始まりの歯車
「さあ!いよいよエキシビションマッチのお時間です!
今大会優勝者、ライ選手入場してください!」
司会者の呼び掛けと共に僕の友達であるライが闘技場に登場する
隣にいるネシスもライをみているが彼女は剣技には興味がないためライの偉業をわかってはいない
様々な国から生徒が集まるこの【学技都市アメリア】
ここ20年の間で急激に発展したこの街は今や世界中の人々が学び、鍛え、己を高める場となっている
「そして!ライ選手に対するのは昨年ライ選手を破った【仮面の騎士】!!」
世界中の剣士の卵が参加するこの剣技大会にてライは昨年も優勝している、これがどれ程すごいことか
「一体誰なんでしょうね?」
隣のネシスが眉間にシワをよせながら呟く
【仮面の騎士】前大会でエキシビションマッチとして現れライを圧倒的な力の差で負かした剣士
「うーん……少なくとも先生とか生徒では無いんじゃないかな?」
ライはこの学校のどの人間よりも剣技に秀でている
それは成人した大人や剣技の先生よりも、だ
「では、開始します!制限時間はなし、どちらかが武器を手放すか降参したら試合終了です!…………始め!!」
司会者が開始の合図をだしたが二人は一向に動かない
普段はすぐに特効するライも昨年のことを踏まえて慎重に対峙しているのだろう
「アレスも惜しかったよね」
「いいや、相手がライじゃ逆立ちしても敵わないよ」
準決勝僕はライと戦った
今まで何度もライズとは手合わせしたしが一度も勝てたことはない
真っ直ぐ突っ込んでくるのはそれだけ自分に自信があるのだろう
何があっても対応できる自信が
「ここでライ選手動いた!」
観客がざわめき出す
やはり最初に動いたのはライの方だった
相手は鎧をきていて機動力は無さそうだ
身軽なライは足でアドバンテージを取りに行くことにしたのだろう
そしてそれがライの最も得意な戦法だ
「【仮面の騎士】いともたやすく受け流していく!!」
スピードで連擊を繰り出すライに対して1つずつ丁寧に剣で受け流していくいく
鎧を纏っているのにあのスピード、仮面で視界が悪いだろうにあの反応速度ホント何者なのだろうか
「そういえば、ゼスとユアラはどこへ行ったのかしら?」
「さっきまで一緒にみてたんだけどね
なんか用事があるとかで二人ともどっか行っちゃった」
ゼスとユアラの兄妹はこの街の自警団をしている親を持ち、ゼスは弓術科、ユアラは主に剣術科に属している
ユアラは他にも針術、薬草学なんかを学んでいる、僕は歴史学や、古語を学んでいる
ライやゼスみたいに武術系一辺倒も珍しい
「あの二人ほんと仲がいいわね」
ライ、ネシス、ゼス、そして僕は同じ学年の今年で18歳
ユアラは2歳年下の16歳でもユアラは同じように歳の子と一緒にいるよりも僕たちと一緒にいる時間の方が多い
「まあ、いいことなんじゃない?兄妹仲が良いってことは」
「ゼスは自警団を引き継ぐとして、ユアラまでゼスにくっついていかないか心配だわ」
「確かに……」
ユアラも剣技大会に参加していたが一回戦目で剣を落として負けていた
そんな彼女が自警団なんかに入ろうものなら……恐ろしい
「おーっとここで【仮面の騎士】ライ選手を蹴り飛ばした!」
接近して手数を増やしていくライに対して受け流していた【仮面の騎士】が隙をつき攻撃に転じる
「蹴ってもいいものなの?」
「まあ、ルール違反では無いんじゃないかな
もちろん基本的には剣で戦わなくてはいけないんだけど」
蹴りを喰らったライはすぐに態勢を建て直し剣を構え直す
「ライ選手ピーンチ!!」
しかし、目の前には一瞬で距離を詰めた【仮面の騎士】そしてそこからは一方的な勝負だった
手数、スピードではライズも互角だっただろう
だが、【仮面の騎士】は動きを読んでいるかのようにライを詰めていく
「試合終了!!勝者【仮面の騎士】!!!」
喉元の剣を突きつけられたライは武器を手放し降参する
「負けちゃったわね」
ネシスが、さも関心のなさそうに呟く
「残念だったね、本当に何者なんだろう?」
「さあ?どっかの国の騎士じゃないかしら?世界は広いのよ、ライより強い人なんてごまんといる
」
ネシスはそういうと闘技場をでていく
「いやー冷たいねぇ」
どうせこのあとライたちと合流して優勝祝いと敗北残念会に参加するくせに
僕は知っている
彼女は冷たいふりをして実は誰よりも優しいことを
