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第9回 出会いから結婚前日まで(前編)


ちょっと番外編かもしれませんが…

少しだけ恋愛っぽくしたいと思います。



 出会いは高校2年生のときだった。

 たまたま席替えをしたら、貴也の隣の席になり、彼の前が村瀬の席になった。それまでお互いにあまり話したことがなかったため、最初はぎくしゃくしていたが、村瀬のおかげで貴也とすごく仲良くなることができた。


 彼らはとてもモテた。スポーツ万能で、勉強ができて、そのうえルックスもいい。まるで漫画に出てくる男の子のようだ。

 だけど、2人は親友でありながら正反対だった。

 ちゃらい村瀬は、当時いろいろな女とつきあっているという噂が絶えなかった。だけど、貴也は告白されても誰ともつきあわないことで有名だった。


「なんでつきあわないの?」

 試しに訊いたみたことがある。

「ずっと片想い中だから」

 はっきりと答えた貴也。その一途さに千尋は惹かれた。心から彼の好きな人が羨ましく思えた。


 貴也の好きな人は上級生だとか大学生だとか噂が広がったが、どれに対しても貴也は曖昧にしか答えなかった。

 千尋も訊いてみたくてたまらなかった。だけど、その瞬間自分の恋が終わることを知っていたから絶対にそれはしなかった。


 だらだらと片想いが続いた。

 気がついたら高校生活最後の日、卒業式を迎えていた。


            ◇


 最初は長いと思っていた高校生活は、過ぎ去ってみるとあっという間だった。

 卒業式が終わってみんなが帰っていく中、千尋は最後まで帰ろうとはしなかった。

 最後の1人になったとき、千尋はチョークを握って黒板に落書きをし始めた。すでに『みんなありがとう』と書かれた黒板にはそれほどスペースはなかった。


 どれくらいたっただろうか。突然教室のドアが開いた。

 びくっとして振り返ると、そこには貴也がいた。走ってきたのか息が荒い。

 千尋は貴也を見たまま固まってしまった。黒板に『貴也のバカ アホ ボケ 大好き』と書いてあった。


「バカ、アホ、ボケで悪かったね」

「い、いや。これは・・・・・」

 慌てて黒板消しで消そうとすると、それを貴也によって止められる。そして代わりに彼は『貴也』の部分だけ消し、そこに『千尋』と書いた。


「あっ!そっちだってやってるじゃん!」

「読んでみて」

 千尋の言葉を無視して、貴也はチョークを置いて手を払う。

「・・・・・千尋のバカ、アホ、ボケ・・・・・・・・・・・・」

 大好き。


 決まりの悪そうな顔で、貴也は頷いた。

 信じられなかった。もしかして・・・もしかして・・・?

「えええぇぇっ・・・・・」

 変な叫び声をあげて、千尋は後ずさったが、やがて壁にぶつかってしまった。


「なんで?片想いだって言ってたのに」

「まさか両想いだとは思わないだろ」

「い、言ってよ・・・」

 情けない声が教室に響く。

「今言った」

 けろりと貴也は言い放った。


 これが2人がつきあいだしたときだった。

 この後、下駄箱というなんだかむさくるしい場所で初めてのキスをした。


            ◇


 お互いの大学は違ったが、2人は週末のたびにデートした。

 キスだってうまくなった、と千尋が思いながら唇を合わせていたときに、突然貴也の手が千尋の腰にまで下りてきた。

「―――っ!?」

 さすがに驚いて貴也を見上げると、彼はとまどったようにごめんと謝ってきた。


 気がつけば貴也の部屋に2人きりで、しかも今はベッドに腰掛けている状態だった。シチュエーション的にはばっちりかもしれない。

「も・・・もうちょっとだけ待ってて・・・・・」

 小さな声でそう言った。怒るかどうか心配だった。

「うん。待ってる」

 貴也は優しく微笑んでそう言ってくれた。


 本当に待ってくれた。

 千尋の決心がついたのはそれから半年後だったというのに、彼は文句1つ言わないでくれた。

 旅行先のベッドに千尋は横になり、その上に貴也が覆いかぶさった。


「なるべく痛くないようにしてね・・・?」

 千尋が頼むと、貴也は千尋の額に自分の額をこつんと当ててきた。

「うん」

 優しい瞳が頷いた。そして、ゆっくりと顔が動きキスが始まった。


 貴也の手はまるで割れ物を扱うかのような手つきで優しかった。

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