除剤を散布する程度で大丈夫でしょう」
レピオスが指示を出した。うん。もうそれ位でいいだろう。
「リリ、ユキはどうする?」
「兄さま、どうとは?」
「このまま領都に入ると、皆が驚くよ?」
そうか、ユキヒョウだもんな。
「ああ、そっか。ボク、乗って帰ろうと思ってたのに」
「ユキ、大きさを変えられるだろう?」
「ルー様。そうなのですか?」
「ああ、神獣なら出来るだろう」
「ユキ、出来るかな?」
「ああ、問題ない」
そう言うとユキの体がまた白く光った。今度はその光がユキの体を包む。
「うわ、ユキめちゃ可愛い!」
ユキは小型犬サイズに小さくなっていた。
まるでちょっと大きな白い猫だ。豹柄だけどな。
俺のモフモフ愛が溢れ出すぜ!
「さすが神獣だね。これなら大丈夫だ」
クーファル達は感心している。俺はもちろんユキを抱っこだ!
「ユキ、可愛い! モフモフ〜!」
いや、ペルシャ猫の様な長毛種ではないが、モフモフと言うよりはしっとりしている様なベルベットの様な、しかしフワモフ感もある。これは、極上の手触りだぜ! 俺はユキの体に顔を埋める。至幸だ!
「リリ、やめろ! くすぐったいではないか!」
アハハハ、この感触はやめられないぜ!
俺達は森の中を戻る。念の為、来た時とは違う場所を通って戻る。
騎士団や領主隊が、彼方此方で魔物を討伐している。
俺は小さくなったユキと一緒に、オクソールに乗せてもらっている。
「ねえ、オク。来る時よりも魔物が多くない?」
「そうですね。明らかに多いですね。しかも、同じ方向から出て来ていますね」
「オク、あっちだよね」
俺は、ユキが倒れていた池のある方を指差す。
「何かあるのかも知れません」
「調べなくていいの?」
「殿下、お昼寝は大丈夫ですか?」
「オク。いくらボクでも、こんな状況で眠くはならないよ」
「そうですか。では少し向こうに行ってみますか?」
「うん。確認しよう」
オクソールが笛を吹いた。
「オクソール殿、どうした?」
アラウィンと領主隊隊長が走ってきた。
「あっちの方から魔物が出てきてない?」
「リリアス殿下、そうですか?」
「リリアスの言う通りだね。向こうから魔物がやって来ている」
「クーファル殿下、では何かあると?」
「分からないが、確認しておく方が良いだろう」
「分かりました! ウル!」
「はい! 了解です!」
領主隊隊長のウルが、走って隊員達の方へ行った。
魔物を討伐しながら、徐々に池の方へ移動する。
「兄さま!『ウインドエッジ!』」
移動するにつれて魔物が多くなっている。しかもコレッて皆同じ方向から出てきてないか?
「リリ、大丈夫だ。有難う」
クーファルが襲ってきた魔物にとどめを刺しながら言う。
「クーファル殿下! これは変です! きっと何かあります!」
「オクソール、そうだな」
クーファルもオクソールも、剣で魔物を斬り倒しながら進む。
「兄さま! オク! あれ!」