第6回 対面した4人
学校に行くたびに、隣に座る高原南の視線が気になり、千尋は複雑な気持ちになっていた。
元をたどればなんで自分は男になったんだろう・・・?
例えばドラマだと、階段か何かから落ちたらその拍子に入れ替わるというのがお決まりのパターンだが、そもそも千尋は何が起こったのかさえ覚えていない。
戻りたいなぁ・・・
窓の外を見てぼんやりと考えていると、自分の座る机に何かが投げられたのがわかった。よく見ると、それはノートの切れ端を切った手紙のようだった。
「・・・・・?」
先生にバレないように見てみると、かわいらしい字で文字が書かれている。
―――あのこと考えてくれた?
隣の南を見たが、彼女は気づかないフリをして授業に専念している。
来たな・・・とうとうこのときが。
―――もうちょっと考えさせて
そう答えることしかできなかった。南を傷つけるかもしれないとどきどきしながら返事を待ったが、彼女の返答は、
―――うん ゆっくり考えて
その言葉に少しだけ安心した。
◇
それにしてもこの先どうしよう・・・・・
今時屋上を開放している中学校なんて珍しい。千尋は高い手すりにもたれかかってこれからのことを考えていた。
・このまま男として行き抜く
・・・・・・そんなのやだ。私は貴也と結婚したい。
・いっそ貴也に正体をバラしてしまう
・・・・・・でも貴也は信じてくれないかな?
・南とつきあってラブラブになる
・・・・・・ありえない・・・早く戻りたい!
よしっ!貴也の家に行って軽くシュミレーションをして思い出そうと思ったときだ。運動場を1人の女の人が歩いているのが見えた。その人はまっすぐに校舎へと向かっていく。
あれは・・・・・・私だ!矢吹孝太が学校に来ているのだ。
なんで?学校には来ないって言ってたのに・・・・・
千尋は慌てて階段を駆け下りていった。
◇
その頃、矢吹孝太は自分が通うはずだった中学校まで来ていた。担任が千尋の婚約者だと話は聞いていたが、好奇心でその人物と高原南を見に来たのだ。
一応変装はしてきた。家にあった眼鏡に、母に協力してもらって髪型も変えてみた。野球帽を深くかぶってし、たぶんバレないだろう。
それに最終手段もある。
「よしっ!」
気合だけ十分に、孝太は歩き出した。
しかし、制服でない人物が歩いているのはただでさえ目立つ。昇降口ですでに孝太はダウンしてしまった。
「孝太君!」
ちょうどいいところに助け舟がやって来た。孝太はのんきに手を振って千尋を出迎えた。
「なんでこんな所にいるの!?」
「家でじっとしているのにあきちゃって」
「だからって見つかったらマズいよ・・・もし知ってる人が来たら・・・・・」
と、そのときだ。下駄箱に1人の少女が現れた。
一瞬マズいとおもったが、孝太の姿を見られて困る人ではなかった。なるべく平静を装って千尋は話し出した。
「え・・・っとこの人は・・・・」
「恋人なの・・・・・?」
ぽつりと呟いたのは、他ならぬ彼女だった。
「矢吹君にはもう好きな人がいたんだね・・・私なんか告白しても無駄だったんだ」
「ちっ違う!この人は・・・知り合いのお兄さんの婚約者で・・・・高原さんが思うようなものじゃないって!」
千尋の弁解に南はしゅんとなっていた表情を少しだけ明るくさせた。同時にそれが恋する乙女の表情にも変わる。
もしかして・・・・この子が千尋さんの言ってた俺のことを好きな人か・・・?
写真で見るのとは違う。余計にそのかわいさが際立っていた。
だから思わず言ってしまった。
「俺とつきあってください!!」
千尋の体で、男口調で。見事にヘンタイ女の出来上がりだった。
しかも、その場面を他に見ていた人物がいたのだ。
「・・・・・・あれ、孝太に南。何やってるの?」
現れたのは孝太も学級写真で知っている、担任の今井貴也だった。彼は生徒2人に問いかけながらもまっすぐに孝太のことを見ていた。
自分の婚約者と2ヶ月ぶりに対面したから・・・・・・
とうとう貴也に姿を見られますが…
本格的に動き出すのは次以降の予定です。