連なる歯車
助けることができなかった、守ることが出来なかった
己の不甲斐なさに絶望するが、まだやるべき事が俺にはある
「お兄ちゃん……」
不安そうに俺を見る水色の瞳、親父に染めるように言われたのに未だに染めていない水色の髪
ユアラだけは……妹だけは守り抜かなければ
「大丈夫だ」
大丈夫と言ったものの俺たちを乗せた船を脱出劇する方法が思い浮かばない
昨日の夜基地から出発し、朝一番に乗船した
今は、6時ぐらいだろうか?
俺の弓もユアラの剣も没収されている
「……リリィちゃん」
隣のユアラが落ち込んでいる
目の前で少女が【ナイフ】になっちまったんなんて俺も未だに信じられない
『この装置は能力者の能力だけを抽出し、元の人間とシンクロした武器を造り上げるのだよ!
……まあ、元の能力者は死んでしまうが些細な事だ』
リリィは能力者だった、いや、能力者にされたのかもしれない、奴がその様な事も言っていた気がする
「まずはこの状況をどう打開していくか……」
ひとつだけ考えられる手はある
俺のポケットの中に基地から盗んできた【インドラ】とラベルの貼られた液体のボトルがある
おそらくこれは非能力者を能力者に変える薬
これを飲めばあるいはこの状況を覆す為の力が手に入るかも知れない
「それは……だめだよ」
ユアラが悲しそうな瞳で見つめてくる
俺の考えがわかるかのように……いや、実際わかるのだ、俺とユアラは
「でも、このまま城に連れていかれたらおそらく死刑だ、それならどんな扱いを受けようが能力者になってここから逃亡者したほうが……」
逃亡したところでずっと追われ続ける生活がいつまで続くかわからない
それにライ達よりもよくわかっているつもりだ
能力者の扱いについては
「私はお兄ちゃんと一緒なら……」
死んでも構わない……か
が、俺は違う
「俺はユアラだけには生きててほしい」
俺達の街ではほぼ国の兵士はいない
俺の親父率いる自警団が全てをまかなっている為だ
しかし、殆どの市町村では国の兵士により統治されている
兵士によって統治されているところには必ずといっているものだ
奴隷同様の扱いをされている能力者が
「私もできるならお兄ちゃんに生きていてほしい、もしかしたらお父さん達が助けてくれるかも知れないし」
親父は……駄目だろうな、基本的に俺達自警団は自分の任務、仕事は責任を持って自分でかたをつける
そこには親も子もない、ましてや端から見れば俺達はただの犯罪者、弁明のしようもない
おふくろや他の自警団の事を考慮すると動きたくてと動けない立場だろう
「だったら、ライくんとか……」
ライ……か、あいつなら最後まで俺達の味方になってくれそうだ、いやあいつらなら
ライ、アレス、ネシス……それぞれの事を思い出して少しばかり緊張が緩む
「やっぱり、生きてここから脱出するぞ」
俺とユアラには手錠と足枷、そしてここは船の一室
一室と言っても客室とかではなく、おそらく能力者や犯罪者を輸送するための部屋で鉄格子がしっかりと備え付けてある
「ユアラ後ろ向け」
手錠と足枷はどうどでもなる、鉄格子も時間はかかるがやってやれないことはない
問題はその先にいる兵士だ
武器も何もない俺たちじゃ"あいつ"には敵わない
いや、武器をもっていても敵わなかった
「次は俺の手錠を、頼む」
あいつの武器は能力者から造った【水の槍】
初めて基地であったとき対処法もわからず、捕まってしまった
「よし、後は……」
少なくとも能力者と同じ力を持つ武器を持っている奴に丸腰では話にならない
ポケットの液体を……
「おい!何やってる」
ポケット液体を俺が取り出すとそのままユアラに引ったくられてしまった
「私が……飲む」
そういったユアラをボトルの封をあける
取りかえそうとするがユアラ相手じゃ無理に決まっていた
「多分この薬、若いほど効き目がいいんだよ
だからリリィちゃんを拐ったんだとおもう、それに人さらいで捕まった人はみんな子供だったみたいだから」
だから、私のほうが適任だよ
そう言ったユアラは液体を数口飲み干す
どんな副作用があるかもわからないもの……油断した
「……大丈夫か?」
ユアラの表情は変わらない、ただすぐさま苦しんだりはしてないから少し安心した
「大丈夫……多分だけど」
そういいながらユアラは前方に手をかざす
「なんだよ、それ……」
ユアラの力を垣間見た俺は少し、いや結構絶望した
ユアラは能力者になってしまったのだ
心のどこかで失敗して、なおかつ副作用も何もないことを期待していた
そしたら次は俺の番、それで俺だけ能力者になればユアラにはまだ重荷を背負わせずに済んだのに
「俺も飲む」
隙をついてユアラから液体をひったくる
ユアラだけに背負わせる荷物なんてありはしない
「なんで!」
取り返そうとするユアラだがもう遅い
頼む……俺も能力者に
身体の奥底から力が沸いてくるような頭の先から爪先まで見えない何かと合体したような奇妙な感じがした
「ユアラだけに頼れるかよ、俺はお兄ちゃんだぞ」
怒りの表情は変わってないが安堵の気持ちは伝わってくる
しかし、どうやって使うんだろうか?
ユアラはすぐに能力を使って見せたが実際に俺は自分がどんな能力に目覚めたのかもわからない
「……失敗したのか?」
能力者になれずしかし、副作用もない、俺がそのパターンだったのか?
さっき感じたのはただの勘違いの恥ずかしいやつなのか?
