混沌の歯車
ゼスとユアラが連行された
それを聞いて私は嫌な予感が脳裏をよぎった
『私のせいかも知れない』と
しかし、この話を彼等にしてもいいのだろうか?
そして、こんな話信じてくれるのだろうか?
「……信じるに、決まってるわよね」
彼等は信じるであろう
私がこんな冗談を行ったいうタイプではないと言うこともあるかも知れない
しかし、それを差し引いても彼等は友達の言うことなら信用するだろう
「ネシス、聞いているか?」
だからこそこの事は黙っているべき
もしかしたら彼等も巻き込む毎になるかもしれない
「ネシスくん!」
はっ!
「どうしたというのだ!?今俺は怒っているんだぞ!」
基地からアストンさんの家に着き、今までの事を報告した
予想はできたけど基地に侵入したことに対してアストンさんはかなりお怒りになられた
「とりあえず基地で何をしていたか、ゼス達がなんで侵入したかはよくわかった、後は任せなさい」
「その事なんだけどアストンさん」
ライが口を挟む
これからの話はおそらくアストンさんは反対するだろう
「アストンさんは自警団に封書を渡して王様に渡すように命じるのよね?その役目に私も同行させてほしいの」
「ダメだ」
考える間もなく即答される
当然この回答は予測できた
「ライとアレスはともかく私は顔を兵士に見られているわ、それに直接基地に侵入した人間が説明した方が説得力があってよ?
私なら細かく説明できてよ」
「それでネシスまで捕まったらどうする?
兵士に顔を見られてたとしても我々自警団ご必ず守ってみせるさ」
まあ、そう簡単には折れてくれないでしょうね
「【ウロボロス】がこの近くまで来ているのは知っていて?」
「イール港が襲撃を受けていると仲間から連絡があったよ、時間の問題だといってたがね」
「私達は基地で【ウロボロス】に属している男に出会いました
彼の話を聞く限りこの街に訪れるから守りをかためなさい、と」
本当は私達の街には用はないと言っていた
「何?何故【ウロボロス】が……それは本当なのか?」
「本当に【ウロボロス】のツヴァイという男には会いましたよ」
アレスが男の特徴を簡易的に説明する
アレスが言った"会った"のは本当だ
「自警団は【ウロボロス】に備えなくてはならなくてよ」
「なるほど……しかしそれでも行かせる訳にはいかない」
……仕方ないわね
「もし、ゼスやユアラがこの事件に巻き込まれたのが私のせいなら私が責任をとるのは当然ではなくて」
アストンさんもライもアレスもなんて間抜けな顔をしているのかしら
「いったい何を言っているんだい?」
慌てたアレスが尋ねてくる
貴方にはそんな姿は似合わないわよ
「ネシス、君にしてはずいぶんお粗末な説得の仕方だね」
呆気にとられていたアストンさんも我にかえる
「これは嘘でも冗談でもないわ」
そういって私は【闇】の力を使う
「これは……」
「ネシスも飲んでいたのか?」
私の力に目を丸くするライとアレス
「いいえ、これは元々私が持っていた能力……私は能力者だったの
今まで黙っていてごめんなさい」
私がこの街にやって来てから今までずっと秘密にしていた
言ってしまえば私はこの街を離れなくてはいけなくなってしまうから
「でも、ライくんやアレスくんも能力者になったんだネシス、君が能力者と言うこととゼス達が捕まったことはなんの因果もない」
「普通の能力ならそうでしょうね
では、貴方達は私の力を見て何を感じたのかしら?」
全員が私の問いかけに黙りこくる
どう見ても私の力は他の能力とは異質なのだ
禍々しく全てを消滅させようとする闇、この街に来る前のことは何も思い出せない私が唯一覚えていた事
「私の力は【闇】そしてこれはこの世界に3人しかいない力なのよ
そして、この力は争いを呼ぶのよ」
「争いを呼ぶ?」
夢だと思っていた、いや思いたかった
「今朝、私は【神様】と名乗る者と会ったわ
会ったといっても私は夢だと思っていたのだけれど、ユアラ達が連れ去られ、兵士と戦うことになり、ライ達が能力者になり、【ウロボロス】まで絡んできた」
「その【神様】とやらは何て言ってたんだ?」
少しは疑いなさい、ライ
それが貴方の長所であり、短所でもあるのよ
そして私は今朝の事を思い出しながら話をつづけることにした
『起きろ』
寝ている私の頭の中に直接声が響く
驚いて飛び起きたが声の主は見当たらない
『目を閉じろ』
目を閉じるなら寝ててもいいのでは?と思ったが素直に従うことにする
目を閉じるとそこには人の形をした、しかし人間とはかけ離れていると一目でわかるオーラをまとった者が映る
顔には何故か霧がかかっておりよく見えず、私の身体は先程まで自分の部屋にいた筈なのに見知らぬ場所に、いるようだった
身体も動かせず、恐怖を感じた私は目を開いてしまう
『逃げるな』
またも脳に直接声が響く
「何者なの?私に用があるなら貴方が現れてはどう?」
実際あんな者がいきなり部屋に現れたらと思うといい気はしないが
『お前の人生に関わる事だ、それと私は【神】だ
貴様のような人間に指図される覚えはない』
「生憎私は神様を信じていないのよ」
自らを神と名乗る者にろくな奴はいないという持論がある
『お前の大切なものを失うことになっても良いなら私は構わない
何も知らずに【運命】の流れに身を任せるのも一考だろう、後悔するなよ?』
「待って!わかったわ」
その声が今にも消え去りそうな気配を感じて慌てて止める
大切なものを失うことになる?
