1、俺がリリィディアたんなん?!
作者が公開することを躊躇するような阿呆話を読みに来て下さってありがとうございますです(五体投地)
よろしくお願いします。
「ちょっと待って。なんっで俺が、リリィディアたんなん?!」
『ぶちゃいくは、いや!!』
伝説となったバッドエンディングで語られる、あまりにもあんまりで有名な幼い悪役令嬢の癇癪が引き起こしたバッドな意味で最高な奇跡。
それをたった今、自分が叫んで起こしたことに気が付いた俺は、脳みそが沸騰したようになって…。そのまま俺は、俺が俺であった前世のことを思い出してひっくり返った。
乙女系育成シミュレーションゲーム『竜の国が大変です!~新米間者は、そのお言葉喜んでお受けいたします~』略して『ことよろ』は、貧乏男爵家の長女(ちなみに妹3人、弟2人。貧乏なのに両親がんばりすぎだろ)のヒロイン(デフォルトネームはコリーン。”女の子”って意味らしいんだけど名前の付け方雑すぎじゃね?)は、父が病に倒れその治療費から始まった借金がどう考えても返せそうにないほど膨れ上がってしまい頭を悩ませていた。父の傍らでその病苦を自分が代わってあげたいと嘆くばかりで何もしようとしない母はアテにはならないし、年の離れた妹弟の為にも自分が何とかしなくてはと思ったヒロインは、悩み苦しみながらも自ら娼館へ足を運ぶ。その時、ある男から声を掛けられる。
それは、この国の行く末を悲嘆する宰相の命を受けて動く影の一族だった。その長にスカウトされてヒロインは新米間者としての道を歩むことになる。
──というオープニングで始まるこのゲームは、その大袈裟なオープニングとは裏腹に、駄目王子を地でいく王太子と同じ学園に編入して仲良くなり立派な王太子へと育成、国を揺るがす事件に共に立ち向かうという乙女系育成シミュレーションゲームだ。
かくいう俺、ゲーマーを名乗る百合丘主水(某必ず仕留めちゃう仕事のできる昼行燈FANの祖母ちゃん命名。決してキラキラではいない)も、かなりやり込んだ記憶がある。
イベント時の会話の選択で王子の好感度を上げていくのは勿論だが、王子を委縮させるハイスペック超絶美形婚約者からの横やり(Hi&Lowゲームや競馬予想、クリケットなどのミニゲームがある)に勝利することで王子のスペックが上がったり下がったりするのが楽しくて、エンディングそっちのけで嵌まる人が続出、廃プレーヤーが量産された。
しかし、伝説とされたのはそんなことじゃない。廃課金じゃなくて時間廃人を生むゲームなんて無課金で出来るゲームならいくらでもあるし。
伝説となったのはこのゲームの豊富過ぎるエンディングの中での一つのルート。バッドエンドなそのラストだ。
学園の卒業式に王太子の育成スペックは足りていても好感度が足りない時に迎えることになる、ある意味このゲームを伝説(笑)としたバッドエンドに繋がる大魔法を、さっきの俺は使ったようだ。
「うっわ。ホントにすげぇ」
目を覚ませば、そこには本当に美形しかいなかった。
そう。『ことよろ』を伝説(笑)にした大魔法とは、このカルヴァーン王国全体を幻術魔法で包み込み、その国へ一歩でも踏み入れた途端、誰もが美形に見えるようになるという、美形で当然の乙女系ゲームの根底を覆すなんとも惨いもの。
これが明らかにされるのはこのゲームに数あるバッドエンドの中でたった1つのルートでだけなんだけど、コンプ厨ならずとも楽に解放されるルートということもあって初期からネタ動画として上げられまくりで祭りになった。
エンディングでリリィディアがこの魔法を解きながら「皆様、お幸せに」とかいってこの国を去るという、どうやって幸せになれって言うんだと総ツッコミを入れずにはいられないもので、コントローラーを握る手が震えたのを覚えている。怒りによる震えじゃない、脱力系の笑いでだ。
このバッドエンドは『ことよろ』を有名に押し上げた反面、素は不細工と判明している王子の好感度を上げる気になれなくなる病を発症する者が多数出る羽目になったという伝説のネタルートである。
正直、これは仕方がないと思う。滅茶苦茶臭い台詞は美形にのみ許されるものだ。うん。
そんなことより、自分で体験してみて判ったことがある。
(──自分で使った幻術魔法に自分が掛かる不思議)
まぁ、元々自分が美形スキーだからこそ、この魔法を使おうとしたんだもんね、リリィディアたん。