「ライ!お疲れ様」
闘技場前でネシスと待っているとヘトヘトのライが須賀田を現した
「うい」
ライは短く返事をすると大きなため息をつく
「わりぃ、また勝てなかった」
「悪いも何も私達には関係のないことよ」
落ち込んでるライに冷たくいい放つネシス、いつもの光景だ
「でも一体誰なんだろうね」
今日何度目か分からない疑問を口にする
もしかしたら二度目だ、ライは何か感じたかもしれない
「全くわかんねぇ、先生連中でもなければ生徒って訳でもなさそうだし、もしかしたら名のある剣士かもな」
「少し自分を過大評価しすぎでなくて?世界は広いのよ、貴方より腕の立つ剣士なんて沢山いるわ」
手厳しい
僕には苦笑いしかできないが、ライはへっちゃらな顔をしている
「もっと鍛えないと世界一の剣士にはなれないな、誰だろうが関係ねぇ、俺が強くなればいずれ越えれるさ」
この前向きなところがライらしいと思う
僕は……多分ネシスもライのこういうところが好きなんだと思う
「とりあえず腹へったから飯食おうぜ」
「ご飯なら僕の家で用意してるから、また優勝祝いをしよう」
そういうとライの顔がパッと輝いた
「私は父親に報告してくるわ」
ネシスはそう告げると背を向ける
彼女の父親はこの学校の長
すなわち学園長なのだ
「あいつも大変だよな
友達の家にご飯行くだけで報告とかめんどくせえ」
「それだけ大切にされてるってことだよ」
ぶつぶつというライをたしなめながら我が家を目指す
「……ねぇ聞いた?あそこのお宅、子供が能力者だったらしくて今朝、お城からお迎えが来たって」
「かわいそうにねぇ、まだ十歳なのに親元を離れなきゃならないなんて……運が悪かったわねぇ
最近この辺りでもひとさらいもあるらしくって子供が親と一緒に暮らせないって本当酷な世の中になったものね」
帰り道どこからか噂話が聞こえた
ライも気がついたらしくヒソヒソ声で話しかけてくる
「どうして能力者は親元を離れて城につれてかれるんだっけ?」
「小さい頃習っただろ?
能力は普通十歳頃に備わるらしいんだけど、その能力はとても危険なもので制御の仕方がわからないと暴走してしまうんだ
暴走すると本人だけではなく、周りの……過去には村を全滅させるくらいの被害をだすこともある。
だから国の機関が能力の制御の仕方を教えて、万が一暴走しても周りに被害がでないように教育、管理しているんだ」
「よくわからねぇな
制御の仕方なんてそいつが教えに来たらいいし、その機関ってところで教わったら戻ってきたらいいじゃん」
ライは不服そうな表情をしている
彼は授業を真面目に受けないし勉強もしないが決してバカではない
「さっきも言った通り暴走したときにすぐに対応できるようにって事と、能力者っていうのはほんの一握りしか居ないんだ
その一握りを国のために使いたいってことじゃないかな」
国は表面上、仕事として能力者を受け入れ働いてもらっている事としている
しかし、一部の噂では能力者はほぼ奴隷や戦闘兵器扱いされているらしい
「それに能力者に思想教育もしている」
「思想教育?」
「つまりはこの能力は国や人々のため行使するべきで我がために使用してはならない、とか
実際に国の管理を抜け出した能力者が犯罪をおかすことなんてよくあるんだよ
今で言うなら【ウロボロス】っていうグループが至るところで暴れてるらしいね」
新聞による情報だけど、と付け足しておく
これに限らずこの世界の情報は【オラクル】という組織がだしている情報がほとんどとなる
過去のことなら図書館などで調べられるけど、【今】のことはこの【オラクル】によって作られた新聞でしか知りうる手段はない
「なんだか気に食わねぇ話だな」
「そうだね」
ライはまたもやぶつぶつ不平を垂れているがほっとくしかない
ライが気にくわないのは多分能力者のあり方
でも僕が気にくわないのはこの世の情報が【オラクル】に全て支配されていることだ
これではどの情報が正しいか比較もできなければ世界中の思想が一つに同一性されかねない
「やぁ、ライくんいらっしゃい
優勝おめでとう!ご飯を用意してるから沢山食べていきなさい」
家に着くと僕の父が出迎えてくれた
母親は沢山食べるライの為にキッチンで奮闘していることだろう
「あぁ、ありがと
ゼス達はもう来てるのか?」
そういえばゼス達はどうしたのだろうか?
