表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/87

第1回イベント後半戦7



「何やってるんですか?」

 

 休憩時間が終わり、意識が炎の魔王に戻ってから最初に見た光景はいじめの現場だった。


 大きな瞳をウルウルさせながら飛んでいるベルゼブブの背中には無邪気に笑う黒の魔王が乗っていた。

 薄緑色に透き通る6枚の羽が地面に落ちないように超高速で働いている。


『もう無理っす 筋肉痛なるっす 重いっす』


 最後の言葉と同時に鈴木さんが拳を落とす。

 流石に可哀想になってきた

 今にも消えてしまいそうな声にはいつもの元気がない。


『痛いっす 嘘っす 重くないっす 軽いっす』


 俺が戻ってきた事に気付いたのか、叩かれた頭を手で撫でながらハエが飛んでくる。


「おかえり、ゆっくり休めたかい?」


 ハエから降りた魔王の表情は優しい。


「休めました」

 

 何をやっていたんですか?

 返事と一緒にもう1度疑問を口に出す。

 

「ん? あぁ、空を飛びたいと思ったんだよ」


 少し考えてから納得したように答えてくれる、彼女に抱いていたイメージが音を立てて崩れる気がした。

 まだ出会ってから時間も経ってないし、仕事の場面でしか繋がりは無いが、もっと隙の無い完璧超人のような人だと思っていたのに……


「可哀想だよ」


 ハエがこちらを見つめてくる。


「やっと敬語をやめてくれたね」


 黒い瞳を細める魔王はそう言って笑った。

 ちなみにベルゼブブはあれで喜んでいるから問題ないらしい。

 そんな訳ないっす、痛いの嫌っす、と抵抗するハエはどこか嬉しそうだったから不思議だ。

 他人の性格や心はそう簡単に理解出来ないらしい。

 

「今日から別行動なんですよね?」


「そうだね、戦闘の回数も増えるだろうし、纏まっていると行動範囲も狭くなる」


 イベント中だけ専用の機能の1つとして、もしログアウトしている時に倒された場合は携帯に通知が来るらしい。

 相手を呼ぶためのボタンはお互いに持ったままだ。

 

「私は裕二さんについて行きます」


 肩が少し重くなる。

 いつの間にか金髪の妖精が座っていた。


「ありがとう、じゃあお互いに頑張ろう」


 黒の魔王はその言葉を最後にベルゼブブに乗って飛んでいく。


 少しだけ前に進む。

 目の前にあるのは境界線。

 その線よりこっち側には石の森が広がっている。

 向こう側には黄色の森。


「俺たちも行くか」


 妖精にだけ聞こえる声で呟きながら第三層に侵略する。

 

「黒の魔王」


 黄色い世界に踏み入れた瞬間に感じる殺気。

 そこに居たのは刀を腰に差した侍。

 

 思考よりも早く炎の魔剣を構える。


「また会えましたね」


 配信者リンの体が淡く輝いていく。 

 深く息を吸う、集中しろ、頭を切り替えろ


 初めて見る悲しそうな顔。


「残念ながら私の担当は貴方では無かったようです」


 悔しそうな声が聞こえる。

 無表情に戻った侍は違う方向に走り出した。

 そのスピードは凄まじく、追いかけても追いつくことは出来ないだろう。


「どうゆう意味でしょうか?」


 戦闘に巻き込まれない様に空中に逃げた妖精が戻ってくる。

 

 わからない……

 ただ、理由もなく逃げる様なプレイヤーでは無い。

 たった数分、たった1度戦闘しただけのプレイヤーなのだが、そう思った。


「とりあえず進もうか」


 剣を抜いたまま歩き始める。

 リンの事は気になるが、どんな答えでもやることは変わらない

 この層に居るプレイヤーを狩ることが今の仕事だ。

 それにイベントをクリアする気があるなら戦う機会は絶対に訪れる。


「なんか……ボスっぽくなって来ましたね」


 耳元で妖精が笑う。

 そうだろうか?

