101ーユキヒョウ?
池の脇に横たわっていたものが、こちらに向かって威嚇の声をあげている。
しかし、何だ? 弱っているのか? 動けないのかな? 攻撃してくる様子はないな。
「魔物だろうけど、浄化してみないと」
俺はオクに下ろしてもらい、一歩前に出て両手をかざす。大丈夫、ちゃんと両脇にオクとリュカがいてくれる。
『ピュリフィケーション』
俺が心の中で詠唱した瞬間、黒いモヤモヤに包まれた魔物らしきものが、白くキラキラとした光に包まれた。
そして、光が消えるとそこには……
「え、ユキヒョウ? 超大っきい!」
尻尾が長くて、体の模様が普通の豹とは少し違う白い豹が現れた。
「殿下、ヒョウでしょうが、白いですね」
「うん、オク。それに普通のヒョウとは体の模様が少し違う」
「リリ、ユキヒョウだね」
気がつくと、直ぐ後ろにクーファルがいた。
「兄さま、やっぱりユキヒョウですか。綺麗ですね」
「ああ、兄さまも見たのは初めてだ。しかし、大きいな」
「はい、あの大きさはやはり魔物ですか?」
『我は魔物などではない』
「え? え? 何?」
「リリ? どうした?」
「え?兄さま、聞こえませんか? 魔物ではないそうです」
「リリ、何が聞こえるんだ?」
「あのユキヒョウの声だと思います」
ズザッと、オクソールとリュカが俺の前に出て剣を抜く。
二人共、剣を構えて、耳と尻尾を出している。半獣化してるんだ。
凄い、オクの半獣化は初めて見た。
オクソールは獅子だ。百獣の王だ。超かっこいい。
ま、耳と尻尾だけだと、どっちかと言うと可愛いだな。獅子の尻尾が超可愛い。触りたい……
『獅子と狼か。獣人を従えるか』
「あれ? 君はだあれ? ボクはリリ。皆に分かる様に話してほしいな」
「プフッ」
また、リュカが笑ってる。よくこんな状況で笑えるもんだ。ある意味大物だね。
あ、オクソールに叩かれてる。ほらみろ。あーあ、怒られた。
「我は魔物ではない。其方達は何だ⁉︎ 人間であろう!? どうして穢れを消せたのだ?」
今度は普通に話してきた。
「ボクはリリだよ。ボクが穢れを浄化したの。苦しそうだったけど、大丈夫? まだお腹の当たりにモヤモヤが残っているね」
浄化したが、ユキヒョウはまだ動けないでいる。
黒いモヤモヤも残っている。あれは体の中から出ているのか?
「人間の子供が!? あの穢れを消したのか?」
「うん! 大分綺麗になったね! 良かった!」
「其方は加護を持つか」
「うん。光の精霊のね。ルーて言うんだ」
「光の精霊に名をつけたのか?」
「うん。良い名前でしょ?」
「ハッハッハ! なんと! 精霊に名を付けた人間など、聞いた事がない!」
「ねえ、側にいっても怖い事しない?」
「何?」
「だって、怪我してるでしょう? 浄化で怪我は治らないよ。それにまだモヤモヤ残ってる。ガブッて食べたりしない?」
「ああ。我は魔物ではないと言うておろう。何もせんわ」
「そう?」
俺は、近くに行こうと歩き出した。
「リリ! やめなさい!」
「兄さま、大丈夫です」
「殿下! ゆっくりと。私達の後ろに!」
「オク、分かったよ」
オクソールとリュカと一緒にゆっくりと前に進む。
「ねえ、どうしてこんなに酷い穢れを?」
進みながら聞いてみる。
「河向こうの国で、追われたのだ。我を捕まえようとする人間がいて、銃弾を撃ち込まれた。普通の銃弾ではこうはならん。呪詛が込められていたのだろう。なんとか此方に渡ってきたが、穢れが酷くて動けなくなってしまった」
呪詛を銃弾に込める、て何だ?
「そうなんだ。酷い事するよね」
「お前も同じ人間であろう」
「ボクはそんな事しないよ。じゃあ怪我は銃弾に当たった時のだね? もしかして、まだ弾が入ったままなの?」
「ああ、そうだ」
「ねえ、治したいんだ。触るけど、噛んだりしないでね」
「治せるのか?」
「うん。大丈夫だと思うよ。でも、治った途端にガブッて食べたりしない?」
「ハッハッハ、するものか。我はそんな恩知らずではない。それに人間は食べぬ」
「じゃあ、触るね」
近づこうとすると……
「殿下、危険です」
「オク、話聞いてたでしょう? 大丈夫だよ」
「殿下!」
俺は近付きしゃがんで、腹の怪我に手をあてる。
まず、弾を取り出して……ん〜、出てこいよ。どこだ? まるでエコー検査みたいだな。魔力を流してみる……あ、あった! これだな。
後ろ足の付け根辺りに、銃弾が入っている。だから歩けない? 歩きにくいのかな?
弾を引き出す感じで魔力を絡める……よし!
「取るからね。痛いよ。我慢できる?」
「ああ、やってくれ」
よし、いくぞ……ん〜、そうっと……
出来るだけ、痛くない様に……ゆっくり……そうっと……もう少し……ヨシ、取れた。
俺の手の中に、真っ黒のモヤモヤがまとわりついた弾丸が、出てきた。
「取った! うわっ! 真っ黒! 凄い呪詛だ!」
「殿下、早く離して下さい! 呪詛が!」
「オク、大丈夫。」
えっと……呪詛……解呪か? たしか2年前にやったな。
なんだっけ? あ、そうだ!
『ディスエンチャント』
手に持っていた真っ黒にモヤっていた弾が光った。
そして、透明の弾丸にかわった。
「うん、大丈夫だ。次は怪我と残ったモヤモヤだね」
まず、モヤモヤか。弾が入っていたところに手を当てて心の中で詠唱する。
『ピュリフィケーション』
瞬く間に、腹のモヤモヤが光に包まれて消えた。
いいぞ! あとは怪我だ。俺は手をかざす。
『ハイヒール』
白いヒョウの体をブワンと、光が包み込み消えていった。
「治った?」
「ああ! なんと! 人間にこの様な事をできる者がいるのか!? 信じられん! どうなっているのだ!?」
「エヘヘ。良かった。もう見つからない様にね」
俺はオクソールとリュカに守られながら、その場を離れようとした。
「待て! リリと言ったか」
「うん、ボクはリリ」
「命を助けられた! 感謝するぞ!! リリとやら、我に名を付けよ」
「えー!? 名前!?」
「なんだ、嫌か?」
「そうじゃなくて。ボク、センスないんだ」
「ハッハッハ! 構わん」
ん〜、真っ白なユキヒョウだから……
「ユキだ!」
「クハハハッ!」
リュカ、やっぱ笑うよね。笑っちゃうよね〜。
「殿下、まんまですよ?」
うん、オクソール。俺もそう思うよ。でもさぁ、思いつかないんだ。
「ユキか。よい名だ! 我が名はユキ! 主を其奴らと共に守ろうぞ!」
「え……?」
あらら? もしかして……やっちまったか?