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今日からスライムになります


「逃げるっす! 超逃げるっす! ひたすら逃げるっす!」  

 

 左耳から聞こえる泣きそうな声。 

 薄暗い洞窟の中を全力疾走する俺達の後ろからは、数えきれない程の矢が飛んでくる。

 

 左に、右に、時には上にジャンプして避けていくが、それでも躱しきれない光の矢が、いつもより小さくなった体に、容赦なく衝撃を与えていく。


 なんとか生き残ろうと足掻いてはみたが、6回目の衝撃が走ると共に目の前が真っ白になってしまう。



「裕二 1分53秒 新 1分59秒 情けない 少し休憩」


 視界が切り替わると、本来なら可愛いはずの黒猫にため息を吐かれる。

 

「いや、あんなん無理っすよ?」


 横で反抗するのはハエの形をしたもう1人の犠牲者。


「学は1時間逃げ切った」


 無機質な声。

 青と黄色のオッドアイが言い訳は許さないとばかりに、じっと覗き込んでくる。


「あいつは例外だろ……」


 思わず口に出してしまった。


 そもそも何故こんな状況になってしまったのか、休憩しながら少しだけ思い出してみる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 技術的介入を開始します

 精神的介入を開始します

 

 暗闇の世界で久しぶりに聞いたアナウンス、視界に光が戻ると、俺は薄暗い洞窟の中にいた。


 見える景色がいつもよりも低い……


 違和感を覚えながらも周囲を見回すと、ベルゼブブがそのまんま小さくなったようなハエと、柔らかそうな毛で覆われた黒猫が俺を見ていることに気付く。


「裕二さんっすよね? 新っす! よろしくっす!」


 ミニベルゼブブが挨拶をしてくれる。

 あらた? 確かこの前の会議で一緒だった気がする……


「シャル よろしく」


 ハエにつつかれた黒猫も自己紹介をしてくれた。 

 小さい体から見上げる猫はとても迫力があって、少しだけビビってしまった事は内緒にしておこう。


 俺も軽く自己紹介した後、色々と説明を受ける。

 どうやら今日はいつもの妖精2人が休みらしく、特別にこの2人が面倒を見てくれるみたいだ。


 話を聞くと、イベントで動かす専用のアバターになれる事と、相手プレイヤーからの攻撃を上手く避けれるように練習する事が、本日の仕事内容らしい。


 イベントダンジョンには、スライム型、ハエ型の2種類のモンスターが5匹ずつ出現する設定で、俺は前者の魔物として操作する事になる。


 ハエが大きな鏡を持って俺を映してくれる。

 左右反対に映る銀色の体はまさにスライムで、水のような、固形のような、ずっとプルプルしている感じ。


 うん、これはもう昔のゲームで、経験値のために狩りまくった、はぐれたスライムそのものだ……


 少し雑談を挟んでから本題に入る事にした。


 まず最初に行ったのは基本動作の確認。


 目と口は付いているので、会話等には困らなかったが、手や足が無いので前に進んだり、後ろに下がったりするのに大苦戦したのを覚えている。


 最終的に風船の中に入っている気持ちで操作すればある程度は思い通りに動けるようになった。


 ついでに訓練の途中で、腹筋に力を入れるとジャンプ出来ることも発見出来た。


 次に行ったのは対人訓練。


 黒猫が攻撃してくるのをひたすらに避ける練習。


「いくよ」


 やる気を感じさせない声で合図を出すくせに動きは素早く、攻撃は超的確。

 基本的な動きしか出来ない俺に、こんなのを避けろと言われても無理に決まっている。


 何度も何度も引っ掻かれては殴られ、たまに蹴られたり噛まれたりしながら合格を貰うと、実戦形式の練習をする事になった。


 次回のイベントで、俺と同じく魔物を操作する新が訓練に加わる。

 ちなみに自称親友もスライムとして参加する予定らしい。


 レアモンスターに与えられたHPは6で固定されているが、どんな攻撃を喰らっても1しかダメージを受けない様になっている。

 つまり6回攻撃を受けてしまうとげームオーバーだ。


 薄暗い洞窟を新と俺で必死に逃げる。

 時には物陰に隠れたり、壁に張り付いてみたり、別行動にして撹乱してみたりしたのだが、結果は惨敗。

 そして現在に至る……


「もう一回」


 その言葉を聞くと同時に全力で走り出す。

 横に飛んでいるハエと目を合わせると互いに頷き、別々の道に分かれていく。


「無駄」


 白い光に包まれたシャルは長い尻尾を揺らしながらハエを追いかけ始めた。


「うわっ! 来たっす! 怖いっす!」


 まだ攻撃されてないのに涙目のハエが必死に逃げる。


「ホワイトアロウ」


 毛並みとは正反対の色、薄暗い世界で綺麗に輝く白い矢が現れると怖がる新に向かって飛んでいく。


「分裂」


 黒猫の放った矢が増えていく、2本になり、4本になり、8本になり、16本に……

 全ての弓矢を操作するシャルは心なしか、笑っている様に見える。

 

「もう無理っす、無理ゲーっす、後は任せたっす」


 開始から1分弱、光の矢に飲み込まれたミニ魔王が力尽きる……


「次 裕二」


 そう呟いた猫が、にやっとした……気がする。

 まだ距離はある。

 焦らないで逃げて、どこか隠れる場所を見つけなければ……


「捕まえた」


 後ろには悪魔がいた。

 

 この後も訓練、もとい拷問は続く。

 襲いかかる矢を回避する事が出来たと思えば、全方位から黒い球が飛んでくる。

 必死で全ての魔法から逃れる事が出来たとしても気付けば後ろには死神が立っている。



 無理ゲーだろ……


 

 訓練が終わる頃には、新との間に不思議な友情が芽生えた気がした。



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