第8回 バレた
えぇっと…千尋はただ体が入れ替わっただけなので『性別チェンジ』したわけではありません。
いわゆるオチで使っています。
家に帰ってすぐに、千尋は貴也の家の近くで見た血の跡らしきものの存在について話してみた。それに対する孝太の反応は意外にも薄いものだった。
「事故った記憶なんてないけど」
「それはそうだけど・・・もしかしたら事故のショックで忘れてるだけかもしんないじゃん!」
熱を込めて話すと、「そこなんだよね」と孝太が真剣な顔つきになった。
「リッキーがちゃんと家に帰ってきてた」
「どういう意味?」
「俺が覚えてない空白の時間、リッキーは1人で家に帰ってきたって母さんが言ってた。俺は庭で寝てたのに」
ようやく孝太が何を言おうとしているかがわかった。
「何か忘れてるみたいだね。私も台所にいたところまでは覚えてるんだけど」
事故に遭ったとしたら、自分が道路に出たということになる。なんのために出たのかわからない。
思い出すにはまだ何かパーツが足らないらしい。
◇
そして翌日、クリスマスイブになった。去年は貴也と過ごしていたことを思い出し、千尋は少しだけ悲しくなってきた。
だけど、どこかに出かける気にもならず、家でごろごろ過ごそうと思っていたときだ。
「千尋ちゃん。お友達が来てるわよ」
孝太の母の言葉に玄関まで行くと、そこには高原南の姿があった。
こないだの一件以来まともに会話していなかった。
「ごめんね。突然来ちゃって・・・今井先生に住所教えてもらったの」
「そ、そうなんだ。どうしたの?」
南はすごく言いにくそうにしている。できるならそのまま何も言ってほしくなかった。
「明日もしよかったら一緒に遊びに行かない?」
さすがに迷った。頭の中でいろいろなものと格闘し、ようやく答えは決まった。
「うん。いいよ」
「ほんとっ?やったぁ!嬉しい」
こんなに嬉しそうにされたら断ることなんてできない。
どこで待ち合わせるか簡単に話し合ったところで南は帰っていった。わざわざ住所まで聞いてここまで来てくれたことから本気で孝太のことが好きなのだろう。
そういうのは悪くない。好きになってもらえるのは嬉しいことだ。
まずい・・・なんか流されてる自分がいるなぁ・・・・・
◇
「千尋さん、どこに行くんですか?」
南とのさっきのやり取りを聞いていたらしい。さっきから孝太はしつこく千尋にいろいろと訊ねてくる。
「だーかーら、村瀬の家だって言ってるじゃん」
「俺も行きます」
今日の村瀬のバイトは夕方だから、午前中に会いに行こうと思っていた。彼に昨日のことを訊いてくれたかどうか確かめるためだ。
今さらになって、村瀬の家の電話番号を聞いておけばよかったと後悔していた。
「来てもいいけど、ちゃんと変装してよ」
「わかってます」
2人が村瀬の家に行ったが、呼び鈴を押しても応答がなかった。
「おっかしーなぁ・・・まだ寝てんのかな」
「どっかに出かけてるのかも」
ケータイがあったら便利だなと千尋が思っているとき、好奇心でなんとなく玄関の扉を開けようとしてみた。すると、
「開いてる」
無用心な家だ。千尋は孝太に目配せをした。
「えっ!勝手に入ったらいくらなんでもまずくないですか?」
「村瀬――いないの?」
返答はない。ただ静まり返った部屋があるだけだ。
「―――千尋・・・・・」
そんな声が聞こえてきたのは、暗い村瀬の部屋からではなかった。千尋と孝太の背後からそれは聞こえてきた。
振り返るとそこに立っていたのは―――貴也だった。
彼はまっすぐに孝太を見ていた。
バレないように帽子と眼鏡で変装して顔がわかりにくいにも関わらず、貴也は正確に千尋だと判断した。
とうとうバレた。