重い歯車
「ユウの奴上手くやってくれるかな」
「信じるしかないわね」
茂みに隠れた俺達はユウが兵士を誘き寄せるのをひたすら待つ
アレスは誘き寄せる前に捕まってしまう時のことを考慮して別行動だ
「来たわよ」
ユウがこちらに向かって走ってくるのが見える
その後ろには兵士が二人
「全く……どうやって誘き寄せたのか」
作戦では迷子のふりをしてわざと基地の近くをうろつくって事になっていてそう上手くいくとは思えなかった
「待て!クソガキ!」
クソガキ?ユウはあいつらに何かしたのか?
ユウと兵士が通りすぎたタイミングを見計らい後ろから一撃で倒す
本当はアレスと二人で一人ずつだったがユウの安全の為だ仕方がない
「さすがだわ」
これにはネシスと称賛してくれた
我ながら素早い剣さばきだったと思う
「だろ?不意打ちで二人くらい顔を見られずにのせるって」
素早く兵士を縛り、一応目隠しもしておく
「あれっ?アレスは?」
常にユウのそばにいたんだ、近くにいるはずなんだけど
「ユウ!危ない真似はよせって最初に言っただろう!」
「だって、あいつら僕を捕まえる気あんまなかったよ?」
お説教中だった
確か兵士はクソガキとか言ってたから何かあったとは思っていたが
「何をしたんだ?」
「基地の近くをうろついてたら「ここは子供の来るところではない、帰れ!」って言われたから「おじさんたち臭いね」って言ってやったんだ、そしたら怒って掴みかかってきたから股間を蹴って逃げてきた」
子供に煽られてすぐにキレるのもどうかと思うがユウの度胸も半端ない、だってまだ五歳とかだろ?ヤバイ奴だ
「ゼスやライ達の無茶苦茶な武勇伝のせいでユウかおかしくなってしまったのよ」
ネシスは天をあおぎ嘆いている
「ね、ライ兄ちゃん、僕やるでしょ♪」
ニコニコしながら話しかけてくるユウはどっからどうみても少女にしかみえない
「今回は助かったけど、もうあまり無茶はするなよ」
アレスの手前、一応注意しておく
「おっけー♪」
何がそんなに楽しいのかユウは無邪気に笑ってオーケーサインをだしていた
「僕は一人で帰れるから、お兄ちゃん達、がんばれ♪」
「大丈夫なのか?」
背を向けるユウに問いかける
これはアレスに対しても聞いているわけだが
「少し心配だけど、時間がおしい、ユウの事を信じて次に進もう」
「変なおじさんには気を付けなさい」
ネシスがユウに忠告するとふたたびオーケーサインを出してスキップしながら姿を消した
「ありゃ、将来大物になるね」
「ライの無鉄砲さとアレスの機転を受け継いでしまったのよ」
アレスとネシスは溜め息をつきながら俺を見ていた
「おい、そいつはなんなんだ」
予定通り兵士の服装に扮した俺とライはネシスの手首を縄で繋ぎ基地の入り口へむかった
「基地の近くてうろついていた女を捕まえた、もしや、先日の侵入と関係があると思ってな」
アレスは堂々と基地内へ足を運ぶとネシスを繋いでる縄をひっぱり「ほら、グズグズするな、歩け!」といい、俺も後につづく
「す……」
「無駄口を叩くなよ」
ネシスに言っているように見せかけてたぶん俺に言ったんだろう
確かに話そうとしたけれども
「よう、この嬢ちゃんはどうしたんだい~」
やたら軽薄そうな兵士が声をかけてきた
「外でうろうろしてたから昨日の奴の知り合いかと思ってな、報告をしたいんだが今、どこにいるかわかるか?」
ネシスは極力顔を見せないようにずっと俯いていて表情が読めないし、俺とアレスは顔を覆っているフェイスガードのようなもので誰だから外目ではわからない
「あー、あれだよ【ウロボロス】のせいで現地に指揮をとりにいったから、とりあえず地下の収容所にでも入れとけば?」
軽薄な兵士はそういいながら懐から瓶を取り出す
「嬢ちゃんはいけるくちかい?」
どうやら、お酒のようだ
ネシスは俯いて完全に無視を決め込んでいる
「いくぞ!」
アレスは短く俺達に指示すると、軽薄な兵士は興味を失ったのか酒を飲み始める、仕事中ではないのか?