というか、実際のところはリリィディアは現在、国によって人としてあるべく封印されている筈なんだけどなー。それでもこの魔法が使えたのは、それが国への加護という形を取っているからだ、なんて考証がされてたっけ。これでFAなのか。
そうそう。この世界では残念ながら人間には魔法が使えない。
それならなぜリリィディアが使えるのか。それは…
「リリィディア様。お気づきになられたようですね」
ベッド脇で立つ、侍従服を着たダンディな爺が俺に声を掛けてきた。
爺はともかく、その後ろには侍女服を着た色っぽい美人。んー。誰だろ。
「あー、うん…いや、えっと、…セバス? …わ、わたくし、どれくらい気を失っていたん…の、か、しら?」
我ながら、完全にアクセントが不審な外国人である。
女言葉というか貴族っぽい言葉遣いなんかしたことねーし。知識として頭にあるのと、実際に使うのでは天と地とも違うのである。うん。
それにしても、誰が誰なんだか。顔が変わっちゃってるからリリィディアたんの記憶もちゃんとあるというのにまったく判らんのよね。声と瞳の色から推測するしかない。とはいえ、リリィディアたんの記憶の中にいるその服を着た爺はセバスという家令しかいないのでそれだけは賭けに出る必要はない。ただし後ろにいる侍女服を着た女性だけは判らないままだ。
俺のおげふぃんな言葉遣いに眉をぴくりと動かしたその男は、その動揺をそれ以上表に出さず普段通りの冷静な声を掛けた。
「3日ほどでございます。突然…こほん、あるお言葉を叫ばれた途端、いきなりお倒れになりました。医師の見立てでは初めてお声をお出しになられてお疲れなのではないかということでございました」
なにやら話し難そうだ、と考えて、ふと思い出した。そうだった。リリィディアたんは、この魔法を掛けるまで不細工相手に口を利くのが嫌だとひと言も発したことは無かったんだっけ。うはっ。ラッキーかよ。つまり、今までのリリィディアたんの話し方と比べられることはないっつーことか。んじゃ、いつもの話し方で…いい訳ないか。
やっぱりね、公爵令嬢にあるまじき発言ばっかしてたら拙いんだろうなぁ。はぁ。
「ごめんなさい。まだ頭がふらふらするん…するのです。もう少し、寝て、いたいです」
それっぽい文章を考えて大根役者上等って思いながら布団を被る。そうして視界に入ってきた自分の腕の細さと手の小ささに吃驚する。
しまった。この時のリリィディアたんって何歳だっけ? 幼女が初めて喋るにしては文章がまとまり過ぎてたか。いや、でもスパダリかっつー位ハイスぺなリリィディアたんならこれくらいイケる、ハズだ。
誰に向かって言い訳してんだって思いながらも、布団の中で俺の心臓が嫌な感じにドッキドキに高鳴る。ラブ関係ないし。つか、TS中の俺にここでラブとかいらんし。
いや。でも、そうか。そうだ。最推しに逢おう。
そう考えた途端、先ほどとは違う、本気の胸の高鳴りで俺は舞い上がった。
「リリィディア。話がある」
先触れも何もなく部屋の扉が勢いよく押し開かれる。
そこから現われたのは、リリィディアの父レイン・ラモント公爵だった。
(声は、確かに”おとうさま”だ)
リリィディアたんの記憶の中にいるラモント公爵は『あぁ、昔はモテたんだろうな』と思わせる少しうらぶれた感じのする美中年だ。そういえばリリィディアたんの記憶にはないけれど脳天シースルーだという憤死ものの設定もあったっけ、などと失礼なことを思い出しながら、ちらりと上掛けの隙間からご尊顔を見上げる。
(うはっ。レイン様、マジもんの美中年かよ。すっげぇぇぇ)
大人の色気とはこういうものをいうのだとフェロモンがぷんぷん漂ってくる気がする。その顎に生えた無精髭すら雰囲気があって、知的なのにどこか危うげでワイルドな魅力まで溢れて見えた。
うおぉ。神絵師さまのあの絵がリアル3Dにぃぃ!! お布施(課金ね)は? お布施するとイベ発生したり別スチル観れたりしませんか? やべぇぇぇ。hshsしたい。 さすがの俺も、リアに興味なかったんだが?! でもここは乙女系ゲームの世界だし。2Dみたいなもん…俺的にはセーフなの?! どうなの、俺!!
…自分でも何言ってんだか判んなくなりそうだ。うん。しかし、TSした今の俺なら口に出してもいいんじゃないかな。いや、口は拙いか。やっぱ脳内で絶叫までだな。よし。
さすが、俺の推しの一人である。最推しではない。
でも、美形ご馳走様です!!