「大丈夫、お兄ちゃんは能力に目覚めてるよ」
さっきまで怒っていたが今は穏やかな表情をしている、まるで子供を慰める母親のように
「そっか……でもどんな能力かわからないんだよな
ユアラはすぐにわかったのか?」
「うーん、勘かな?もしかしたら今、ほしい力が備わってくれるかもって」
なるほどね、目覚めた時にほしい力か……んな分けないだろ
「なら、俺はこうかな」
ユアラの手を握り俺は内なる能力を操るイメージをする
昔から出来ないことはまずはイメージトレーニングからだ、頭で何度も何度も繰り返して……
「……すごい!さすがお兄ちゃん」
これが、俺の力か……悪くない
親父から自警団からユアラから様々な人から力の使い方を学んできた、それが今、生かされたのだ
「しかし、なかなかに体力が必要性だな……」
能力によるのかもしれないが少し使っただけでもなかなかにキツかった
「そうだね、多分リリィちゃんはもっと……」
しゅんとするユアラ
そうだ、リリィの力はこんなものではなかった
最後の抵抗をしていたリリィ
能力者にされて手錠をつけられ、【ヴリドラ】とか言われてた機械に入れられそうになったときリリィの力が爆発した
『す、素晴らしい!今までの実験体のなかでも抜群によい!能力を抑制する手錠をつけていてこの威力!君は素晴らしい武器になるよ』
風……といえば全体的に空気が流れる感じだがリリィの力は一点に風の力を放出させていた
その壁は実験室の壁をも易々と破っていた
後にユアラはあの風が龍に見えたという
「俺達はこの能力でここから脱出する、それけら親父に使い鳥で事の経緯を報告して、親父の指示を待つ」
静かにうなずくユアラ
「この能力は今の俺達には最高かもしれない、がこの先危険な事もあるだろう、最善を尽くしたい
その為の作戦だが……」
俺とユアラ、二人の能力がわかったのか時、ふいにひとつの戦法が思い浮かんだ
「わかったよ、これは私達にしかできないね」
俺の考えてることがわかったユアラはニヤリとする
そう、俺達にしかできない戦法だ
絶対に生き残ってやる
*
*
鉄格子を脱出した私達は部屋の扉をあける
この先に私達を捕まえた兵士がいるのだろう
「能力で見つからずにだなできないかな?」
無理だろうな……お兄ちゃんは答えなかったけど、リスクがあるんだろう
「よし、いく……」
「襲撃だ!」
お兄ちゃんが扉を開けようとした時、扉の外で爆発音がした
その後すぐに兵士が叫んでいた
「敵襲?国の船にか?」
扉の前で固まるお兄ちゃん
他の国からの攻撃だろうか?まさかお父さんじゃないよな?なんて考えを巡らせている
「とりあえず出てこの目で確かめよう」
意を決したお兄ちゃんがどんな開く
切れ長で金色の瞳はカラーコンタクトというものらしい
髪の毛も後ろで束ねて、黄緑に染めているお兄さんにはとても似合っていた
「……どうなってるんだ」
扉を開け、誰もいなかったので外の様子を隠れて伺ったお兄ちゃんが驚愕している、どれどれ
「あの人たち何者なんだろう」
お兄ちゃんの目から少なくとも六人の人間が兵士と争っていた
そう、私達はお互いの視界を、考えを、ある程度は共有できる
昔はお互い恥ずかしかったし、能力者なのかもと恐れていた時期もあったけど、見ようとしなければ見えないので互いにルールをつくり、この力に気づいたのもだいぶ幼い頃だから能力ではないだろうという結論に至った
これは絆の力だと
「あいつら、やべぇぞ」
お兄ちゃんは戦いをみていたみたいだけど、ふと人の気配がしたので見てみるとそこにはあの水の槍を持った兵士と最低な科学者が逃げようとしていた
「お兄ちゃん!」
私の声かけにすぐさま反応してナイフを投げるお兄ちゃん
ナイフがあたった船がみるみる凍っていく
「くそっ!誰だ!」
ここを脱出する前にお兄ちゃんと作戦と目標を立てた
第一目標は無事に生きて脱出すること
第二目標は……
「あの兵士と科学者みたいな奴はいかしちゃおけねぇ」
だった
「お前ら、どうやってあの牢から出た?それにこの力……」
兵士は攻撃したのが私達とわかると槍を構えた、心なしか余裕そうだ
「ユアラ、一気にかたをつけるぞ」
そう言ったお兄ちゃんが手をかざす
「大丈夫」
お兄ちゃんの手から渡された氷の剣を持ち兵士退治する、とても冷たいが握り手が滑らないようにしっかりと持つ
「剣で槍に勝とうなど……ましてや、俺の槍は水の槍!変幻自在の乱擊見切れぬまい!」
何を馬鹿なことを……
水と成った槍が二又となり私達両方に襲いかかる、が
「"氷"の力を、見てなかったのか?」
二又は氷となり止められる
「そんなこと計算済みよ!」
しかし、その氷からも水が出てきて私達を襲う
これでは堂々巡りだ
「お遊戯はこれくらいにしましょう」
兵士の頭に?が浮かんでいるだろう
なんせ私が兵士の後ろにいるのだから
「貴様!いっ!」
皆まで言わせず首を切り落とす
慌てて逃げ出した科学者だが関係ない
「ひぃぃ!」
「さようなら」
目の前にいきなり出てきた私に驚いて尻餅をつく科学者
その心臓を氷の剣でひとつきする
「ユアラ!」
危ない!とどっちかで聞こえた気がして振り向き様攻撃を、受け止める
「お前ら何者だ?」
「あなたたちこそ」
顔に切り傷のある目付きの悪い男が大剣を振りかざしている
おそらくこの船を襲った敵なのだろう
「俺達は【ウロボロス】だ」
【ウロボロス】……聞いたことがある、能力者の集団で各地で町や軍の基地なんかを、襲撃しているテロ組織
「ここで、なにしてる?」
ギロリと睨まれるが怖くはない
「私達は兵に捕まって城に連行されてたの、助けてくれてありがとう」
「ふざけてるのか?あの兵士達を殺ったのはお前たちだろ」
まあ、誤魔化されないよね
どうしたものか……
私が悩んでいるとお兄ちゃんが近くまでくる
「見逃してくれないか?俺達もあんたたちの事は他言しない」
「そいつはできねぇな」
お兄ちゃんの頼みを断ったのは違う男だった
「よっ、と」
どこからともなく飛び降りてきた男はニヤリと笑みを浮かべる
笑っているが眼は笑っていない
ツンツンとした黒髪で目付きが異常に悪い、ザ・極悪人って感じだ
大剣の男は三十代後半に見えたがこの男は二十代後半に見える