目を閉じるとその者は先程と同じようにそこにいた
『煩わせるな人間風情が』
もしこの者が本当に神様だったとしたらこの世に希望はない
「で?何か私に用があって声をかけてきたのでしょう?」
『ふむ……まあ、いい
お前達にはこれから争いあってもらう』
お前達?争いあう?
『そうだ、貴様ら私が直接能力を、与えた【光】の能力者と【闇】の能力者達には争ってもらう』
「……」
この者が与えた?【闇】の力を?
一体なんのために?
『200年に一度【光】と【闇】の能力者を3人ずつ産み出し全員で争ってもらう
最後に残った一人だけ私と対面し望みを叶えてやろう』
「私は貴方と会いたくもないし望みは自分で叶えるわ」
おそらくこの者は本当に神様なのかもしくはそれに近しいなにかなのだろう
しかし、そんなふざけた争いなどごめんだわ
『自ら争わなくても他の者が【運命】
引き寄せる事になる
この世界で起こる事象、全ての人間の産まれてから死ぬまで、全てが私の手のひらの中だ』
「それでは争いあったとして、貴方のお気に入りが勝つだけでしょう?」
そんな争いになんの価値があるというのか
『お前達【光】と【闇】の能力者だけはこれ以降干渉はできない、お前等が我がもとに来るまではな』
「私達だけ貴方のシナリオ通りにはならないということね
なら尚更私が争う理由もないわ」
この者が言っている事は突拍子もないことだが理解もできる
この世界の事象は全てが全て本に記されたシナリオ通りでしかない、そんな思想も存在していることも知っている
本に書かれたシナリオは本が完成された瞬間に変わることはない
その中の登場人物はいくら生き生きと自分の信念を持っていようが所詮は作者の手の中で使われているに過ぎないのだ
そして、この者は自分がこの世界という本の作者であり全てのシナリオはこの者の思い通りと言いたいのだ
『君はなかなかに賢そうだ
確かにこれ以降君達に干渉は出来ない、行動も思想も何もかも知ることも出来ないし咎めることも
しかし、君の大切な者は違う』
お前から、君に変わったということは少しはランクがあがったのかしら、光栄ね
『君が他の能力者と争わないというなら君の周りの人間に不幸が訪れるだけだ
そして、他の能力者は戦う意志があるということを忘れるな』
「私の友達を人質に取るというのね?とんだ神様だこと」
捨て子の私にはあまり失うものはない
大切な存在は四人の友達と育ててくれた学園長だけ
しかし、その人達を危険な目には会わせたくない
『どちらにせよ、近いうちに君を取り巻く環境が一変するだろう、覚悟をしておけ』
「わかったわ、私は取り敢えずこれを夢だと思うことにするけれども一応詳しい説明をしてくれないかしら?」
近いうちに何が起こるかわからないし、この者が私が産み出した幻覚だという可能性も捨てきれない
『ルールは、簡単だ
自分以外の全ての【光】と【闇】の能力者を殺すことだ
そしたら使いのものが私の元へ案内してくれるだろう』
殺す……私にできるかしら?
ライやアレスみたいに剣を扱えるわけでもゼスみたいに弓を扱えるわけでもない
やはり能力勝負ということになる
『なんだかんだいってやる気だな……よし、気に入った!君にしよう』
自称神は何かしらウンウンとうなずき羽ペンと手帳を取り出す
「何をしているの?」
『君に近々取って置きのプレゼントをしようとおもってね、まあいずれは違う者に全て奪われると思うが……それまでは君のものだ』
全く何が言いたいのかわからなかったが、何かをくれるというのだけはわかった
『後、今回に限り今までにない特殊な事例でのゲームとなる』
ゲーム……人を争わせておいてなんて言いぐさ
そして、200年に一度と言っていたがどれくらい前から行われているのかしら?