 でも、楽しくはなってきた

 そして新たに6人のプレイヤーを見つける。



「あー、あいつの情報通りだわ」


 先頭を歩くチャラチャラした男と目があった。

 大きな槍を片手に、金色の装備を付けた姿、ぱっと見だけならハミルトンと同じ騎士のようだ。

 だが、好き放題に跳ねたオレンジの髪に何か噛んでいるのか、小まめに動く口がだらしない印象を与える。

 

 その後ろには大きな盾を持つプレイヤーが2人、弓と杖が1人ずつ、そして1人は顔見知りの勇者。


「我が宿敵よ、再び逢えるこの時を待ち望んでいたぞ」


 いつものように勇者ルシファーが輝く大剣を抜いて走り出してくる。

 対処は簡単、こっちも剣を水平に構えて叩き斬る。


「ぬっ? 義晴殿?」


 チャラ男が背中を掴み突進を止めた。


「今日はそうゆう日じゃないだろ」


 冷えた声が森に響く。


「申し訳ない……」

 

 今のうちに出来るだけステータスを確認したい。


 義晴    レベル51 勇者 HP136/106 黄金の槍

 ルシファー レベル36 勇者 HP121/91銀の大剣

 けんと   レベル34 勇者 HP119/89正義の盾

 あかり   レベル33 勇者 HP118/88正義の盾

 シノ    レベル37 僧侶 HP161/161回復の弓

 ゆい    レベル35 魔女の卵HP84/84魔女の杖


 

 相手の動きを警戒しながらの為、防具まで見る余裕はなかったが、ある程度は把握出来た。


 勇者で固めたパーティーに後衛職を混ぜた感じか……

 幸い、1人を除いてレベルはそんなに高くない。


「けんちゃん」


 義晴の言葉に盾を持った男が前に出る。

 他の5人に動く気配は無い、何のつもりか知らないがそれなら好都合だ。


 武器を炎の魔剣からスピードナックルに切り替える。

 盾の大きさからみて小回りは聞かないはず。


 1発目、わざと盾の正面を全力で殴る

 特に反応は無し、完全に防がれたみたいだ。

 他の人間に動きは無いまま、


 2発目、右に90°移動しての脇腹狙い

 これも防がれるが、盾が少し上に浮く。

 チャラ男が空中で指を動かし始める。


 3発目、速度の差を活かして180°回り込み後ろから殴る

 反応はされたがこれはヒット、体勢を崩している間にもう1発いれておく。

 ここで男の体が光に包まれた。

 どうやら体力が無くなったらしい。


「チッ」


 つまらねぇ、気のせいじゃ無いならそう聞こえた気がした。

 

「あかり」


 仲間がやられたのに彼等に動揺は一切ない。

 チャラ男の言葉を聞いたもう1人の盾使いが前に来る。


「アトラクト!」


 女性の持つ盾が赤く光る。

 

「アトラクト!」


 同じ詠唱に同じ現象。


「アトラクト!」


 3回目の魔法かスキル、俺に変わった所は感じられない、防御を上げる系統だろうか?

 答えがわからない以上確かめるしかない。


 動きは同じ、速度で翻弄して盾のない所から攻める。

 他の4人は相変わらず立ったままだ。

 

「鋼鉄化」


 今度は体が茶色く光を放つ、名前的にも間違いなく防御アップ系統の魔法だろう。

 それでも俺の拳は聖属性の勇者には2倍、体術(5)で1.5倍、対複数人補正で1.05倍の補正がつく。


 5発攻撃を入れた時点で相手が退場する。

 チャラ男に動揺はない。


「ゆい」


「パラライズ」

「ポイズン」

「スリープ」

「ホールド」


 杖を前に魔法を唱えてくる魔女の卵。

 1発1発にかなりの量の魔力を込めているらしく、すべての魔法が広範囲に展開している。


 魔王の心得のおかげで未だに状態異常になってはいないが、これだけ露骨にやられたら流石に気付く。


 これは間違いなく研究されている……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