運営会議3
うっすらした意識の中に、聞き慣れたアラームの音が侵入してくる。
3月にしてはとても寒い……
布団の掛かっていない顔だけに襲いかかる冷たさが、眠気を急速に奪っていく。
あくびをしながら大きく伸びをする。
トイレに行こうと思ったが、体は暖かさに囚われて、思い通りに動いてくれなかった。
布団から出たくない……
でも漏れてしまいそうだ……
そう思いながら、もう少し時間を費やしたが、どうにも布団の温もりから抜け出す事は出来なかった。
とうとう膀胱に限界が来たのだろう。
さっきまでの葛藤が嘘のように体を動かすことに成功した。
トイレから帰って来ると、少し違和感を感じる。
正午にしてはいつもより暗い……
気になって外を見てみると、空から白いフワフワしたのもが降っていた。
雪なんて何年ぶりだろう……
あまり外に出るのが好きじゃないタイプの俺でも、窓の外に広がる幻想的な景色にはテンションが上がる。
フルダイブ型のゲームが発売されてから、綺麗な風景、本物そっくりな世界各地の名所、文字通り光の降る世界、等々、感動的な景色を手軽に見ることが可能になった。
それでも肉眼で見て、肌で感じる事の出来る現実の景色は別物だと思える。
そういえば、いつの間に寝ていたのだろう?
ベットに入りながら土の壁を突破する方法を考えようと頑張っていた所までは覚えているが、結局、何も思い付けないまま寝てしまったらしい。
まぁ、仕方ないか……
せめて1回くらいは逃げ切ってやろう。
カーテンを閉めた俺は、いつも通り携帯をチェックしてからログインする事にした。
画面にはメールが一件届いていると通知されていた。
差出人は自称親友だ。
俺は成長した、今まで誰も登録していなかった連絡先には、鈴木さん、遠藤さん、学、新の4人が追加されている。
ヤッホー! から始まるメールの内容はただの業務連絡だった。
攻略法が広まってしまった事。
スライムを操った俺とハエを操作した新、が1度も逃げきれなかった事。
さらには、今まで高確率で生還していた学でさえも倒される可能性が高くなってしまった事。
この3つの報告を受けたリーダーは、レアモンスターを操作する意味が無くなったと判断したらしい。
その為、明日やる予定だった運営会議を今日に前倒しして行うと書かれていた。
集合時間は12時30分。
メールを読み終えた俺は時計に視線を向ける。
長針は丁度5と6の間を指している。
そろそろ行きますか
準備を素早く済ませてマシンを起動。
暗闇の世界で光の奔流を楽しみながら会議室に向かう。
既に部屋にいるのは3人。
リーダー、緑の妖精、黒猫がそれぞれ席について話している。
「今日は早いねー」
「うるせ」
確かにいつも最後の方だった気がする……
こっちに気付いた妖精の言葉に何も返すことが出来なかった。
「おはよう、どこでも良いから座ってくれ」
優しく笑いかけてくれる鈴木さんに挨拶を返しながらいつもの場所に腰をかける。
残っている席は2つ。
誰がくるか予想したのと、実際に2人が現れたのは同じタイミングだった。
「新くんはともかくとして静ちゃんがギリギリなのは珍しいですね」
「遠藤さんが喋る方が珍しいっす」
「ナンデスカ?」
「ナンデモナイッス」
白羽の妖精の視線に白衣の青年がビクッと震える。
あれ……
遠藤さん居たっけ?
「ナンデスカ?」
「なんでもないです」
つい反射的に返してしまった……
目があった金髪の妖精の瞳からは光が消えている。
「静ちゃんはさっきまで資料を作ってくれてたんだよー」
緑の妖精の言葉に頷いたスーツの女性はプリントを取り出し、全員に配り始める。
「今日は急に集まって貰ってすまない
今回のイベントの現状収支と明日から公式サイトに載せるランキングの確認だけして終わりにしよう」
全ての人間に資料が渡ったのを確認したリーダーが声を上げる。
「基本的には紙に書いてある通りです」
立ち上がったままの静さんが説明をしてくれた。
A4の紙には大きく'第二回イベント回収額'と書かれている。
いつものように縦長のリストを使わないのは何かこだわりが有るのだろうか?
プリントに書いてあるのは各ダンジョンの挑戦回数とその合計。
そして最後には回収出来た金額が書かれていた。
経験値の洞窟
初級 1日目131回 2日目143回 3日目156回……
中級 1日目101回 2日目120回 3日目123回……
高級 1日目 9回 2日目 7回 3日目8回……
合計 初級965回 中級743回 高級49回
回収 96500000+743000000+490000000
=1329500000w
=1億3295万円
wの洞窟
初級 1日目420回 2日目746回 3日目780回……
中級 1日目252回 2日目562回 3日目591回……
高級 1日目143回 2日目437回 3日目469回……
合計 初級5974 中級4120 高級3153
※実際の還元率 87% 92% 97%
回収 77662000+329600000+945900000
=1353162000w
=1億3531万6200円
※10体のレアモンスター全てを倒した時の還元率を100%で計算、そこから時間内に魔物を倒せなかった場合を考慮したもの※
なぜだろう? 高校の授業を思い出す。
数字だらけで頭が痛くなりそうだ……
メガネを触りながら話す彼女は、最終日の結果を入れてないのでこれが確定では無いが、攻略法の浸透でwの洞窟からの回収が見込めない以上、増えても少しだろうと言っていた。
「高級の還元率が高いのは挑戦するプレイヤーのレベルが高いからですかね?」
話終わった静さんが席に着いたのを確認した遠藤さんが手を上げて発言する。
「恐らくそうだろうね、高レベルプレイヤー、自信のあるプレイヤー、後は一攫千金狙いのプレイヤー位しか挑戦しないだろうからね」
答えたのはリーダーだった。
「まぁ今回のイベントは上出来だろう
途中アクシデントもあったが、学のお陰で無事に乗り越えることが出来た」
みんなから視線を向けられた自称親友は一瞬笑うと、ピースサインで応える。
「さて、ではランキングの調整と、他にお客様の競争心を煽るものや、興味を引けるものが無いか話し合おうか」
そう宣言したリーダーの瞳は力強く、引き込まれそうな黒だった。




