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決着

 

 踏み込んだ左足に全体重が乗った瞬間、頼人がオンボロソードを左手に持って剣先を後ろに引く。


 左利き?


 相手との距離は3メートル程度、おそらく二歩か三歩で懐に潜り込めるはず。


 警戒しなければいけないのはカウンター。

 剣の動きに対応できる時間を作る為に相手の右側から攻めていく。


 一歩目、相手に向かって真っ直ぐ進む


 二歩目、地面に触れた右足に力を入れて大きく左に跳ぶ


 三歩目、を踏み出す前に頼人の右手が赤く輝くのを視認


 魔法の初期動作!

 次の動きはほとんど無意識だった。


 流れる体を支える予定だった左足に命令を取り消し、そのまま左に倒れ込むようにヘッドスライディングをする。


「火球」


 声が聞こえたのと地面に衝突するのは同じタイミングだった。


 油断だ……

 完全に魔法は無いと思い込んでいた。


「これが魔法ね」


 追撃に備えてすぐに立ち上がる。

 相手は掌を見ながら少し頷くと、剣を右手に持ち替えた。

 

「良く避けれたね」


 こっちを見ないで吐かれた言葉。

 下を向いたまま恐ろしく低い体勢でこっちに向かって来る。


 どうする?


 いつの間にか高速で回転していた頭で考える。

 体をすぐに動かせるように腰を落としてかかとを上げておく。

 

 残り1メートル、警戒していたはずなのに、いつの間にか下段からオンボロソードが迫ってきていた。


 馬鹿な……初期動作を見逃した?

 混乱しつつも後ろに下がった事で回避には成功。


 振り上げられた剣はそのまま上段からの攻撃に変化する。

 

 ゲームの中では基本的な行動、流石に読める。

 剣の軌道から外れて相手に接近、ナックルを装備した拳で突きを繰り出すが、余裕を持って避けられる。


 俺の動きを捉える青い瞳に動揺は一切ない。

 馬鹿みたいに落ち着いている、そんな印象。

 

「遅いよ」


 多分、言葉通りだ。

 俺のように攻撃に対して予測的、反射的に避けるのではなく、奴は攻撃をしっかり見てから、どうするか判断しているのだろう。


 速度は上回っている筈なのに、未来が見えてるかのように最小限の動きで躱す相手に、ただの1発でも入れられるビジョンが想像出来ない。


「銃弾の方が速いし、武術家の突きの方が鋭い」


 小さく呟かれた事実。

 今までやっていたゲームで戦ってきたのだろうか?

 

 プレイヤースキル。

 余り好きな言葉じゃ無いが、レベルが違う。


 せめて魔力が1でも有れば不意打ちが出来たのに……

 やっぱり少しは上げておくか……


 弱気な心とは裏腹に集中力は高まっていく。

 攻めは当たらず、躱すのは精一杯。

 勝てるかわからない相手、しかもボスとかじゃあなく、同じ条件のプレイヤー。

 こんなの楽しくなってしまうに決まっている。


「速度は重要なんだね」


 軽口を言いながら攻めてくる青髪。

 頼人独特の身体をしならせる様にしてくる攻撃は起点が見えなくて厄介だ。

 もし後少しでもスピードが速かったら一瞬で負けていただろう。

 

 でも、魔法は俺が初めて使った時よりも遅い。

 つまり相手の速度は10以下の可能性が高い。


「俺も色々勉強になったよ」


 攻撃手段が近距離のみは辛すぎる。

 ゲーム内で対人戦はやってきたが、格闘技等のプレイヤースキルが無いため、ステータス以上の力は出せない。


 お互いに攻めきれない膠着状態。

 なんだか懐かしい。

 昔もこんなことがあった気がする……


「いくよ」


 耳に入ってくる爽やかな声。

 確かあの時はどうしたっけ?


 オンボロソードが頼人の後ろに消える。

 どうせいつの間にか来るんだろう。


 最初から後ろに飛んだ。

 目の前に作られる銀色の線。


 このままじゃあ埒があかない。

 我慢するのは苦手なんだ。

 最後の勝負を仕掛けよう。


 着地と同時に突進


 相手の選択はさっきとは反対方向からの斬り下ろし

 

 しゃがんで避けるついでに合図で使った石を拾った

 

 伸び上がる勢いに任せて右手で顎を狙う


 避けられるのは知っていた

 だからそのまま左手で石を投げつける

 無理な体勢から放った石は弱々しく頼人へ飛んでいく。


 甘いよ裕くん、見えてたよ

「甘いよ、拾ったの見えてたよ」


 半歩右に移動。

 記憶の中の親友と同じ、未来予知の如く簡単に避けられる。


 知っていた。

 

 上げたままの右手をピンと伸ばしチョップする。 


 今度は左に半歩。

 ちょうど伸ばし切った左手の前に頼人が戻ってくる。

 腕が後1cmでも長ければ勝ちだったのに……


 礼をしながら前にならえをしている様な体勢。

 こんな無様な姿勢では次の攻撃を避けることは出来ないだろう。


 だから、最後の賭け。


 左手のナックルを親指で外して人差し指の力だけで投げつける。

 狙える場所は1箇所のみ、飛ばせる距離はせいぜい50cm程度。

 それでもこの距離なら見てから躱す事は出来ない筈だ。


 勝率はどのくらいだろう?

 左か右か、の50%?

 いや、後ろに下がるかもしれないし、ジャンプする可能性だってある。

 

 下を向いているから頼人の顔は見れないし、考えは読めない。

 でも、あの時の親友は後ろに飛んだ。


「僕の動きを読み切ったのかい?」


 銀色の剣が空振る。


 投げられたナックルは残像をかき消す様に頼人の右膝に当たって落ちた。

 

 

 

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