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動物と彼

作者: 文代 呉波

 これは、さが総文文芸部門・散文分科会において、「埴輪犬」の画像を見て原稿用紙2枚以内のショートストーリーを書くときに執筆したものです。時間内に書き切れなかったものの、発表しないのは惜しかったので投稿します。

 彼は不思議な人だ。

 僕が彼に出会ったのは、中学生のときだ。一年生で同じクラスになり、部活も帰る方向も丁度同じだったので自然と話すようになっていた。

 彼には不思議な力があった。彼の周りには動物がたくさん集まってくるのだ。僕が彼と一緒に登校していると、ブロック塀を乗り越えて猫がやってくるし、田んぼからは雀がやってくるし、何なら竹垣の隙間から蛇までもがやってくる。

 それらの動物が集まってくるのを、彼は一匹一匹に挨拶する。彼なりのルールがあるようで、餌は絶対に与えない。しかし動物たちは、僕でも感じるほどの彼の温かさに引き寄せられているようだった。

 そんな彼が、最近息を引き取った。僕は地元を離れていたが、その訃報を聞いて、唯一と言ってもいいほどの親友だからと有給を取って実家に帰った。故郷は心なしか緑が痩せ衰えて、黄土色や茶色がちらほら見えた。

 葬儀場も例に漏れず、随分と汚れて古臭くなっていた。しかし、中は綺麗に清掃されており、ここだけ世界が違うような気がした。

 黒や白の服を身にまとった人達が大勢葬儀場に集まり、通夜が営まれた。昔の同級生の面影が残る人は数人いる。おそらく実際はもっと多いだろうが、僕の交友関係が狭いからよく分からない。

 通夜の後、僕は親族控室に顔を出した。彼の母は、僕を見るとすぐにこちらに近寄ってきた。長らく、彼女と会話を交わした。

「あの子、動物好きだったでしょう。亡くなる前に私に言ったのよ。僕の棺の中に、動物のぬいぐるみを入れてほしい、僕が生きている動物の命を奪うのは忍びないから、って」

 僕は、彼らしい死に方だ、と思った。

 やはり、彼は不思議な人だ。

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