「俺達はこの世界に復讐するんだ、その為に強い能力者が必要でね、仲間になれや」
男はニヤニヤしながら手を差し出してくる
「テロ組織の、仲間になれってか?ごめんだね」
お兄ちゃんが男の目を見据えてキッパリと断る
私が今、やらなくてはならないことは……
「なら、死ねよ
おいっ!お前ら!」
男が合図すると男女三人ずつ、計六人が現れた
先程兵士と戦ってた人たちだろう
8人か……
「うわっ、まだ子供じゃん!こんな子も兵士なの?」
中性的で男か女かわからない二十歳くらいの人
「子供かどうかは関係ないことだ、我々の敵か味方か、それだけだ」
ひょろ長い眼鏡をかけたオールバック男
「で?やるの?やんないの?」
見たこともない動き易そうな、おそらく和服を来ている女の子
この子は多分お兄ちゃんと年が近そうだ
他の三人は口こそ開かなかったが私達を値踏みするような目でみている
「こいつらは俺様の誘いを断ったの異端能力者だ、よって死刑だ」
ニヤニヤした、男が最初に口を開いた中性的に指示を出す
「新入り!お前が殺れ」
「えっ!ボク?」
新入りと呼ばれた中性的はものすごく嫌そうな顔をした
「ボスの指示だ、従いなさい」
口を開かなかった三人の一人が中性的を睨む
髪が長くとても綺麗な女性だった、慎重も高くモデルみたい
この8人もだが人数が人数で私達が子供だからか緊張感というものがない
も、というのは私もだけれど
「……ユアラ」
お兄ちゃんの合図で手を繋ぎ"瞬間移動"する
「逃がしませんよ」
オールバックメガネがすぐさま追跡してきたが問題ではない
これで2対1
「おらよっと」
オールバックメガネを氷漬けにする
逃げるとばかり思っていたのか簡単に罠にかかった
「生意気だね」
オールバックメガネを氷漬けにしていると背後から和服さんが喉元にナイフのようなものを突き立ててくる
「意味ないですよ」
あの軽装からに速さがウリなのだろう
瞬間移動に勝てれば、だが
「厄介な能力だね」
ナイフのようなものを何本も投げてくる和服
氷の壁を作って弾く
「あの中でヤバイのは?」
「あのニヤニヤした人、でも大丈夫」
私の役目は8人全員を値踏みすること
少くとも最初の大剣、オールバックメガネ、和服は私達一人で三人を相手しても負ける気がしない
「あーっ、うっとおしい!」
和服がナイフのようなものを投げる
氷の壁で防御する、が
「貫け!」
ナイフのようなものに力が宿る
この力は……!
「ユアラ!」
間一髪のところで瞬間移動する
「今の力はリリィと同じ……」
間違いなく"風"の力だ
こんな戦いの中でも守れなかった女の子を思うと胸が痛む
「お兄ちゃん!」
お兄ちゃんの手から氷の剣を受けとる
「ふっ、氷かい
私はね風の一族の唯一の生き残り……一族を皆殺しにしたこの国に復讐するために【ウロボロス】に入った、邪魔するなら容赦はしない!」
「そうですか」
関係ない
誰が、どう、何をもって、何をしようとしているのかなんて
私達は生きてここを脱出する、ただそれだけだ
彼女の攻撃はナイフのようなもので直接狙ってくる接近戦となってきた
リーチが剣より短い分不利になりそうなものなのに……
「……痛っ」
なるほど、見えない風の刃でリーチを伸ばしている
風だから受けることもできない、……仕方ない
「ユアラ!やめろ」
矢のような言葉にハッとする
「……なにっ!」
首筋に剣を当てられた和服は身を見開いて驚いている
見えないはずの風の刃を掻い潜り、ナイフのようなものを受け流し一瞬で間合いをつめる
瞬間移動ではない、人力だ
「能力ではありません、これが力の差です」
和服は悔しそうに両手をあげ降参の意を示す
「ユアラ!あったぞ!」
私が戦闘をしているなか完全にサポートしながら私達の武器を探していたお兄ちゃんが私の剣と弓をもって来てくれた
「お前らやるな!」
ニヤニヤしていた男が余裕といった感じで拍手をする
「何故、加勢しなかったんですか?」
オールバックメガネはおいといて和服との戦闘中には加勢できた位置にいたのは確認していた
「強いやつと戦った方がこいつらの経験にもなると思ってな」
経験……もしお兄ちゃんが止めなかったら和服さんは殺していたかも知れないのに
「じゃ、そろそろしまいにするか」
男の足元から黒いモヤが現れる
「待って!ボクにやらせてよ」
男と私の間にいつの間にか中性的が入り込んでいた
……いつの間にか?
「なんだよ?嫌がってたじゃねぇか?それに新人てめぇじゃ無理だ、ガルメスや纏がやられてるんだ」
ガルメス、纏おそらくオールバックメガネと和服のことだろう
「負けたら埋葬よろしくっ」
中性的は私ではなくお兄ちゃんの元へ一直線に、むかった
大丈夫、お兄ちゃんには攻撃は……
「ぐがぁぁ!」
ものすごい音と共に壁へと激突……いや、壁をお兄ちゃんもろとも突き抜けていく
「なんで!?」
あり得ない、お兄ちゃんは私の剣の練習相手として毎日鍛練している
わたしの速さについてこれ、受け流し、勘も鋭い
そんなお兄ちゃんが……
「お兄ちゃん!」
船室に入り込んでしまったお兄ちゃんの元に行くとお腹を押さえ、気を失っているお兄ちゃんとベットに座っている中性的がいた
「弱いねぇ」
最初に値踏みしたときとは違うヤバい感じ
お兄ちゃんを、助けなければならないのにからだがうごかない
「キミはどうする?」
ニコッと笑いかけてくるが全然笑えない
得たいの知れない化け物が目の前にいる
「正解」
中性的……もとい化け物は私に手を差し出す
今からでも仲間になれ、と
「ボクの仲間にならないか?」
ボクの?
「ボクはある目的の為に【ウロボロス】にいるんだけど、抜けたときのために仲間がほしいんだ」
「なんで、私達なんですか?」
やっと声を出せるようになったが、多分化け物の殺気が先程より弱まったからだろう
「キミはいい目をしている
相手の実力を見定めるいい目だ、それに戦いのセンスもある」
戦いのセンスといってもまだ化け物とはなにもしていない
「今は能無しのふりをして仲間に入り込んでるんだけど、このままじゃ追い出されそうでね、目的の為に君達を仲間に引き入れる手柄を立てたいんだ」
「その為に仲間になれと?」
「もちろん、キミ達が良ければボクの最終目的まで一緒にいてくれると嬉しいよ」
最終目的?
