3R
「こんにちはー」
残り時間20秒、脳内でゴールデンウルフ討伐戦に参加しますか? とアナウンスを聞きながら、なるべく愛想の良さそうな声で話しかける。
「ん、どうした? あぁ、初心者か」
怪訝そうな顔をしながら振り返った男は、俺の装備と真上に表示されているステータスを見て納得したのか、すぐにワイルドな笑みを浮かべる。
「時間が無いから説明は無しだ、迷惑なんて思わないから参加したければ参加しろ」
ただ、始めたばかりでデスペナは痛いぞ?
筋肉盛り盛りな体に厚い鉄の鎧を装備した男が挑発してくる。
表示されている残り時間は5秒
熟考する余裕は無い。
まぁこれも経験か……
「経験 大事」
頭の中で思った答えと黒猫が隣で発した言葉が被る。
左手を動かして はい を選択。
それから数秒後、黒い狼を中心に半透明の光が広がってゆく。
途中で光が黒く染まった、俺達は半径50m位の黒い膜のような物に閉じ込められたみたいだ。
ゴールデンウルフ討伐戦、参加人数32人、戦闘開始
「アオォォォォォォォォォォォォン」
脳内に響く機械的な音、続けて耳から入ってくる鳴き声がさらに脳を揺さぶる。
「全員散開! 狙われてない時は全力攻撃、狙われた時は全力回避だ」
筋肉男の指示が飛ぶ。
驚いたことに狼よりも声がでかい、鼓膜が破れそうだ。
「初心者の兄ちゃん、狙われてない時に攻撃しにいっていいぜ、でも他の奴の邪魔にならない様に気を使ってやれな! いつまでもボスの近くに居るのは悪手だぜ」
早口でそう言った男は叫びながら狼に向かっていく。
しまった、名前もレベルも見ていなかった……
「ありがとうございます」
お礼を言ってはみたが、間違いなく聞こえてないだろう。
既に武器を振るっている人も多い。
頭上にはHP1824/2000 緑のゲージを4本持つ狼は暴れまくっていた。
盾を持つプレイヤーを爪で攻撃したと思ったら胴体を斬っていた人間に噛みつきをする。
何人かやられた奴もいるのだろう、参加人数が27人になっていた。
参加したからにはダメージを与えなくてはいけない。
狼が他の人を狙ってる時に後ろ足を殴ってみる。
7ダメージ、6ダメージ、7ダメージ、5ダメージ
左、右の順番で合計4発。
利き手の左と右とで威力が違うのはフルダイブ型ならではの事だろう。
「魔法の準備完了ぉ 全員どけぇ」
耳に入ってくるのは幼い女性の声、拡張機でも使ってるのかと疑問に思う程、膜の中全てに届くレベルの大音量。
確かこのゲームでは、魔法が他プレイヤーに当たると部分的に、もしくわ完全に消滅してしまう仕組みだったはずだ。
さっさと後ろに下がろう。
幸い狼は他のプレイヤーを狙っている為、安全に避難出来そうだ。
あれっぽっちのダメージでは攻撃対象にはならなかったらしい。
「発射ぁ」
子供がBB弾や水鉄砲で遊んでる時に出すような掛け声。
しかし実際に飛び出る弾はそんな優しいものじゃ無い。
初歩的な火の球や水の球は勿論、中には鳥の形やドラゴンの形をした魔法も狼に向かっていく。
ただ、スピードはあまり速く無い……
これは当たるのか?
結果から言えば考えすぎだったみたいだ。
色彩も形状も豊かな弾の群れが敵に迫る中、ウルフは何も気にせずに盾を持った男を襲っていた。
そのまま時は進み順番に魔法が当たっていく。
頭上のHPはどんどん減っていき緑のゲージは既に半分が空になっている。
HP500/2000、ゲージにして残り1本、このタイミングで体力の減少が止まった。
同じタイミングで2つのことが起こる。
まずは狼の毛色が黒から輝くような金色に変わった事。
次に同じ色の衝撃波が発生、狼に向かっていた魔法は全て消えてしまい、近くにいたプレイヤーは大きく吹き飛ばされる。
急いでスキルや魔法を発動させようとする回復役の人達を、さっきの数倍の速度で動く狼が優先して攻撃する。
呪文を唱えていたり、狙われると思っていないヒーラーに回避など出来るわけもない。
金色のオーラを纏う狼の爪や牙が次々とプレイヤーを光に変えていく。
「そろそろ来るよぉ」
緊迫した空間に流れる場違いな声に気を取られたのはほんの一瞬、その隙にもう1度狼から金色の衝撃波が発生する。
「決めるぞ」
金の波動に吹き飛ばされて消えていくプレイヤーを無視して最初に話した男を含めた数人がボスに接近。
参加人数はとうとう1桁になってしまった。
衝撃波を放った体勢から動かない敵、そうなる事を知っていたかの様に武器を輝かせる男達。
それから1秒もしない内に金色の狼は光の粒になって消えていった。
congratulations 貢献度2%
+2500w +2500exp 黄金の毛 黄金の牙
脳内に響くアナウンスと他の魔物と段違いの経験値。
続けてレベルが18になった事も知らされた。
いつの間にか黒い膜は無くなり、爽やかな風の流れる草原が復活する。
「おぉ、初心者の兄ちゃんも生き残ってたんか」
レイン、そう表示された筋肉質な男が幼女を連れて歩いてくる。
「お兄ちゃん運が良いねぇ、さっきの狼はめったに逢えないのにぃ」
戦闘中に聞こえた幼い声、雰囲気的にこの2人は組んでいるように思える。
「狼の動き知ってたんですね」
本当にレアなモンスターなのだろう、貢献度によってどれくらい差が出るのか分からないが、たった2%であの報酬だ。
さっき感じた疑問を口にする。
「あれを倒す為にこんなつまらない場所に居るからな
まぁ、次も一緒に戦えたら宜しくな」
曇りのない、最初に見たワイルドな笑み。
きっと消滅した人には何の関心も無いのだ。
「こちらこそ宜しくお願いします」
心に感じる嫌な気持ちを隠しつつ挨拶を返す。
何はともあれ嬉しい誤算なのは確かだ。
レベルアップで得た自由ポイント30を攻撃、速度、魔力に10ずつ振り分ける。
このレベルならもっと難しいクエストに挑めるだろう。
さっさと残りのアイテムを集めて1度帰るか……
いつもより力を込めて小さい狼を殴ってしまう。
残り6個、早く出てくれないかな?
俺は両肩に猫と妖精を乗せて歩いていく。