『私が"今回"与えた能力者以外に参加の権利を持つ者が現れた』
参加の資格?
『【光】か【闇】どちらかの能力を持っていて生きているものだ』
自然に産まれた能力者の中にたまたま其のどちらかが宿ってしまった者がいるということ?
しかし、全ての事象を扱う者がそんなミスをするかしら?
『確かに私が面白くなりそうだと見のがしてしまった点はあるが、これは特例と認め参加させることにした
が、そいつは今回私が与えた能力者の誰よりも強い、圧倒的にな
これではつまらないとは思うだろ?』
最初から感じていたが何かがおかしい
そう、神という存在、そしてこの者の思考……
『そいつはこのゲームにさほど積極的ではないが、何かを企んでいる
この世界をひっくり返すような何かをな
私は神という立場、この世界を守りたい
よってその特例を倒すことができればその場でひとつ願いを叶えることにした』
「随分と太っ腹ね」
ひとつわかったことがある
この者はよくある全知全能というわけではないみたいだ
本当にその特例とやらがこのこの世界に危険をもたらすなら特例のシナリオを書き換えてしまえばいい
『私はね、楽しみたいのだよ
だから無闇に手を下したりはしない、まあ時と場合によるがね
だから、私は君にプレゼントをしたんだよ、よりゲームが面白くなるようにね』
何かしら?この違和感は
この者が神と仮定した上で引っ掛かる強烈な違和感は
「この……ゲームに他のクリア方法や抜け出し方はないのかしら?」
『なるほど!いい質問だね
クリア以外に脱け出す方法はないが、クリア方法は他にある
要は私のもとにたどり着ければいいのだよ
最後の生き残りは私の使いが案内してくれるが、もしも自力で私の元へたどり着けたらそれもクリアとしている』
たどり着ければ、ね
神と名乗るくらいだからそう簡単には会えないと思われるし、先程と"この世界"と言っていたことも踏まえて違う世界にいる可能性もある
それにはどこまでがこの世界かという定義を決める必要があるのだけれど
『たどり着く方法は教えるわけにはいかない
が、この世界にヒントは必ずある
以外ともう知っているかもしれないな』
なるほど、それも含めてゲームと言うことね
『長くなってしまったな、では君のゲームは今より開始だ』
君のゲームということは、すでに開始している人がいるということを暗示していた
「最初はきにくわなかったけど、夢にしては楽しめたわ」
目を開き自称神に話をかけるがかえっては来なかった
長い幻想の中に囚われていた、そんな感覚が先程の出来事が現実か夢なのかを曖昧とさせていた
「と言うことで私は自称神様とかいう者の仕組んだゲームに参加させられているのよ
おそらくゼスやユアラが巻き込まれたのもライやアレスが能力者になったのもその者のシナリオ通りってことね」
「そんなことねぇよ!俺は俺の意志で薬を飲んだんだ」
そう、自分の意志か決められた運命なのかなんてわかりっこないものだ
「その話が本当だとしたら大変な事だよ」
「そう、だから私はユアラ達を助ける義務がある
ウロボロス】の中に【光】か【闇】の能力者がいないとも限らないし、どちらにせよ私はここを離れるわ」
それが私の一番の恩返し
血のつながっていない私に良くしてくれた学園長、少し……いやかなり口うるさい人だけれども、それでも恩はある
ライやアレスもこの街に来たばかりで塞ぎ混んでいた私に加部をつくらず話しかけてくれた
「なら俺も行くよ」
「えっ!?」
ライの急な申し出につい声をあげてしまった
不覚だわ……ライならそう言うことも予測できた筈なのに
「だって、他の奴等が襲ってくるんだろ?
ネシスは弱いし、俺もどうせ世界一の剣士になるためにいつかはここを出ようと思ってたし」
「何を言ってるの?ダメに決まってるでしょ?
だいたい貴方達を巻き込みたくないから離れると言ってるのかわからなくて?」
嬉しい反面これ以上は決心が揺らぐから諦めてほしかった
「もしその人が本物の神様だとして僕たちが意のままに操られてるとしたら、僕達がついていくのもその神様に文句を言ってほしいね」
アレスまで何を……
「アストンさんも何とか言ってください
こんなに説明しているのに正常じゃなくてよ?」
「寧ろ俺から見たら正常じゃないのはネシスの方だと思うぞ?俺としては全員行かせる訳にはいかないが、普通この話が真実だとして君についていこうなんて思わないだろう」
わかっている、だからライ達が正常じゃないと言っていてよ
「でも彼等は自分の危険よりネシスの事を心配している
こんなに素晴らしい仲間に頼らないなんて俺には理解できないね」
「」