しかし、この状況断る訳にも逃げ出す訳にもいかない
お兄ちゃんもそうなんだろうけど、化け物の威圧感からか力がうまく出せそうにない
「ボクの名前はアクア、化け物じゃないよ」
心が読めるのか私の目がそえ、訴えていたのかはわからないがアクアさんは再度手を差し出した
「私はユアラ、お兄ちゃんはゼスです」
恐る恐る握手をかわす、意外にも暖かなその手に驚いた
しかし、実際のところは悪魔との契約みたいなのだろう
「おーい、新人!やられたかー」
丁度手を離した時、ニヤニヤ男が現れた
やられたかって……やっぱりこの人は
「この話はヒミツね」
ニコッと微笑むアクアさん
こんな素敵な笑顔の悪魔との契約なら……と一瞬考えてしまった
「んだ?生きてたのか……力ずくでぶっ飛ばしやがって、能力の制御くらいしやがれ
男の方はのしたみたいだが、女がまだじゃねぇか」
「この子達は諦めて仲間になるってさ」
アクアさんがニコニコと私達の紹介をする
「ガルメスと纏をやっといて何を今さら……といいたいところだが、俺達は実力主義だ!あの二人を油断してた事もあるだろうが、いなしたのは評価してやる」
油断……ね
確かに二人ともまだまだ余力はありそうだった
しかし、少くとも纏さんは実力の差を感じて身を引いた筈だ
「そいつを叩き起こして外にこい、作戦会議だ」
男はいつものニヤニヤはなく鋭い、怒りや憎しみが感じ取られる瞳で言った
「俺の名はバルザ【ウロボロス】のリーダーであり、俺達能力者を使ってきた非能力者に裁きを下す者だ、覚えとけ」
私達の街では見掛けないがお父さんとの任務でさまざまな地を見てきた私には能力者の怒りがなんとなしに分かる気がした
ある街ではエネルギー源とされ、延々に能力を使わされ、少しでもエネルギー量が足りないと付けられた首輪から電流を流されたり
ある小国では隣の国との戦いに無理矢理能力者を戦わせ国の代理戦争の道具として使われたり
私は見たことはないが、裕福な国では闘技場に魔物と能力者を戦わせてどっちが勝つかを賭ける賭博場もあると聞いたことがある
「ついでに言うと神に選ばれた六人の一人だ」
バルザはそういうと部屋を出ていってしまった
裁きを下す者や神から選ばれたとかとても恥ずかしい事を言っていたが、神のくだりでアクアさんの表情が一瞬変わったのを見逃さなかった
「神に選ばれたとは?」
もしかしたら、アクアさんの目的と関係があるかも知れない
「……とりあえずゼスくんを起こして行こう」
アクアさんは私の問いに答えるか迷った挙げ句それ以上は何も言わなかった
*
*
「お兄ちゃん、起きて」
……ん?ここは……
「っ!敵は!」
そうだ、俺は敵の小柄な男か女か分からない奴に腹を殴られて……
避けようと思ったができなかった
本当に一瞬ものすごい殺気で体か硬直してしまった
「おはよう」
そして何故かそいつが俺の顔を覗きこんでニコニコしている
「てめえ……ユアラ、どういう状況だ?」
あいつとユアラがいっしょにいる……考えたくはないがまた俺が足を引っ張ったのだろう
ユアラは強い、ライや他の奴には隠しているが俺はユアラより戦闘面で強い奴を見たことがない
また、というのは昨日の水の槍も俺が水に捕まりユアラが降参したのだ
「君達はボクの仲間になったんだよ」
そう言ったやつに続いてユアラから事情を説明される
(こいつ、そんなにヤバいのか?)
(まだ全てを見てないけど、アクアさんは化け物だと思う、片手で一国を滅ぼしそうなくらいには)
奴にばれないように心で会話する
片手で一国って、それはいくらなんでも大袈裟な
「で?アクアの目的はなんなんだよ」
「あれ?ボク自己紹介したかな?まあ、いいけど
とりあえずバルザが待ってるから行こうよ、あまり遅いと怪しまれるからね」
バルザとはニヤニヤの事だとユアラが言っていた
ニヤニヤって……他に特徴あるだろうよ
船室を離れたアクアを、見てユアラと目配せをする
(駄目、逃げられない)
俺達は諦めてバルザの元へいくことにした
「よう、遅かったな!そんなに新入りのパンチが痛かったのか?」
外に出るとバルザ質が待ち構えていた
氷漬けにされたメガネもむっつりとした表情でこちらを見据えている
「俺達の目標はこの世界を変えることだ!能力者が不当な扱いを受けている世界を、非能力者をぶっ壊し能力者の世界をつくる、その為にまずは【アスタルト】を手中に納める」
いきなりすぎてピンと来ないがとりあえず【アスタルト】を占領しようということか
何故この世界に無数にある国で【アスタルト】を選んだのかは知らないが他の国が狙われてたなら俺達は逃げられたのかも知れない
この世界には大小さまざまな国が存在しているが、【アスタルト】は三大大国の一つとなる
三日月の地形をしているのが特徴的で周りは山や海が多く他国から侵略がされにくい
しかし、三日月の端と端は陸路を移動するにはなかなか日数がかかるので俺達の住む下半分と城のある上半分では船を使った移動が主になるのが欠点ではある
「まずはイール港を占拠し半時計周りで陸路から城へ、その間国の基地があれば破壊し、能力者達を解放していく
イール港を占拠すれば城からの援軍も追い付けないくらいには時間を稼げる」
「でもいずれ挟み撃ちにあうよ」
バルザの作戦にアクアが口を挟む
当たり前の話だ、俺達がいく先々で基地を破壊などしていたら、確かに国力は多少減らせるだろうが時間がかかる
いくら一時的にイール港を使えなくしたところで城から時計回りに、イール港方面から半時計回りに進軍されたら簡単に潰されてしまうだろう
「イール港には纏とカインを残していく」
バルザは二人に指を指す
纏は先程戦った、俺が知る限りでは【忍】と呼ばれる一族の格好をしている女だ
任務で一度だけ【忍】の住む里に招かれたことがある、俺は親父と二人で里に入ったがああいう格好をしているやつがいたのを覚えている
