3R9
「火球」
ゴーレムに近づく最中に後ろから聞こえる声。
一瞬速度を落として後ろを振り向くと、黒い杖の先で火の球がどんどん大きくなっている。
仕方ない、配信されてしまうみたいだし、頼人の邪魔をさせないように前衛の仕事をしっかり果たしてみせようか。
攻撃の届く範囲に到達、体を半回転させながら裏拳の要領で氷のような敵の足にトンファーを振り切る。
92ダメージ
手応えは充分、やはりこの攻撃方法が今の俺の最大火力を出す方法みたいだ。
ゴーレムが3メートルの体に見合った長い腕を振り上げる。
初見のモンスターだし、見た目的にも攻撃を喰らうのは避けた方が良いだろう。
もう1発右手で軽く突いてからボスと距離を取ることにした。
攻撃してすぐに逃げた為、与えたダメージは見えなかったが、恐らくさっきの半分あれば良い方だろう。
敵の攻撃は予想通り腕の振り下ろし。
先に動いていたので余裕を持って躱す事が出来たが、振り下ろされた腕が地面に当たった衝撃で動けなくなる。
そんな中、俺の頭の上を巨大な火の球が通り過ぎて行き、無防備な巨人の顔に直撃する。
222ダメージ
後ろをチラリと見ると魔力剤を飲んでいる頼人と目が合った。
「全魔力込めたよ、もしかしたら魔法耐性が強いのかもしれない」
言いたい事を汲み取ってくれたのだろう、願っていた答えが男の口から発せられる。
いくらレベルが高いからといっても、門番戦の象に与えたダメージと比べると少なすぎる。
まぁ、それでも緑のゲージを丸々2本消し飛ばしているのだが……
火の球を喰らった巨人は怯む事なく攻撃を続行して来るみたいだ。
さっきと違うのは対象が俺ではなく後ろにいる頼人だという事。
歩いていたゴーレムが突然止まる。
チャンスか?
トンファーを構えながら突進する俺の頭上をボスの目から出た水色のレーザーが通り過ぎていく。
後衛のことは気になるが、ボスが立ったまま硬直しているこの機を逃す選択肢はない。
勢いを弱めないまま左手のトンファーを綺麗な足に叩きつける。
そのまま右、左、右と突き、反動の力を借りて最後に裏拳を決めてから1度様子を見る。
止まったままの巨人に動く気配は無い、とゆうよりも何か動いてるものに対して狙いを付けているような感じだ。
体勢を戻しとにかく足を叩く。
目の前には与えたダメージがどんどん表示されていくが、残念ながら計算する余裕はない。
1発だけ、違う音がした。
同時に頭上を走る水色の線と赤い球。
音の正体は巨人の左足にヒビが入った時に出たもの。
水色の線は恐らくさっきのレーザー、それと反対方向に飛んで行った赤い球は頼人の魔法だろう。
さっきの流れを思い出せばこれはチャンス。
考えると同時に走り出した俺はまだ狙っていない右足の方へと向かっていく。
4発叩いた時に感じる異変、レーザー攻撃の後は動かない筈のゴーレムからは冷気のようなものが漂っている。
ヤバイ
今まで色んなゲームをやってきた自分の直感を信じて全力で後ろにダッシュする。
ペットボトルから炭酸が抜けるような音と共にゴーレムの体から白い霧の様なものが勢いよく吹き出した。
直後右足に感じる違和感。
どうやら回避は間に合わなかったらしい。
転ばない様に必死に立て直した後に足を見てみると、見事に凍っていた。
状態異常 凍結
視界に映る情報と実際に動かない右足がなんとなく効果を予想させる。
巨人のHPバーは残り2本。
今は頼人に向けて連続でビームを放っている。
しかもその間さっきの冷気が常時展開されていて近接攻撃は出来そうにない。
魔法を放つのを諦めたのか、頼人が杖をしまいオンボロソードを右手に近づいて来る。
それを確認したからか、単純に時間が来たからかは分からないが、巨人がレーザーを放つのをやめて腕を高く上げる。
狙いは変わらず頼人だ。
振り下ろすまでにかかる秒数は最初のそれよりも数段早い。
剣を持った男はかろうじて避ける事に成功するも、衝撃ですぐには動く事が出来ない。
しかし衝撃のお陰で右足の氷が砕けて動けるようになった。
腕を引き戻すゴーレムに接近、残り2本なら次の攻撃を喰らう前に削り切れる筈。
同じ考えだったのか、剣を冗談に振り上げた頼人も巨人に向けて走っている最中だ。
ボスの腕が再度上がるのと俺達の最初の1撃が当たるのは同じタイミングだった。
2発目、武器の差で俺の右トンファーが巨人の左足に直撃、巨人の腕が下がり始める。
3発目、赤く光ったオンボロソードが巨人の右足を破壊、同じく赤く光った丸太トンファーも左足にヒビを入れる。
どうやら削り切る事は出来なかったようだ……
体勢を崩した巨人の攻撃が真横を通り抜ける。
動けない内に敵のHPを確認。
残り23
どんな攻撃でも当てれば勝ちだ。
火球 速
口にするだけで目の前に現れる火の弾丸。
やはりこの魔法は使い勝手が良い。
勿体ない、そう思う気持ちを抑えて全ての魔力を込めた球が巨人の輝く瞳に直撃する。
「……良い魔法だね」
消滅していく巨人には見向きもせず、こっちを見る頼人の瞳は少し細められていた気がした。
「さて、第三層に行こうか」
いつの間にか猫を乗せた男が隣で呟く。
「あぁ」
次が最後の共闘だ。