用事があるとか言っていたがさすがに来るとは思うのだけど
「ああ……ゼスくん達は今日は来れないってさっき挨拶しに来たよ、なんでも急な用事が入ったとか」
「さっきって?」
「そうだな、アレス達がくるほんの5分前くらいだね」
剣技大会の時にも用事があると出ていったのに……他の用事ができたのかな?
「けっ!あのシスコンやろう!俺の優勝が祝えないってのか!
あいつの飯も全部食ってやる、後から来たってねぇからな」
ライはぷりぷりしながら食卓につく
「仕方ないでしょう、ゼス達は家の仕事が忙しいのだから……あっ!おじさん、お邪魔します」
いつからいたのだろうか?気がつくとネシスか後ろに立っていた
「自警団だろ?こんなに平和なのになにやるってんだ」
「貴方自分の友達の事も知らなくて?
自警団は街を守るだけではなく、魔物の討伐や街の終身、行商人の護衛や食料や鉱石の調達までしているのよ?
それに人々の頼み事まで引き受けてるくらいだし、年中暇な貴方も少しは手伝ったら如何かしら?」
辛辣な言葉に僕と父は苦笑いしかできなかった
しかし、当のライはなに食わぬ顔で食事に手をつけ始めていた
「まあ、別にいいけどさ、それよりアレス達も食えよ」
「そうだね、まずは食事にしようか
ライくんの優勝を記念して……乾杯!」
父と僕、ライとネシス、そしてキッチンにいたはずの母も乾杯に参加して食事が始まった
と、言ってもネシスはともかくライはよく僕の家でご飯を食べていくのであまり特別感はない
「なあ、フレーミさんあの【仮面の騎士】って誰なんだ?この街の代表なら誰だか知ってるだろ?」
フレーミとは僕の父のことである
そして、父はこの街の代表、いわゆる市長みたいなものだ
「確かに父さんなら誰だか知ってるはずだよね
それにネシスのお父さんも」
「興味ないわ」
自分に話の矛先が向かって来たので軽く受け流すネシス
彼女の父親は学園長だから剣技大会の主宰みたいなものだ
「僕もダレスも【仮面の騎士】が誰だかは知っている
けど、招待を明かさないことが出場条件のひとつでね、すまないが教えてあげられないよ」
ダレスとはネシスの父である学園長の事だ
父は申し訳なさそうに説明すると、それに……と付け加える
「それに?」
「君達の知った時の反応が面白そうだからね、本人が明かすまでは黙ってるさ」
食いつくライに意地悪な笑みを浮かべた父は母に食後のコーヒーを持ってくるように頼んだ
「なんだよ、それ」
「と言うことは私達が知ってる人ってことね
身長はライと同じくらいで175㎝くらいだから……」
拗ねるライと推理を始めるネシス
ってかネシスは興味ないんじゃ……
「まあまあ、詮索はそれくらいにして今日はライ、ネシス、君達に渡したいものがあるんだ」
そう言った父はポケットから手のひらより一回り小さめの歯車を2つ出して二人に差し出す
「これは、何?」
ネシスが訝しげに歯車を凝視する
「これは【メモリアル・ギア】というものさ」
ネシスの問に父は自慢気に答える
「【メモリアル・ギア】?」
「そう、【メモリアル・ギア】
これは人の記憶を記録する神器なんだよ」
説明を受けてもいまいちパッとしないライ達に父はさらに説明を付け足す
「この歯車には過去三人までの記憶が保存される
そして、持ち主はいつでも自分の記憶を見ることができるんだよ、思い出すようにね
過去三人までと言ったけど歯車だけでは自分の記憶しか見ることはできないんだ
持ち主として登録するのは額に当てればそのときから記録は始まるよ」
「神器って何かしら?」
今の説明で歯車自体がどういうものなのかを理解したネシスは次の質問をする
ライは「すげぇ、テスト無敵じゃん」とか言っているが後で悪いことには使わないように注意しておこう
「神器については未だにすべてが解明されてはないんだけどね
今から千年以上まえにはすでにあったらしくて当時の人達が神器と名付けたんだよ
この世には我々では解明できない不思議な力を持った道具がいくつもあって当時の人々は神の力を、宿した物だと考えてんだ
もちろん今でも神器の力については何もわかってはないんたけどね」
「そんな貴重なものをよろしくて?」
「【メモリアル・ギア】は神器の中でも珍しくてね
あっ、珍しいっていうのは貴重なって事じゃなくて沢山あるからなんだよ
殆どの神器は1つずつしかないのに対して【メモリアル・ギア】はいくつも見つかっているんだ
それに未来型ある若者が【メモリアル・ギア】に物語を紡いでくれたほうが神器も喜ぶようなきがしてね」
