彼女のヒミツ
「嬉しいけど……」
やっぱり、断られるのか。
「たぶん、あなたが思っている『私』と本当の私は違うかも」
僕が顔を上げて、あの子を見ると悲しそうな顔をしていた。
「本当の私を知ったら、ガッカリするかもしれない」
「本当の君?」
「前にもね、あったの。告白された事」
そうか、僕以外にも告白したやつがいるのか。
そうだよな。
「でも、付き合ってみて、彼の想像していた私と実際の私は違ってたみたいで。振られたの」
「あなたから見た私は、どういう風に見えてる?」
「僕から見た君は、いつも本を読んでいて、周りに流されてなくて自分の世界を持ってる感じで、憧れるっていうか、そういう存在、かな。」
「そう…私は憧れられるような人間じゃないよ」
「私がいつも読んでいた本、何だと思う?」
「え?」
「えーと、本を読んでいる君を見ていた時、笑ったり涙ぐんでる事があったから、恋愛系かな?とか思ってた」
「ごめん!見られてたとか気持ち悪いよね?」
「ううん、私もあなたが友達と話してたの聞いてた事あるし、おあいこ」
「たまに視線を感じる事があったから、もしかしたら見られてるのかな?って思う事あったし」
曇っていた表情が、笑顔に変わった。
「私ね、小説は読まないの」
意外な言葉だった。
「じゃあ、読まずに本を持ってただけ?って事?」
「ううん、本は読んでたの。でも……」
言葉に詰まる。
僕は気まずくなり急いで間を埋めた。
「言いたくないなら、いいよ!無理に話さなくて。前に聞いた時もヒミツって言ってたし」
「あ、違うの。なんて言うか、その……」
また言葉に詰まる。
でも、今度はすぐに言葉を続けた。
「漫画文庫なの!」
顔と耳を真っ赤にして、そう言った。
「へ?」
僕は拍子抜けして、思わず変な声を出してしまった。
「あの、ね、だから、読んでたのは小説じゃなくて、漫画文庫なの!」
「いつも本読んでるから、文学少女みたいに思われる事が多いんだけど、小説とか読まないし」
「読んでるのは漫画で、昼休みもスマホでアニメ観てるし」
「アニメ観たくて急いで家に帰って、勉強早く終わらせて、その後ひたすらアニメ見てて」
「あ、でも別に推しとかいるとかじゃないんだけど。とにかく漫画やアニメが好きで」
「それで実際に付き合って話とかすると、ついアニメの話がメインになっちゃって。彼氏と話合わなくて、結局、私が好きでも相手から振られたりして」
「だから、私はあなたが思っているような特別な存在とか、そういうのじゃなくて、本当にただのアニメ好きなの!」
一気に話した後、肩で息をしている。
あの子を話す勢いに圧倒された僕は、ただその姿を見つめていた。
何も言えずに見ている僕に、
息を整えた、あの子が話を続けた。
「本を拾ってくれた時、何を読んでいるか聞かれて『ヒミツ』って言ったのは、本当の事を言ったら幻滅されるかも。って、怖くて言えなかったの」
「でも、もう言っちゃったけど」
「やっぱり、ガッカリしたでしょ?」
そう言う、あの子は少し泣きそうな顔に見えた。
「……どんなアニメ観てるの?」
僕の問いかけに、戸惑いながらスマホで観ていたアニメを見せてくれた。
「僕もこのアニメ見てるよ」
今度は、僕が自分のスマホに入れている、お気に入りのアニメリストを見せた。
リストを見ながら、
「私のリストと被ってるの多いね」
あの子が僕に微笑む。
その笑顔を見て、僕はあらためて言った。
「僕が憧れていた君より、今の君の方が魅力的だ」
「本当の君をもっと知りたいです。友達から、僕とお付き合いを始めてもらえますか?」
あの子が大きく見開いた目から、涙が溢れた。
「そんな風に言ってもらえたの初めて。見た目と中身にギャップがあるって言われて、幻滅される事が多かったから」
「私で良かったら、よろしくお願いします」
そうか。彼女は人から勝手に作られたイメージに何度も傷ついてきていたんだ。
凛として見えていた彼女が、今は可愛らしい女の子に見える。
僕は、彼女を抱きしめたい衝動に駆られた。
でも、今はまだ早い。
これから、少しずつお互いの距離を縮めていこう。
昼休みはとっくに終わっていた。
僕らは、その日、授業をサボって、
彼女のスマホでアニメ見ていた。
肩が触れ合いそうな距離で。
Fin