「二人で足止め?無理だろ」
「奴らが水路を使う限り止めて見せる」
カインと呼ばれた男が初めて口を開く
「それにヤバくなれば撤退してもいい、とりあえず出来るだけ時間を稼げればな」
バルザは意味深な表情で髪の長い美女に目配せする
「任されました」
何か策があるようだが俺達に教えるつもりはないらしい
ということはイール港をとりあえず占拠するのか……
「俺達は港に顔見知りもいるんだぞ!」
イール港は俺達の街が最も近く俺やユアラは仕事で何度も足を運んでいる
そんな俺達がイール港を襲える訳がないし、顔を見られたらさらに親父達に迷惑をかけることになる
「んだよ、めんどくせぇな」
「では彼らには基地の破壊を任せましょう」
あからさまに苛立つバルザに髪の長い美女が提案する
基地って言うのは俺達が侵入した基地の事なのだろう
「イール港制圧組と基地制圧組に分けるわけだがどうする?」
「私とカインはそのまま港に残る訳だから港制圧組がいいわね」
バルザの問いに纏とカインが手をあげる
「ボクは一般人を巻き込みたくないかは基地がいいかな
港組が滅茶苦茶暴れて基地の兵をおびき寄せてくれると助かるな」
アクアが基地組に名乗りをあげる
おそらく俺達を見張りたいのだろう
「兵士だろうが一般人だろうが、関係ねぇ……が確かにイール港で先に暴れるとなると、基地から援軍もくるか……なら俺も港だな」
どうやらバルザも港組で決定したようだ
「おい!新人とガキどもじゃ不安で仕方ねぇガイガルド、ツヴァイ!お前らも基地へ行け、ガルメスは俺と、リンシィは例の計画を進めろ!」
ガイガルドと呼ばれた最初に大剣を振りかざしてたおっさんと未だに何も話さないツヴァイという男が俺達基地組に入ることになった
「あの……」
ふいにユアラが手をあげる
「あん?」
「何か顔を隠すものがほしいんですけど……」
確かに実際に手を下さないとはいえ、こいつらと船で降りたら仲間だと一発でばれてしまう
「……リンシィ」
バルザはめんどくさそうに美女に顎で指示を出す
そういえばリンシィはどっちにも属さない違う計画ごあるみたいだが……
「……この紙に好きな絵を描け、それを面にしてやる」
リンシィもめんどくさそうに俺達に紙を渡す
俺は絵心がないのでユアラ任せることにする
「これでお願いします」
ユアラの絵は見覚えのあるものだった
リンシィはその絵をよくも見ないで紙を小さく畳み手で握る
そして、両手で面くらいの大きさの輪を作ったかとおもうとその輪が光始める
「すげぇ!」
するとあっという間にユアラが書いた絵の面が出来上がっていた
渡された面を触ってみるが紙ではなくしっかりとした素材だった
鉄かとも思ったが鉄よりは重くない
「私はいくぞ」
そう言ったリンシィはひとりでに海に飛び込む
「えっ!待ってくだ……えっ!?」
驚いて追いかけたユアラが再度驚く
海に飛び込んだと思ったリンシィは小型ボートのようなものに乗っていた
さっきまでそんなものはなかったのに
「彼女の能力、便利だよね」
「ちゃんとお礼したかったな」
のんきな事を言っているアクアとユアラ
あの能力、便利とかのレベルを越えている
世の中には様々な能力者がいたものだ
「よし、纏!全力前進だ」
「戦闘前に力あんまり使いたくないんだけど……」
ぶつぶつ文句をいう纏だが風の力を使って波を起こし、帆に風を受けさせスピードをあげていく
纏か港での足止め役なのはこの能力があるからなのだろう
「港の近くに敵の船が待ち構えてるな……さすがに連絡はされてたか」
カインという男がバルザに報告すると、バルザは何かしらカインに指示を出す
「わかった」
カインは船の先端に立ち、敵の船に向かって手をかざす
爆音が鳴り響く、音に遅れて衝撃から出た波が俺達の船を少しだけで押し戻した
「……」
カインは何も言わずにバルザの元へ報告にいった
爆発の能力だと思われるが目のいい俺でさえやっと見えてきた位置の敵をあそこまで正確に爆発できるとは恐ろしいものだ
「凄い音だったね」
「後三回はやるかな」
のんびりと潮風にあたっているユアラとアクア
後三回?アクアの謎の予言はその後すぐに的中した
「ようやく着船か」
港で張っていた四隻の敵船はカインによって全てゴミと化していた
俺達の船は港につけたところで兵に囲まれてしまう
「俺がやる」
先程カインを観察していたが彼は基本的にバルザの忠実な部下に徹していた
そのせいかはわからないが、目の隈が酷く常にめがけギラギラしていて山賊や盗賊みたいな狂気をはらんでいるようにみえた
「待て、お前ら!何者だ!」
兵士のひとりが剣を構えるがその瞬間発砲音と共にたおれる
俺がやる、その宣言通りカインが銃で頭を撃ち抜いていた
「俺達は【ウロボロス】だ!国の犬ども能力者を虐げた報いを受けろ!」
バルザは片手を振りかぶると兵士達の足元から黒いオーラのようなものが出てくる
「な、なんだこれは!」
兵士達を包み込む黒いオーラ、その正体はわからないが、完全に包み込んだと思ったら跡形もなく消えてしまった、兵士ごと
「これが、神に選ばれたものの能力だ」
バルザは満足そうに言うと占領するために先へ進む
カイン、纏、ガルメスも後に続く
「俺達はこっちだ」
強面のガイガルドが基地の方向を指差して先導する
「そういえばあの男は?」
「ツヴァイさんなら先に上陸してたよ」
船から降り人数が合わない、そうかツヴァイとかいう奴がいなかったのか
「よく見てたな、気付かなかった」
カインに気をとられてたとはいえ、ユアラ以外信じられる者がいないこの場でなんたる気の緩み
「私もアクアさんに聞いたんだよ、彼は水を操る能力者だって」
先程からやけに仲良さげに話していたが、ユアラはしっかりと情報を手に入れていたようだ
(他に何かわかったことは?)