「ここだ」
アレスはスムーズに地下にある収容所まで足を運ぶ、こいつ実はここの元兵士ではないのだろうか?
そんな妄想をしている俺の目の前に驚くべき光景が待っていた
「子供達が……」
収容所の中には四人の子供がすでに入っていた
どの子も街では見かけたことのない子供だったため、おそらく他の町から連れてこられた子供たちなんだろう
「ライ、ネシスの縄を、その後は誰かこないか見張ってて」
まわりに誰もいないことを確認したアレスが子供に近づく
「僕たちは君達の敵ではない」
怯える子供達のまえでフェイスガードを外した
「アレス!」
何をしてるんだと言わんばかりのネシス
「大丈夫、誰もいないし、この角度なら顔は監視している機械に写らないよ」
片手をあげネシスに説明する
「リリィという女の子を知らないかな?」
縄を外されたネシスも子供達に近づく
「リリィは昨日兵士達に連れてこられてすぐに実験室につれていかれてよ」
一人の少年が答える、年は8才くらいだろうか?
「研究室?」
「年齢が8才を越えたら連れていかれるんだ、僕たちの前にも沢山子供がいたけれど、みんな連れていかれた」
なるほど、年齢がそれくらいの子供を狙っているのか
ユウは見てくれからも幼かった為、対象外だったわけだ
「リリィは十歳って言ってたよ」
「実験室はなにをするところか知ってる?」
子供達はみんな首をふり知らないことをアピールした
「でも実験室にいって、成功したらお家に返してくれるって、実験室に行った子達はここに戻ってこないから、お家に帰れたんだよね?」
子供がすがるようにアレス達を見つめる
実験に成功したら帰してやるからおとなしくしていろ、とでもいわれていたのだろう
「大丈夫、君達はきっとお家に帰れるよ」
「ええ、保証するわ」
俺達がここの悪事を暴いて王様に報告すればこの子達も……
「でも、国が……少なくともこの基地に関わっている国の兵がひとさらいをしてあるのは明らかだね、後はその証拠と理由を知りたいんだけど……」
「実験室に行ってみるのが良さそうね」
アレスとネシスは子供たちに手をふる
「ライ、行こう」
行こうって
「さっきも思ったんだけど、この基地の構造知りすぎじゃないか?」
「まあ、なんとなくね」
なんとなくてわかるものなのか?
まあ、俺が考えても仕方のないことか
「アレスはここに入ったことがあるのよ」
ネシスはアレスに聞こえないように囁く
「フレーミさんが基地を造るのを反対していたの、まだ建設中だったときの話よ、だから階段の位置とかはだいたい分かるのじゃないかしら」
確かに街の近くに軍の基地ができると知った人達で反対運動をしていたのは知っている
基地ができることにより、普通は狙われることのないこの地が他の国に狙われる事になるかもしれない、と
フレーミさんは長だから代表としてここに出向いたのだろう
「その時は特に僕の意志があったわけではないけどね、ただただ父親についていっただけ、僕は基地があろうがなかろうがどっちでもよかったんだ」
いつから聞いていたのかアレスも話に加わってきた
「こんなことに使われるならもっと反対しておくべきだったかもしれない
僕は子供代表ということで、ここの偉い人と話をしたんだけど、国の為、国民の為の大切な施設だからって」
でも、それはひとさらいの実験場だったってか
胸くそ悪い話だ
それにアレスがいくら反対していてもきっと変わらなかっただろう
「その時はどこがどの部屋ってのはまだ決まって無かったと思うから、後は勘だね」
勘、といったアレスは迷いもなく先に進んでいく
方や剣をふるって強くなることにしか興味無かった人間
方や長の息子として国の軍事基地に抗議しに行った人間
俺とアレスの間には無限にも感じる差があるように感じた
「ここが実験室、みたいだね」
「誰かいたらどうするの?」
確かに、俺とアレスは兵士に扮しているが、ネシスはまずい
「堂々としてれば大丈夫さ」
何を根拠にいってるのかわからないが、入り口からここまでの間、実際アレスがさも、ここの兵士のように振る舞ってくれたおかげで疑われずにすんでいる
「鍵がかかっているな……」
扉に手をかけたアレスが呟く
「代わりなさい」
ネシスがアレスを押し退ける
「鍵だけではないわね、セキュリティロックがかけられているわ、カードと暗証番号の二つが必要ね」
「多分ここにカギとなる情報があるんだろう」
詰んだか……どうやってカードと暗証番号、鍵を手に入れればいいんだ?