ニコニコしながら父は一通り話終えると、もう冷めてしまったコーヒーを啜った
「僕も昨日もらったんだ」
僕の【メモリアル・ギア】をライ達に見せる
「君達の剣技大会の記憶を入れてみたいと思ってね、アレスには先に渡しといたんだよ
それにゼスくん達にもさっき来たときにね」
「入れてみたいって……でもフレーミさんはアレスの記憶は見れないのよね?」
ネシスの質問に父の表情が変わる
「そう、今はね」
僕はこの表情を知っている
この話をした方がいいのか悪いのか迷っている
そんな表情だ
「今は、って?」
こう言うときは聞いた方がいい
長年の付き合いでそう思っていたから聞いてみた
「この、歯車をはめることのできる神器が存在するらしい
でも、いくつか必要らしいんだ【メモリアル・ギア】がね」
「その神器で他の人も【メモリアル・ギア】の記憶を見ることができるということね」
皆まで言わなくても察するネシス
彼女はとても賢い
普段話していても少ない情報で色々理解してくれるからとても助かる
「それを、私達に探してほしい、と」
「探してほしいとは少し違うな
探すかどうかは君達に任せる、重要なのは君の意思だネシス」
さすがにこれだけじゃ分からなかったのかネシスの頭には?が浮かんでいる
当然僕もライも分からない
「何故私なのかしら?」
僕でもライでもゼスやユアラでもない
わざわざ名指ししたのには何かしら意味があるのだろう
「……」
しかし、またあの表情だ
ここまで言ったんだから言ってしまえばいいと思うけど
「いいわ、言いづらい事なら詮索はしません、【メモリアル・ギア】はありがたく頂くわ」
ネシスも父の葛藤を察したのかすんなり手を引く
ライに至っては途中から話に飽きてしまい母にデザートをねだっていた
「君の……ネシスの」
途切れながら父は口を開く
「君の【メモリアル・ギア】は特別でね
それは君が持っていたものなんだよ、恐らく君の母親が……」
「なんですって!?」
父が話終わる前にネシスがテーブルを叩きながら立ち上がる
ここにいるみんなは知っているがネシスはダレス…学園長の、本当の娘ではない
幼き頃本当の両親から学園長が預かったと聞いている
「私を捨てた母親が【メモリアル・ギア】を?なんのために?何故今まで黙ってたの?」
珍しく興奮しているネシスにかける言葉も見つからない僕はじっと父を見つめる
「前の問の答えは、君の母親が君に真実をしる権利を与えたかったのだと私は思っている
そして後の問の答えは君の母親の手紙に君が冷静にこの事を受け入れられる時に渡してくれと書かれていた
今でも冷静出はないようだが、少し早まったかな?」
父の、返答にネシスは少し固まっていたが頭を冷やしたのか椅子に座り直す
「いいえ、私は至って冷静でしてよ、むしろ渡すのが遅いんじゃなくて?」
強がっているが実際には動揺がみてとれる
ネシスにとって本当の両親は自分を捨てた敵、今でも恨んでいるのだろう
本人に昔聞いてみたのだが彼女はこの街に来る前のことは覚えていないらしい
ダレスさん曰く両親と離れたショックで記憶を閉ざしてしまったのではないか、と
「では私はここにくるまでの記憶がみれるのね?自分の記憶なんだから」
「いや、君は登録してないと思うよ
手紙には君の母の記憶が入っていると書かれていた
そして、どんな厳しい現実でも受け入れられるなら記憶を写し出す神器を探しなさい、ともね」
父はこれで言うことは全部言ったのか一息つくといつものにこやかな表情に戻った
「まあ、そう、身構えることもないさ
君が知りたいときに探したらいいし、知りたくないなら便利な日記くらいに思ってくれたらいいよ」
「話終わったのかー?」
デザートを食べ母と談笑していたライが入ってきた
「そういえばユウは今日は友達の家に泊まりなんだってな?俺の大会での話聞かせてやりたかったのに」
ユウとは僕の弟の事だ
弟と言ってもまだ五歳になったばかりだからかなりの年の差があって弟という感じはしない
「まあ、今度聞かせてあげてよ、ユウはライの話大好きだからさ」
ライは「おう!」と短く返事した後、「今日はご馳走でした!疲れたから帰って寝るわ」と言って玄関に向かった
「ネシスは?」
僕は椅子に座って考え事をしているネシスに声をかける
「私も……今日は帰らせて頂くわ
食事美味しかったわ、フレーミさんも色々とありがとう」
ネシスもライに続き玄関に向かう
僕も後について見送りにいくことにした
「じゃあ、また明日」
ライ達に手を降るとライは後ろ手に、ネシスはお辞儀で返してくれた
ライとネシス、ゼスにユアラ、僕達は友達だ