(基地占領の時に話すって)
(アクアと仲良さげだがテロ組織なんかと仲良くするなよ)
(大丈夫だよ、上手にやるから)
心で会話をしながら周囲を伺う
大丈夫、ばれていない
心で会話できるのは俺達の切り札の1つだ
「ツヴァイ、俺だ、ここを開けろ」
イール港は船着き場の周りには国の許可を得たお店以外ほとんどは軍の拠点となっており、その先少し進むと兵士や船乗り、またその家族が住むエリア、その先が住民のエリアとなっており、基本的に買い物等は住民エリアで行われている
俺達が住民エリアに差し掛かった時、普段ではあり得ないものが存在した
「これは……結界?」
半透明のうっすらと紫色にもみえる壁、壁なのか膜なのかはわからないが、俺達は通ることが出来なかった
俺達の街にも学園長が築き上げた結界があるが、普通は魔物等が街に入らないようにするもので町中にあるようなものではない
それに結界とは相当高度な技術だと昔ネシスが言っていた
大きな都市などには当たり前にあるが、小さな村などには無いところのほうが多い
もちろんイール港は国の上下を繋ぐ上で重要な場所であるから、外から守る結界はあって当然なのだが
「通ってください」
言葉と共に俺達の前だけがぽっかりと穴が開いたように結界が消える
「なんで結界なんて?」
「兵士を逃がさず殲滅するためですよ、これは特殊な結界で一方通行となっていますので援軍は入れても逃げることはできません」
困惑気味のユアラに涼しい顔で説明するツヴァイ
こいつが話しているのは見たことがなかった
「どうせなら全部囲えばよかったのによ」
「無茶言わないでください、短時間でこの結界はこれが限度です」
悪態をつくガイガルドだったが、実際は驚いているのだろう
これほどの結界を短時間で築くことができるのなら一生食いっぱぐれはないはずだ
「さあ、行こう」
アクアが短く、しかしどこか満足げに歩み始めた
「ここが基地か……」
援軍を要請するならこの基地が一番近い
イール港に向かう兵士とかち合わないように、少しだけで遠回りになってしまったが無事基地につくことができた
「いくぞ!」
「待ってください」
正面から堂々とはいろうとするガイガルドをツヴァイが右手で制す
「こういう基地には裏にも出入り口があるものです
ここは2手に別れませんか?」
「てめぇ、そういってガキのお守りをさせる気じゃないだろうな?」
ツヴァイの提案にガイガルドは訝しげな表情で文句を言う
「あなたが正面なら、私は裏から……この者が邪魔というなら結界にでも閉じ込めておきましょう、それなら逃げられる心配もありませんし」
そういいながら俺達を覆う結界を一瞬で造り上げる
「おい!ボクをこんな子供と一緒にするなんて!ボクも一緒にいかせろ!」
「うるせぇ!新人はガキのおもりがお似合いだ!」
ふてくされるアクアにガイガルドが渇を入れる
ツヴァイはアクアを、ちらりと見たが特に何も言わなかった
「じゃあ、お前らここでおとなしくしてろよ!」
完全にあいつは俺達の事を見下してるがユアラの見立てだとガイガルドはユアラよりは格下の筈だ
「では」
ツヴァイは素早く基地の裏側に行ってしまった
*
*
「ようやくゆっくり話ができるね」
ガイガルドさんとツヴァイさんが基地に向かってすぐにアクアさんがゆっくりと伸びをしながら笑う
「あ、ゼスくん、気を悪くしないでね
ガイガルドは君達よりよわっちぃから態度が大きいんだよ」
弱いから態度が大きいの?よくわからない
「弱い犬ほどよく吠えるってやつか」
お兄ちゃんは憎々しそうにガイガルドが使った先を睨む
「だいたいあのツヴァイってやつもだ、こんなところに閉じ込めやがって……」
「それは僕たちに話す時間をつくってくれてんだよ」
えっ?
アクア思わぬ返答に俺達は顔を見合わせてしまう
「ツヴァイさんも、仲間なんですか?」
「うん、ボクとツヴァイ、君達二人で四人だね」
しれっと答えるアクアに怒りすら沸いてこない
そういう重要なことは先に言っといてほしいものだ
「だから住民エリア前に結界を?」
「そう、察しがいいね
住民には避難するようにツヴァイが仕向けてる筈だし、ツヴァイが戻るまではバルザ達もあそこから出られない、ほら君たちの知り合いがいるかもだし」
ニコッと笑うアクアさん
普段は本当に力を隠してることがよくわかる
今のアクアさんなら勝てそうだと錯覚してしまう
「なるほどね、で?アクア、お前の目的はなんだ?なぜ俺達を引き入れた?」
「まずは何故引き入れたかについて話そうか
理由は2つあるんだけど、一つは仲間が多いほうが楽しいだろ?」
アクアさんは、だろ?と言われても……って顔をしているお兄ちゃんを楽しそうに見ている
「二つ目は目的を達成する途中、多くの人が死ぬかも知れない事態に陥る可能性が高い
ボクはその時自由に行動できないかもしれないし、仮に動けても世界中で起こりうることには対象できない
だから、君達には一人でも多くの人が助かるように力と知識を蓄えてほしいんだよ」
「その大勢の人が死んでしまうってのは?」
目的を達成する途中ということはアクアさんがやろうとしていることが原因のひとつとなっているのだろう
「それはボクの目的を話す必要があるんだけど……それは教えられないんだ」
気まずい空気が流れる
うーん、そっか、教えられないかー、なら仕方ないね
「ってなるかぁ!」
お兄ちゃん私の心に思わずツッコミを、入れる
突然のツッコミだというのにアクアさんは驚いた様子はない
「お前の目的の為に大勢の人が死ぬかもしれない?
より多くの人を助けるために俺達みたいな仲間が必要?でも目的は話せない?
ようはお前の尻拭いを訳もわからずやれってことか?」
「要約するとそういうことになるね
嫌なら別に構わない、違う人を仲間にいれるか諦めるから」
嫌なら構わないということは解放してくれるのだろうか?