さっきの軽薄な兵士に聞きに行く?誰かが開けるまで待つ?
そんなことを考えているとネシスかいないの事に気がつく
「あれ?ネシスは?」
ヤバイ!こんなところで姿をさらしているネシスが他の兵士に見つかったら!
しかし、その心配は杞憂に終わる
「こっちよ」
ネシスは実験室の隣の部屋にいた
俺とアレスはホッとしながらその部屋に入る
「……なんだこれ」
部屋に入ってネシスが奥へと進むこちら側は調度実験室との壁になっている、その壁に大きな穴が空いていた
「ネシスがやったの?」
何を馬鹿なことを言ってるんだアレスは
この運動不足の非力が俺達が通れるくらいの穴を開けられるわけないだろう
「問題なのはそこではない筈よ、ここから実験室に入れる、私達は人をさらう理由と証拠を探さなければならないのでなくて?」
なら、ない、なく
なんでこうもまどろっこしい言い方をするんだ
「この壁相当分厚いし、瓦礫もない……まるでここだけが消滅したみたいだ、それにしても歪な穴だ」
アレスはネシスの言葉など聞こえてないように壁の穴を観察する
「穴なんてどうでもいいだろ、ラッキーくらいに思っとこうぜ、ゼス達がやったのかもしれないしさ」
ネシスの目付きが怖くなってきたのでアレスを嗜める
「ゼス達が爆薬かなにかで破って、瓦礫はそのあと兵士が片付けた、とかかな」
アレスも納得がいったのか実験室に進む
「手分けして資料を探そう、ライは見張りを頼む」
アレスとネシスは別々に創作を始める
俺は穴の近くで待機することにした
「……これは!」
何かを見つけたアレスがネシスを手招きする
「…………」
手渡された資料を読みいるネシス
俺も行った方がいいのかな?
「こんなこと……許されていいはずがないわ」
怒りでワナワナと震えるネシス
一体何が書いてあったのだろう?
それから間もなくアレスはなぞの機械を調べに、ネシスは棚を物色し始めた
「これだわ……【インドラ】そうかかれているわ」
「こっちもあったよ、たぶんこれが【ヴリドラ】だと思う」
一通り機械を調べていたアレスが慌てた様子でネシスに耳打ちする
「とりあえずここを、脱出しよう」
「なんかわかったのか?」
ネシスは資料と謎の液体が入ったボトルを持っていた
「この液体を飲ませて非能力者の子供たちを能力者にしてたのよ」
小走りにアレスについていきながらネシスが説明を始める
どうやって脱出するかわからないなとりあえずついていくことにした
「能力者に?国で管理して働かせるためにか?」
能力者は国で思想教育を受けて力を使わせられるみたいなことをアレスが言ってたな……
「いいえ、もっと非道な事の為によ」
普通に発症したって親から引き剥がされて力を使わされる、それなのに連れ去られ無理矢理能力者にされた挙げ句力を使わされる
それ以上に非道な事ってなんなんだよ
「とりあえず脱出が先だ、さっき機械で入口を写していたのがあったんだ
音声のいじり方がわからなかったから、何を言ってるのかわからなかったけど、多分イール港は放棄したんだと思う、何人も兵士が負傷してたからね」
アレスは先陣をきり、用心深く、しかし俊敏に移動する
「実験室に重要な書類は全てあったよ、ここの構造もね、この先中庭があって、そこを抜けると非常出口がある」
そういいながらアレスは中庭につながる扉をあける
「誰もいないみたいだね」
恐る恐る周りを確認して俺達に手招きする
後ろからは誰か来ている気配はないが、もしかしたらもうばれてるかもしれない
「おい!おめぇら!」
もう少しで非常出口に着きそうな時、空からガタイのよい男が降ってきた
「んなっ!」
どこかの屋上にでもいたのか、急に現れた男に対して変な声をあげてしまった
「ここは緊急時以外立ち入り禁止だ、それもてめぇ、部外者まで連れ込みやがって……」
兵装をしている俺やアレスはいいものよネシスは完全に不審者そのものだ
「アレス、ネシスを連れて走るんだ」
やっと俺のデバンガまわってきたようだ
俺は素早く男とアレスの間に入り、剣を構える
「ライ!」
「いいからいけ!」
ぐたぐた言っている場合じゃない、それにここで勝率が一番高いのは俺だろう
「おめえ、ここの奴等じゃねぇな?俺に剣で挑むなんてよ!
