102ーユキ
「リリ、やってしまったね」
「え? 兄さま?」
やっぱりかぁ。いつの間にか、クーファルがすぐ側に来ていた。
「私はリリの兄でクーファルだ。ユキ、リリを本当に守ってくれるのかな?」
「ああ。あのままだと、我は近いうちに死んでいた。恩ができたからな」
「ユキ、君はユキヒョウかな?」
「ああ、見かけはな。我は神獣だ」
「へっ!? 兄さま?」
「あー、これは私の手に負えないね。
ルー様!」
「はいな! 呼んだ?」
ポンッと光と共にルーが現れた。
最近、思うんだ。ルーの喋り方が最初の頃と違ってきてない? だんだん、オッサン臭くなってきてないか? 『はいな!』とか言ってるじゃん?
「リリ、そんな事はないと思いたい…… 」
「なんと!? 光の精霊か!?」
「おや? 珍しい。神獣がどうしてこんな所にいるんだ?」
ルーがユキを見て言った。
「ルー、河の向こう側のお隣の国で狙われたんだって」
「そうなのか? 馬鹿な人間はどこにでもいるんだね」
「ルー様、本当に神獣ですか?」
「ああ、間違いないよ。神使とも言うな。この豹は光の神の使いだ」
「ええー! ルーとどっちが偉いの!?」
「比べ様がないさ。カテゴリーが違う。まあ、でも僕かな」
あ、ルーがドヤってる。なんかムカつく。白い鳥さんなのに。
「精霊は超自然なものだ。神獣はあくまでも元は獣だ」
「へえ〜」
「リリ、へえ〜じゃないからね。クーファル、どうした?」
「ルー様、リリが名付けをしてしまいました。ユキと」
「……は!? 神獣にか!? て言うか、まんまだけど良いのか?」
「はい。気にしていない様です」
「リリ、お前は本当に…… 」
「エヘヘ〜」
「エヘヘじゃねーよ! 僕は褒めてないからね!」
「ええー!」
「まあ、良いんじゃないか? リリを守ってくれるだろうさ。もしかして、引き寄せたのか? えっと、ユキか。リリの立場と状況を知っておく事だ」
「何? 加護を受けている以外にも、まだあるのか?」
「ああ」
ルーが俺の状況を説明し出した。
長くなりそうなので、俺はオクソールに抱っこしてもらって、りんごジュースを飲む事にした。コクンと……
「人間と言うものは、馬鹿としか言いようがないな」
「その馬鹿な奴等からリリを守れるか?」
「ああ。当然だ。
我が敵を切り裂く光の剣となろう。
凶刃から守る盾となろう。
支えとなる杖となろう。
助けられた命だ。リリとやらに片時も離れず寄り添い守ろうぞ」
「そうか。それは心強い。まるで、騎士の誓いだな。頼んだ」
俺は無言でりんごジュースを飲んでいた。コクコクと……
「…… 」
「……リリ、りんごジュース美味いか?」
「うん、ルーも飲む?」
「いや、いらねーよ。緊張感ねーな! ユキのカッコいいとこだぞ? 真剣に聞いてやれよ。リリ、空気読もうな」
「……!!」
俺ほど空気の読める5歳児はいないだろうよ!? ちょっとショック……
「なら、その体は駄目だ。なんとかしなよ」
「精霊よ、どうしろと?」
「ユキ、人間の世界では目立ち過ぎるんだ。何より大き過ぎる」
うん、クーファル。その通りだな。なんせ2mはあるよな。オマケにユキヒョウだからな。普通に怖がられるだろう。
まぁ、俺はりんごジュースをまだ飲むぜ。コクコクコクと……
「…………」
「殿下、りんごジュースはもうその辺で」
「えー、オク。だめ?」
「はい。先程から飲み過ぎです」
「はーい」
俺は仕方なく、りんごジュースをマジックバッグに仕舞った。
「どんだけりんごジュース持って来たんですか!?」
「え? リュカ。そんなの沢山持って来たに決まってるじゃん」
「アハハ!」
「ねえ、リュカ。尻尾触らせて?」
俺はリュカに手を伸ばす。
「いや、駄目ですよ。何言ってんスか」
「じゃあ、耳でもいいよ」
「いや、意味分かんないッスよ」
「ええー! モフりたい!」
「殿下、俺より全身モフモフが、目の前にいるじゃないですか」
「ん?」
そうだった。
「オク、おろして」
「はい、殿下」
俺はトコトコと、ユキの側に行った。そしてボフッと抱きついた。
「リリ、何してんだよ!?」
「んー! だってルー、すっごいモフモフ! でもちょっとばっちいね」
『クリーン』
ユキの体がシュルンと綺麗になった。
「クハハハ!」
またリュカが笑ってる。ま、いいけどさ。またオクソールに叱られない様にしろよ?
「ねえ、ユキ。乗せて!」
「ああ、いいぞ」
ユキは、俺が乗りやすい様に伏せてくれた。ヨイショと背中に乗る。
「いいよー! じゃあ、戻ろう!」
「リリ、待ちなさい。そのまま戻るのかい?」
「えッ? 兄さま駄目ですか?」
「いや、駄目と言うか。アハハハ! 本当にリリは規格外だ!」
いや、俺もうこのまま戻る気満々なんだけど? 超お気に入りなんだけど。
肩にルーをとまらせて、俺がユキに乗ったまま戻ると大騒ぎになってしまった。
「殿下! そのユキヒョウは!?」
「エヘヘ。アルコース殿、カッコいいでしょ〜」
「いや、その。カッコいいですが。どうしてこの様な事に!?」
また長々とクーファルが説明してくれた。
俺は、シェフがいたので、お腹が空いたと訴える。
「殿下、ここで食事は無理です。もう少し我慢して下さい」
「えー。そうなの?」
「はい。魔物が寄ってきますから」
「分かった。我慢するよ」
「では父上。その神獣がいた為に、トードがこちらに移動してきていたと?」
「ああ、アルコース。おそらくそうだろう」
そうそう。ユキヒョウがいた事が原因だね。
「ユキがいたところだよね。河の水が溢れて小さな池になってた。あそこが、トードのお家だったんだよ。
でも、魔物とは別格で、モヤモヤまであったユキがいたから、こっちに移動してきたんだね。そして、グリーンマンティスがご飯になっちゃった。だから、トゲドクゲの卵が食べられなくて、沢山孵化したんだね」
「では、殿下。トードをもっと討伐しておきますか?」
「アルコース殿、駄目」
「駄目ですか?」
「うん。駄目。レピオス説明おねがい」
「はい、殿下。森には森の生態系があるのです。今回、トゲドクゲが増えたのも、その生態系のバランスが崩れたからです。
トードを討伐しすぎると、今度はトードを食料にしていた魔物が飢えて餌を求めて出てきます。それは、人間にも影響が出るかも知れません。ですので、狩り過ぎてはいけません。ほどほどが大事です。
先程、既にかなりの数を狩ってますので、後は神獣がいなくなれば自然に戻るでしょう。もちろん、ウルフ系やボア系等の、直接人間を襲ってくる魔物は別です」
うん、その通りだ。さすが、レピオス。俺の師匠だ。