………。
あー。腐男子という言葉を御存じだろうか。男×男の恋愛話いわゆるBLが大好物な女子を腐女子というが、あれの男版である。
一応言い訳させて貰えれば、俺は最初、百合男だった。
百合男は、女×女の恋愛話が好きな男子ってヤツだ。苗字が百合丘だからじゃない。
だって、綺麗じゃん? なんかヤンデレ闇話すら純愛だと思うと尊かった。可愛い女の子でも綺麗な女の子でも良かったし、そのうち不細工なのを気にしている女の子の百合話だってイケるようになった。どれもこれも美味しく頂きました。作者様ありがとう。
でもある日、ネットで腐女子と『男×男と女×女、どっちが純愛だ』と言い争った結果、お互いのお薦めを読みあって決着をつけることになって…結果は御覧の通りだ。
あ。負けた訳じゃない。あっちにも『これもアリね』と言わせることに成功したので引き分け。イーブンだ。
同性に恋をして切なさに流す涙に貴賤なんてなかった。俺は開眼した。腐男子爆誕である。
ついでに言っておくと、俺は「用意された萌えになんか萌えねぇよ!」と元々GLやBLとして作られた作品に興味はない。わざとらしく盛りに盛られて演出されるそれを見るだけで反吐が出ると公言して憚らなかったし、実際に薄い本を作りたくなるのは、どうでもいいコマの端っこにいる推しのちょっとした表情や、交わしてないけど交わしているような気がする視線の行く先や、台詞と台詞の行間を埋めるようにして深読みして妄想を滾らせた結果としてだった。
だから俺の部屋には判り易いタイプのGLやBL本は置いてなかった。薄い本以外は。
勿論、男でBL好きだっていうのはやっぱり躊躇うものがあって。別に俺自身が男を好きになる訳じゃないんだけど、それでもネット以外で公言したことは無い。チキンな男である。
「リリィディア。聞いているのか? 起きなさい」
命令形!! ぐっと来る。来すぎる。なにこれ、自分がどMだなんて吃驚すぎだ。そんな性癖初めて自覚したわ。
心の中は暴風に揺れる小舟状態だけど、表面上には表さないよう気を付けながら、命令に従ってベッドから起き上がる。
やっべぇぇ。顔が熱いんですけど。俺、いろいろ業が深すぎやしませんかねぇ?
「リリィディア。これは…お前がやったのか?」
おぉ~。ゲームと同じセリフを同じキャラが同じ顔(といっても2Dアニメ絵が立体になってるので印象がだいぶ違う)でいうとぐっとくる。それにしても、声は一緒なんだ。すげぇ。ということは、どこかで違うアニメやゲームに転生してる奴がいて、そのCVが同じ声優だったら同じ声っつーことになるのか。うおぉ。なんたる無駄考証。誰も検証できないっつーね。そう簡単に異世界というかゲームやアニメの世界に転生なんかできるかっつーの。転生したとして、記憶を取り戻さねぇで終わる奴も多そうだ。
あ。知らない物語の中に入り込むのと、TSして悪役令嬢になるの、どっちがマシかなぁ。はぁ。
ため息を吐いて俯く。すると、すぐ近くでなにかの熱源を探知(とでも思わないとやってられねーって)して顔を上げれば、すぐそこにレイン様のご尊顔があった。拝んどくか。いや、違う。そうじゃない。
「れい…うおっ…じゃない。…し、失礼いたしま…でもなくて、えぇっと。そうだ。『お髭の形、きらい』?」
最後、発言が疑問形になってしまったのは許して欲しい。
いくらネタ動画で散々見ていたとはいえ、俺はリリィディアたん推しという訳でもなく一つ一つの台詞の細かい部分まで暗記している変態どもとは違うのだから。
そうして。疑問形ではあったものの、俺が口にしたセリフは間違っていなかったようだ。
フッ、と一瞬だけ視界がブレたと思った次の瞬間には、レイン・ラモント公爵の髭はまだらに伸びた無精髭から、凛々しく整えられたダリ髭へと変わったのだった。
魔法ってすごい(でもこれ、加護なの?)
そうして視界の端に映り込むそれにぴくりと頬を揺らしたレインが、部屋にある大きな鏡を覗き込み、少しだけ眉を顰める。
そうして再びリリィディアを見つめた後、深く息を吐いた。
「…顔が赤いな。もう大丈夫だと聞いたが、まだ熱があるようだ。まだしばらくは寝ていなさい」
そういうと、もう振り返ろうとせずに廊下へと出て行く。
その後ろ姿を見つめていた俺の脳みそはすっかり沸騰状態だった。
ぐずぐずに頽れるようにして布団に潜り込む。
「おとうさまのお申し付けに従い、寝ようと思います。しばらく起こさないで、ください」
そんな俺にセバスは「その前に、水分だけでもお取りください」といって吸い飲み器を近づけてきた。
中に入った黄金色の液体で満たされたその器からは甘い花の蜜の香りがした。
勧められるまま、そこからとろりと甘いそれを口に含む。それはほんの少しだったけれど、ゆるりと、けれど身体の隅々まで潤してくれた。
そうか、これがあの花の蜜の果実水、か。
そう思ったのも束の間、俺の意識は眠りの闇に沈んでいった。
このところ、ずっと真面目っぽいお話ばっかり書いてた反動がきたのかも…。
一時間ごとに続きが公開されます。
読む順番にお気を付けくださいませ。