それに、誰も逃がさねぇぜ」
男は非常出口の扉の方向に手をかざす
「くそっ、鍵は空いているのに扉が開かない!」
ネシスを連れたアレスが必死に扉を開こうとするが一向に空く気配はない
「何しやがった!?」
男の懐に潜り込んで剣でなぎはらう、が男に剣が当たる前に逸れてしまった
「なにっ!」
素早く体制を建て直し男に向き合う
びびってるのか?俺が?
「ハハハハハッ!俺に剣はきかねぇよ!俺様は磁力使いだ、まあ、能力者ってやつだな」
男はニヤニヤしながら服をめくる
身体には鉄板らしきものが纏われていた
「この鉄は薄くて防御にはならねぇが、うまく能力を使えばてめぇのへなちょこ剣なんて当たりもしねぇよ」
男はどこから取り出したのかメリケンサックを手にはめる
「死ねや!」
大丈夫、避けられる
へなちょこ剣と言われたことはムカつくが今は状況を見極めないと
「……うがっ」
簡単には避けられると思った男の拳が腹にめり込む
速かったんじゃない、俺が動けなかったんだ
「ちっ、鎧のお陰で死にやしなかったか……まあ、その鎧のせいで逃げることもできねぇんだがな!」
男はニヤニヤ笑いながらフェイスガードを外す
「なんだ、くそガキか…昨日のガキのお仲間か?」
「ゼス達を知ってるのか?」
ゼス達もこいつと戦って、負けたから捕らわれたのか?なら、許すわけにはいかない
「どうだかな?」
男はニヤリとしながら拳を振り上げる
ヤバイ!動け動け!
「死ねぇ!……どがっ!」
男が拳を振り下ろす直前にアレスが男に体当たりをかます
「ライ!大丈夫かい?」
いつの間に鎧を脱いだアレスか男と対峙する
「ライも早く脱ぎなさい」
近くによってきたネシスが俺の兵装を脱がそうとする
「くそガキが……」
アレスに体当たりされ体制を崩した男は鬼のような形相でこちらを睨む
「昨日の腹いせに拳で潰してやろうと思ったがやめだ!能力者の力思いしれ!」
そういいながら男が手をかざすと大小様々な鉄片が宙に浮かぶ
「ライ!これを!」
アレスはこれまたどこからもってきたのか建築に使いそうな木材を渡してきた
「くそっ、てりぁぁあ!」
飛んでくる鉄片を弾いていく俺とアレス
せめてこいつらだけは守らねぇと
「ハハハハハッ!防戦一方じゃねぇか、このままなぶり殺してやる!」
弾いても弾いてもその鉄片が無くなるわけではないので、すぐに宙に浮き俺達めがけて飛んでくる
「この中庭、周りが全部鉄の壁だ、これじゃあ飛んでくる角度がわからない」
アレスも相当苦戦している
「……いたっ」
後からネシスが小さく声をあげる
幸い小さい鉄片だったため、怪我は大したことがないみたいだ、が
「てめぇ、まじで許さねえ!」
鉄片を弾きすぎてボロボロになった木材を手に男に突っ込む
一か八か顔をフルスイングでぶん殴ればあるいは
「きかねぇよ」
男はニッと歯をむき出しにして笑顔になる
周りの鉄片が男のたてとなり簡単に受けられてしまう
「ライ!危ない!」
アレスの叫びと共に横っ腹に激痛が走る
鉄片集まって出来た拳が俺の腹にヒットしていた
「もう、終わりか?昨日のガキどものが骨があったけどなぁ」
「骨があった?君はゼスに負けたんじゃないの?さっき腹いせとか言ってたし」
アレスがおちょくるように挑発する
「俺は負けてねぇ!ただ油断してただけだ!」
ようするに、そういうことだ
挑発に乗ってしまった男は俺を無視してアレスと対峙する
もう、俺は戦闘不能と見なしたのだろう
「ライ、大丈夫?」
ネシスが俺のもとにかけよる
「……あの液体、どれだけ飲めば能力者になれるんだ?」
「なにいってるの!?」
奴に勝つにはそれしか俺には思い付かなかった
「アレスが時間を稼いでいる今しかない、それをよこせ」
俺はネシスから液体をひったくる
「ライ!やめなさい!十歳を越えてからその薬を使うと能力か発症しないこともあるどころか死んでしまうケースもあるのよ!」
液体を取り替えそうとするネシスの手をはらう