でも、もし私達が仲間になることによって救える命があるとするならば、ここから逃げるのはその命を見捨てる、私達が殺したのと変わらないのではないか
「ボクは君達の才能を買いたい、でも無理強いはしない
【ウロボロス】を抜けた後も大変だと思うし、もしかしたら命を落とすかもしれない
無茶苦茶なのは承知している、でも目的は話せないしツヴァイも知らない」
ツヴァイさんも知らない……私はてっきり二人が同じ目的をもって行動しているんだと思った
「正直ユアラを危険な目に会わせたくはない、が今更感も拭えねぇ
俺達がいれば本当に救われる人がいるってんなら手を貸してやりたい気持ちもあるが、悪事に加担もしたくない、ユアラはどう思う?」
「…………信じて……いいんですか?」
色々考えた、家族の事、友達の事、最近の出来事
それに、今までの私とこれからの私
「アクアさんの目的は多くの人々を死に晒すよなリスクがあったとしても達成すべきである崇高な事だと!
そして、私達や他の人の協力があればそのリスクを極限まで減らせる事を!」
「崇高な事なんてボクには出来ないさ、けどボクはやらなくてはいけないと思っている、例えどんなに辛く、どんな犠牲を払うことになっても
それがこの世界に住む人にとって必要なことだと思うから
その為なら迫り来る敵は倒すし、必要となれば仲間を見捨てる、邪魔をするやつには容赦はしない
けど、できることなら助けられる命は助けたい
これがボクの本心だ、これだけは信じてほしい」
世界に住む人にとって必要なこと……私はそれを崇高な事だと思う
「目的をみんなに話せば協力してくれるかもしれないぞ
【ウロボロス】の連中は無理だとしても世界の人にとって必要なことなら国とかに言って手伝ってもらったほうが……」
お兄ちゃんの言っていることはよくわかる
世界を巻き込む大事なら個人で解決するよりもよっぽど現実的だ
「目的を話すとその目的が達成できなくなるとしたら?
その目的はとんだおとぎ話で誰も信用できないような話だとしたら?
そして、その目的を果たすためには世界を敵に回す可能性があるとしたら?」
そんなの最初の時点で言えるわけがない
アクアさんはそんな重荷の中目的を達成しようとしているの?
それはどんなに辛くて大変な事なんだろう
その中で他の人に気を回しているアクアさんはどれくらい強い人なのだろう
「なら、言わなくていいよ
これから行動を共にして見定めるから、アクアさんが間違ってるって思ったら停めるかもしれないけど」
「止めるのもやめるのも構わない
何を感じてもボクの事を信じて欲しいけど、今日初めてあったキミ達にそれは無理な話だよね
けど最初に言っておく、邪魔だけはしないでくれ、キミ達を殺したくはない」
じっと見つめるアクアさんの瞳はとても悲しそうだ
仲間になってほしい、が敵になれば殺す……か
「本当に滅茶苦茶な事いってるな
ユアラ、本当にこいつらと行動を共にしていいのか?」
そんなことを言っているお兄ちゃんも心のなかでは答えは出ている
こういうときお兄ちゃんはいつも私の気持ちを優先してくれる
私とお兄ちゃんだけの秘密
《死んでも語り継がれるような、そんな人生を送りたい》
「私は内心このまま自警団に入って、誰かと結婚して、子供を授かって……そんな人生を歩むと思ってたの」
でも昨日事態は一変した
ここでアクアさんと離れてもそんな人生は訪れないだろう
「みんなの前では弱い女の子のふりをして輪を乱さないように振る舞ってた、アクアさんに会うまで勝てないと思った人いなかったもん」
誰にも嫌われず、争わず
嫌な事も文句を言わず、ただただお兄ちゃんや自警団のからにこもって
「でも、こんな人生間違ってるってずっと思っていた
変だよね?誰にも強制されてないのに、自分で選んだ生き方だった筈なのに」
本当は……
「本当は何か大きな事をしでかしたいの、私
自分の能力の限界を知りたい、もっと広い世界に出たい、もっと強い人と戦いたい
アクアさんについていったらそれが叶う、そんな気がするの女の子なのに変かな?」
お父さんはお兄ちゃんばかり危険な任務に連れていく
ユアラは女の子なんだからって
お兄ちゃんより私の方が強いのに
お母さんは女の子は愛嬌大切だという、好き人と出会い仲の良い友達と暮らせることが一番の幸せと
確かにそれも素敵な事だとは思うけど
「自分の限界が知りたい、自分を高めたい、その気持ちに男女は関係ないよ」
優しく微笑むアクアさんに、思わずドキッとしてしまう
そういえばまだアクアさんが男の人か女の人かわかってない
「ボクも女だから、よくわかるよ」
ああ……私はもしかしたらアクアさんに恋をしていたのかも知れない
今日会ったばっかりだというのに
「……ったく、女でよかったぜ」
お兄ちゃんが軽く頭を抱えている
「だって!私より強い人見たことなかったし、それにかなり綺麗だよ?」
中性的な顔立ちで美青年にも見える
黒髪のショートカットも熱心に手入れをしてるわけではなさそうで、そこがまた少年感すら漂わせているというか
「よくわからないけど、とりあえず様子見ってことでいいのかな?」
「はい、よろしくお願いします」
こうして私達はひとまずアクアさんについてくことにした
「お待たせいたしました」
話が終わったのを見計らっていたのかツヴァイさんが裏手からまわってくる
「お疲れ、それにありがとうね」
アクアさんが手をふって出迎える
ありがとうとはこの時間を作ってくれたことにだろう
「話はつきましたか?」
「様子見だ、しばらくは仲間でいてやるよ」
それからツヴァイさんがいない間の話を少しした
「呆れましたね……よくこの話だけで決断したものだ」
「あんたも目的やら理由やら知らずに仲間になってるんだろ?俺達は通ることが様子見のぶんあんたの方がおかしいぞ」
呆れた顔をしているツヴァイさんにお兄ちゃんがツッコミをいれる
「確かにそこを突かれると痛いのですが、私には私なりの理由があるんですよ」
苦虫を噛み潰したような表情で受け流そうとする
「あんたもアクアの事が好きなのか?」
「「そういう訳では!」「お兄ちゃん!」」
私とツヴァイさんは同時に叫ぶ
さっきの表情といい、今の慌ててる感じといい【ウロボロス】にいたときの冷徹なツヴァイさんには思えない「えっ?違うの!?ショックだなぁ」とか言うアクアさんにも慌てて弁明をしている
「とにかく私はそういうのと違うんです、ほら早く戻らないと怪しまれますよ」
先をいこうとするツヴァイさん
え?ガイガルドさんは?
