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ガラスで出来た花

作者: 風の民

私はこの家に住んでいる。

たまに窓から他の家を見るが、この家は他の家よりも多少大きく豪華に感じる。

この家の住人は私の事を"クロ"と呼び、皆私を可愛がってくれている。

しかしどうも、私は人間の言葉が理解出来ない。

どうやら私は人間ではないようだ。

薄々感じてはいたが、鏡に映る住人と自分の姿がどう見ても違うのだ。

人間は私ほどけむくじゃらではなく、大きな身体をして2足歩行で歩く。

それを見て 彼らは私とは違う生き物なのだと気付かされた。

甘えた声でニヤけながら私に近寄ってくるが、何を言っているのか全く分からない。

仕方なく乗ってあげると彼らは喜ぶ。

こうしていると飯に困る事は無い。

訳の分からない言葉さえ無視していればいい生活だ。


ある日私が退屈していると、どこかから声が聞こえて来た。

人間の訳の分からない言葉ではない。

はっきりと私の耳に聞こえ、意味を理解出来る声だ。

私は声のする方へ近寄ってみた。

徐々に大きく聞こえてくる。

この辺か?と部屋の窓ぎわを見上げると一輪の綺麗な薔薇の花があった。

しかし只の薔薇ではない。

無機質な、まるで作り物のような薔薇。

私は薔薇に言った。

「さっきから一人でブツブ喋ってるのはあんたか?もうちょっと静かにしてくれ」

薔薇は答えた。

「うるさいわね!私に話しかけないでよ、汚らわしいけむくじゃら!私は今機嫌が悪いのよ!」

私は少し苛立ったが心を冷静に保ち、彼女に質問した。

「何をそんなに怒っているんだ。私で良ければ話を聞かせてくれ。」

薔薇は不機嫌そうにこう答えた。

「私の向かいに棚があるでしょ。あそこに新しい花が活けてあるの。全くこの家の住人は、私という美しい花がありながら違う花を活けるなんてどうにかしてるわ。」

私は勘づいていた。

どうやらこのガラスで出来た彼女は自分を本物の薔薇だと思っているようだ。

彼女は続けた。

「あんな花、どうせすぐに枯れてしまうのよ。惨めね。ほんと哀れだわ。私は永遠に枯れる事のない美しい花よ。私さえ居ればこの家に花を飾る必要なんて無いわ。」

私は少し笑いながら彼女に聞いた。

「しかしこの家の住人は毎日水を変えて毎日あの花の世話をしているよ。ところが君はどうだ?誰にも見られずただひたすら埃をかぶるだけだ。決して美しいとは思えない。」

彼女は分が悪そうな顔をして

「なによけむくじゃら!あなたもあっち側なのね!?私は枯れないわ!永遠に輝き続けるのよ!これほど素晴らしい事が他にあるかしら!?」

不機嫌ながらも自慢そうな顔をしている彼女を見て、私は彼女と話すのを諦めた。


数日後、またあそこから声が聞こえてきた。

彼女はえらく嬉しそうに高笑いをしている。

「ほらご覧なさい!見るも無惨に枯れているわ!滑稽ね!やはり私には敵わないのよ!あはははは!」


私はもういい加減にしてくれと思い、彼女にこう言った

「君は永遠に枯れないが心はとっくに枯れ果ててるよ。」

彼女は何も言い返さずにそっぽを向いた。

彼女は彼女なりに何かに気付いているのを確信した瞬間だった。

その瞬間、今まで煩わしく思っていた私の心に初めて哀れみと言う感情が芽生えた。


次の日私はどうも騒がしい家の雰囲気にソワソワしていた。

どうやらこの家の主人の親戚が集まって来たらしい。

私は不安を抱いていた。

親戚の中には小さな怪獣が2人ほどいるのだ。

家中を荒らし回り、散らかし回る。

かく言う私も追いかけ回された事が多々あった。

奴らがくる…避難せねば…

私は彼女のいる部屋に避難することにした。

彼女は心配そうに言う

「あなたどうしたの?そんなに怯えてみっともない。男なら堂々としなさいな。」

私は答えた

「うるさい!お前は奴らの怖さを知らないんだ!バレたら追いかけ回されてひっぱられるんだぞ!?堂々となんてしてられるか!お前も気をつけろよ!」

彼女は自慢げにこう言った

「私は大丈夫よ?枯れないもの。これだけ美しく強い花など他にないわ。」


ああそうかい。見つかってどうなっても知らんぞ。と言いたかったがやめた。

とにかく今は身を潜めるだけだ。


しばらくしたら、部屋のドアが開いた。

緊張が走る。彼女も少し焦っている様に見えた。

扉の方を見ると、2人の小さな怪獣が…


終わった。

私は一目散に逃げたかったが今動くと気付かれる。


ゆっくりゆっくりと奴らが近づいてくる…

こちらもゆっくりゆっくりと距離を離そうとしていたその時、奴らは私を見つけて思い切り走ってきた。

私は必死に逃げた。

が、その瞬間…


「パリーン!!」


奴らが壁にぶつかり、その衝撃で彼女は床に真っ逆さま。

美しい姿も無惨に塵のように割れてしまったのだ。


割れた音を聞いて大人たちが来た。

怪我はないか。と怪獣たちの心配をしている。

彼女は既に危険物扱い。

跡形残らず掃除機の餌食となった。


彼女は枯れた。

いや、やっと枯れる事が出来たのかもしれない。

心のどこかで枯れる事を望んでいたのかもしれない。

彼女も花だったのだから。

今となっては単なるガラスでしかないので私には分からないが。






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