「どれくらいで、死ぬんだ?」
「一歳につき約5%とかかれていたわ、つまり40%で死んでしまうのよ」
ネシスの悲痛な叫びを無視して俺はボトルのキャップをあける
「なんだよ、半分以下じゃねえか」
俺は笑いながら液体を数口喉に流し込む、うむ上手い
怖くない訳じゃない、しかし、こいつにやられてアレスやネシスを失うよりましだ
「……馬鹿っ!大丈夫なの?」
体があつい、奥底から鉛のような重たい力が体を満たしていく
「大丈夫、死んではないみたいだ、後凄い力が沸き上がってくる」
正直、液体を飲んでこんなに早く変化が感じられるとは思わなかった、しかし、これはチャンスだ
「何の力がわかんねぇが出たとこ勝負だ」
何か強大な力が宿った、とは思う
が、どんな税なのかはさっぱりわからなかった
「おい、ボンクラ、俺はまだやられてねぇぞ!」
木材を握りしめアレスと対峙していた男の頭に振りかぶる
「雑魚が!んなもんきかねぇってんだろ!」
頭の上に鉄片の盾をつくりられガードされる
俺はさっきの事を思いだしすぐさま距離をとる
「最近のガキへ生意気な上に戦い慣れてやがる」
戦い慣れてるのは俺やゼスとか一部だろうが今はどうでもいい
「アレス!俺は多分能力者になった!ここは任せろ!」
俺は素早くアレスに目配せする
「はあ?能力者だぁ?」
俺がネシスの液体をみた一瞬を男は見逃さなかった
「てめぇ、それは【インドラ】じゃねぇか!それを返せ!」
ネシスに向かっていく男
【インドラ】とはあの液体の事なのだろう
「させるか!」
再び木材を振り上げ男の頭を狙う
男は素早く盾をつくりガードする
「くそっ!盾事持っていけ!」
木材でそんなことを出来ないことはわかってはいる、が、ネシスを守るために全力で振り下ろす
「んなっ?」
持ってった……
男が作り出した鉄片の盾ごと木材は男の頭を打つ、その時大きな力が俺の背を押してくれるような……いや、俺ごと押し潰すような感覚にとらわれた
何が起こったのかよくわからなかったが木材は木っ端微塵になっていた
「てめぇ、何しやがった?」
男は頭を擦りながら俺を睨む
その足元が何故か地面に埋まっており、地面も凹んでいた
「ネシス!僕にもそれを!」
アレスがネシスから【インドラ】を奪い数口飲む
完全なる間接キッスだ
「アレス!何をしてるの?」
「君は僕にライだけに全てを背負わせろと言うのか?そんなこと僕には出来ない」
言い終わったアレスがしばらく硬直する
「ふざけるなぁぁあ!」
男は地面から足を抜くと鉄片で巨大な斧を作るとネシス達に襲いかかる
「やめろぉぉお!」
さっきの力よ、もう一度俺を助けてくれ
先程の押し潰される感覚を思い出す
木材はもうないあるのは俺の拳のみ
「俺ごと持ってけぇ!」
先程よりも強い力を感じる
「くそぉぉぉお!持ち上がらねぇ!」
男の斧が地面に突き刺さる
両手で持ち上げようとしているが全く持ち上がらない
「ライ!男の上めがけて跳びなさい!」
跳ぶ?意味がわからなかったが全力で飛び上がる
謎の力が解けたのか男はようやく斧を地面から抜く
「頭めがけてぶん殴りなさい!力を拳に込めるように!」
オーケー、やってやる
多分ネシスは俺の能力に正体に気づいたのだろう
さあ、もう一度だ
俺ごと潰すつもりであいつの頭をぶん殴る!
「くそ、体が自由にうごきやしねぇ!さっきからなんなんだてめぇの力は!」
男は斧を分解して、鉄片を動かそうとするが分解された鉄片は地面から離れなかった、チャンスだ!
「くらえぇぇぇえ!」
グシャ、なんとも気味の悪い手触りがした
男の血が俺に降りかかる
「……倒したのか?」
いや、倒したどころの騒ぎじゃない
これは、もう……
「ライ……いこう」
男の変わり果てた姿に呆然としているとアレスが後から肩をたたく
「気にしては……駄目よ」
状況が読み込めない
確かに無我夢中だったし、能力の正体もわからなかったが、ただ拳で殴っただけだぞ?