「ガイガルドは先に報告にいきました、基地は制圧し役割を果たせないくらいには壊滅させた、と」
そういえばアクアさんは信心と言われていたけどツヴァイさんはいつから【ウロボロス】にいるんだろう?
アクアさんと出会う前からいるのだろうか?
バルザさんやガイガルドさんからもある程度信用されていそうだし
「あんたは、いつからアクアの仲間なんだ?」
私の疑問をお兄ちゃんが代弁してくれる
「ボクがこの時代に目覚めたときから、ずっとだよ」
だんまりを決め込んだツヴァイさんの代わりにアクアさんが答えるが変な事をいい始めた
「この時代に目覚めたって……なんだそれ?お前は古代兵器かなんかかっちゅうの」
「まあ、似たようなものかもね、その話は別に隠すことでも言えないことでもないから今度時間があるときにゆっくり話すよ」
軽く冗談を行ったつもりのお兄ちゃんは鳩が豆鉄砲を、くらったような顔をしていた
多分私も
「それより貴方達の友人と思わしき人物に出くわしました、基地に入ってすぐの事でしたが
ゼスくんくらいの青年二人と女性が一人」
「それって……」
まさかライくん達じゃ……
「おい!そいつらはどんな状況だったんだ!まさか捕まってたとかないだろうな!?」
「捕まっては居ませんでしたよ、おそらく基地に侵入して裏口から出る途中……兵士に襲われて倒し終えたってところでしょうか」
兵士に襲われたと聞いたとき胸の鼓動が早まるのを感じたが倒したと聞いて安心した
「一応【ウロボロス】が近くに来ていて危険だからという話はしましたが」
「ああ……サンキューな、多分俺達の友達だ
俺達が捕まって城に連行されたと聞いて理由探しでもしてたんだろう、そういうやつらだ」
ツヴァイさんの話を聞いて落お兄ちゃんもち着きを取り戻したみたいだ
確かにライくんはそういうところがあるけど、ネシスさんやアレスくんはもっと慎重なタイプだと思っていた
「アクアさんあの基地に噂の機械と薬がありました」
「なるほどね、ガイガルドにはばれなかった?」
あの機械と薬とは【ヴリドラ】と【インドラ】の事だろう
リリィちゃんの事を思いだし胸が痛む
「はい、言われた通り部屋ごと封印術で封印しておきました」
封印術?聞いたことない術だ
世の中にはそういうものがあるのかもしれない
「あの機械と薬!?なんで処分しなかったんだよ!あれはな人の命を命とも思っちゃいねぇ最低のごみくずが使う代物なんだよ!」
お兄ちゃんもリリィの事を思い出したのかツヴァイさんにくってかかる
「落ち着いて、確かに最低な使われ方をしたかもしれない
けどその技術は本物だ、失うにはおしいんだよ
君達は【神器】って知ってるかい?」
「はい、私達ももっています」
そういって【メモリアル・ギア】を見せる
お兄ちゃんは心のなかで咎めていたがこれくらいは大丈夫だと思う
「なるほどね、なら【古代器】は?」
おーぱーつ?聞きなれない言葉に思わず首をかしげてしまう
「ボクの……大昔の人達が【神器】を参考にして作った様々な道具を【古代器】っていうんだ
意外かも知れないけど昔の文明は今よりも進んでいたんだよ、もちろん全部が全部じゃないけどね
その最たるものの、ひとつがその機械や薬なんだよ」
だから破棄できないと?でも悪い人がまた利用使用としたら……
「大丈夫だツヴァイの封印術はピカイチだ
えーっと今は結界術って言うんだけっけ?君達もみたでしょ?並大抵の人間には破れないよ」
「中の人を守るから結界術と言われているみたいですが、昔は魔物や悪人を直接術にかけて動けなくしたりする封印として使われていたんですよ」
ツヴァイさんが補足説明をしてくれる
さっきから昔の話をしているように本当にアクアさんは古代兵器なのかもしれない
だからあんなに強いのか……まさかアクアさんも【古代器】だとか
「まあ、どんな想像でもお任せするけど」
苦笑いするアクアさんにツヴァイさんはもう1つ報告をする
「研究所に子供をが数人居たとガイガルドが言っていたのですが、いがが致しましょう?」
「キミ達、誰かに迎えに越させられないかい?ボクたちはイール港へ戻らないといけないし、そもそもキミ達は顔を隠さないといけないから、ゼス君の弓矢て矢文とかしてさ」
「それなら使い鳥に手紙を持たせる、俺も親父に色々報告しなきゃならねぇことがあるしな」
お兄ちゃんが口笛を吹くと一羽の鷹が腕にとまる
一番強そうな鳥がいいというお兄ちゃんの為にお父さんが捕まえてきた立派な鷹だ
手なずけるのは相当苦労したみたいだけど
「わかった、よろしく頼むよ」
お兄ちゃんは紙を広げるとペンを走らせる
途中私にも伝えたいことはないかと聞かれたが、全て任せることにした
「頼むぞ」
手紙を足に括られた鷹が宙に飛び立つ
「あの鷹に名前はないの?」
アクアさんの問いにお兄ちゃんは気まずそうにしている
「ハヤブサ丸」
「おいっ!言うなって!」
慌てて私の口をふさぐお兄ちゃん
「ハヤブサって……今のは鷹だろ?」
「うるせぇ!ガキの頃は知らなかったんだよ鳥の種類なんて……」
「仮にハヤブサだったとしてもハヤブサ丸は安直といいますか、センスがないといいますか……」
名前を聞いてニヤニヤするアクアさんと憐れなものを見るような目でお兄ちゃんを見るツヴァイさん
「だから!……もういい、さっさといくぞ!」
なんでだろう?リリィちゃんを助けられなくて、捕まって、能力者になって、か【ウロボロス】に入って……決して笑ってられる状況ではない筈なのに少しだけ、にこやかでいられるのは
この先何があろうとも私達は乗り越えて行かなければならない
そう覚悟を決めてバルザさん達が待つイール港に向かう