3R4
「さてさて、何が出るかな」
大きな門を見ながら笑う頼人。
配信用の動画を撮ってるらしく、少し上を見ながらぶつぶつと喋っている。
「負けられないですね」
何故か動きが硬くなっている妖精が震える声で呟く。
「真由 緊張 無意味」
「うぅ、わかってますけど……」
一定の高さで揃う黒猫の突っ込み、しかし表情を良く見てみれば少し呆れているように見えないこともない。
確かに不特定多数の人に視聴される中で負けたくはないな……
「まおさん、準備は良い?」
挨拶を終えた頼人がこっちを向く。
特に準備する事も無いので頷いて返すと、左手を俺に向けて話し始めた。
「皆に紹介するね、今日だけパーティを組む えんの まお さんだよ」
その後も武器はトンファー、職業は体術使い、ゲームを始めたばかりの初心者コンビだと言っていた。
最初は人の情報を……と思ったが、戦闘風景を配信する以上こちらの手の内がバレるのは仕方ない。
癖やパターンが出来ていたら最悪だ……
俺も後で動画をチェックすることにしよう。
そんな事を考えている間に門に異変が起きた。
地鳴りの様な音と共に脳内に響くアナウンス。
特殊ダンジョン 試練の門に挑戦しますか?
はい いいえ (1/2)
横についている数字はゴールデンウルフ戦を思い出せば参加人数、つまりパーティメンバーの情報だろう。
迷わずに はい を選択、直後景色が変わった。
今までと同じ草原には違いないが、頼人を除いて他にプレイヤーは1人も居ない。
黒猫と妖精は相変わらずだが、バトルの邪魔にならない様に空中に逃げてくれたみたいだ。
「来たよ」
横から聞こえる男の声、その言葉通り門の方から何かが歩いてくる。
『先を目指すものよ、力を証明せよ』
久しぶりに聞くモンスターの声。
低く威圧的な音は確かに門番と呼ばれるに相応しい。
「象……なのかな?」
自信なく呟かれる頼人の声。
確かに、地面を揺らしながら歩いてくる魔物は間違いなく象に分類されるのだろう。
それでも象だと言い切れないのは鼻よりも長く、先端が巨大な鉄球の様になっている尻尾のせいだ。
何て言えば良いのか……
なんとなく攻撃方法がわかる気がする。
他は事前に集めた情報通り、象のレベルは20、体力は600で緑ゲージが2本。
「まずは普通にやろうか」
考えた事は一緒だった。
軽く頷いて返した後に新しい相棒、丸太トンファーを握りしめてグレーの象に近付いていく。
俺の攻撃力は武器の値を合わせて65、更に体術の2割補正が入れば73。
他人のステータスを見たことが無いので自信を持っては言えないが、この層なら高い分類に入ると思う。
その代わり防御は紙レベルな訳だが……
そうこう考えてる間に目の前には象の左足。
もう少し頑張れば牙にも届きそうだが、反撃が怖い。
どちらにしろチャンスだ。
攻撃しようと試みるが問題が発生する。
トンファーの使い方が全くわからない……
象はまだ動く気配は無い、とりあえず丸太の先端で殴ってみるか……
12ダメージ
視界に数字が出た瞬間に動けなくなる。
首を動かすことは出来ないが視界に異常は無い。
決して大きな音ではない、しかし耳には何かの鳴き声だけが入ってくる。
事前の攻撃方法と現状から推測するならこれが咆哮……
体に自由が戻ってくる、硬直時間は1秒前後。
同時に門番が身体を大きく捻ると、鉄球のような尻尾の先端が遠心力を伴って迫ってくるのを確認出来た。
巨大な象の動きは遅くないが速いわけでもない。
今の俺なら余裕で避けることが出来る。
尻尾が目の前を通り過ぎるとガラ空きになった象の横腹に巨大な火の球が直撃、表示されるダメージは520。
象特有の長い鼻が上がり真っ赤な口の中が姿を表すともう1度体の自由が奪われる。
クリアな視界の中ではHPが68まで減った門番が鳴いていた。
「なんて威力だよ……」
ついつい呟いてしまった言葉にライトが反応する。
「魔力を全部込めたからね、こっからは僕も近接戦に移行するよ」
いつの間にか黒い杖からオンボロソードに装備を変えていた頼人に向かって象が走っていく。
「ライトっ」
「大丈夫」
青い髪の男は襲いかかる牙をしっかりと見てから横に少しだけ移動する。
目標を失った象はそれでも止まらない、すれ違い様にボロボロの剣が赤い光を放ちながら魔物の皮膚に食い込む。
68ダメージ
『見事』
その言葉だけを残して門番は光になって消えていく。
やばい、何もしてない……
こうして俺達の初共闘は幕を下ろしてしまった。