「ライ!!!」
アレスの呼び掛けにハッとする
そうだここは敵地なんだ
「ああ……わりぃ、大丈夫だ
アレスもあれ飲んで大丈夫だったんだな」
さっき【インドラ】を飲んでいたのを思い出す
「なんか凄い力が宿った感じがするけど、上手く表現できないね」
アレスは苦笑いしながら俺に手を差しのべる
あれ?俺、座り込んでいたのか
「おや、人がいるとは思いませんでした」
俺達が非常出口に向かうと先程まで開かなかった扉が向こうから開いた
「くそっ、またか」
アレスがすぐさま剣を構える
「貴方はたちはここの兵ですか?」
扉を開いた男が中庭に入ってきた
青色の長髪、整った顔、冷たい瞳
どうやらここの兵士ではないようだ
「僕達は……違います」
アレスも兵士ではないと思ったのだろう、素直に質問に答える
「なるほど、私は【ツヴァイ】と申します」
男は礼儀正しく頭を下げる
「早くここから立ち去りなさい、私達のせいでこの基地は危ないわ」
「ご忠告ありがとうございます、しかし、私もやらなくてはならないことがありまして」
男はネシスの忠告を無視して基地の方へ向かっていく
「貴方達はこの近辺に住んでいますか?」
ふと、振り返り男はそう訪ねてくる
「そうだけど」
言ってしまった後に余計な事を言った、と後悔した
まだここの関係者じゃないと決まったわけではないのに
「それでは早く帰って伝えて下さい【ウロボロス】がやってくる、とね
貴方達の街には用事はありませんが万が一という可能性もありますので、避難等したほうがよいかと」
【ウロボロス】がイール港を制圧したのはなんとなくわかっていたが俺達の街まで?何故?
「何故貴方がそんなこと知っていて?」
「それは私が【ウロボロス】の一員だからですよ、今はね」
こいつが【ウロボロス】の一人だと?
あの能力者で各地で悪いことをしている奴等だよな?
「なら何故そんな話をするのかしら?貴方が私たちに話す理由がわからないわ」
「人の好意は素直に受けとるものですよ
それに私は今は、と言ったはずです」
意味深な発言を繰り返す男をじっと見つめるネシス
険しい表情をしていたが、納得したのか俺達のに「行きましょう」とだけ言う
非常出口を出てやっと少し緊張がとけてくる
「さっきの人怪しかったよね」
一番最初にアレスが口を開く
「なんで、もっと問い詰めなかったんだ?」
「あれ以上あそこにいたら、他の兵士に見つかってよ?それにあの人も言ってたけど"今は"【ウロボロス】なのよ、おそらく何か事情があってね
それでも街に被害は出したくないから私達に託した、そう解釈したわ」
あの少ないやり取りでよくもここまで察することができるものだ
「もちろん罠だって可能性はあるけれども、わざわざわたしたちに教えるメリットもないもの、おそらく悪意はないと思うわ」
「なるほどな、ならアストンさんに早く報告しに行こう、色々と」
【ウロボロス】の件もそうだが、基地での事も伝えて王様に話をつけてもらわないと
「そうね、モタモタしていると街まで私達を追ってくるでしょうね、少なくとも私は顔が割れているわけだし」
待てよ?
「ってことは無事基地から脱出できてもあいつらが街に来たら安全じゃないって事かよ?」
「そういってるでしょう?今さら気がついたの?この作戦か決まったときから安全なんてないのよ」
安全なんてないって……ネシスが一番危険なのに何を他人事のように
「大丈夫、私は自警団の人と一緒に城へ向かうわ」
「……へっ?」
突然の告知に俺もアレスも呆然としてしまう
「実際に見た人がいた方が説得力があるわ、それに街にいた方が危険なのよ?顔が割れてる私が適任ではなくて?」
ネシスは最初からそのつもりだったのだろう
でも、何故そんな役目を引き受けるんだ?
「……私の………かも知れないし」
ん?何て言ったんだ?
「とにかくアストンさんに事情を説明して私が王様に直接今回の事を話すわ」
暗い表情で何かを呟いたネシスは自分に言い聞かせるように話す
「とりあえずアストンさんの指示を仰ごうよ」
そうアレスがまとめると俺たちは早足で街に向かった