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第5回 騙してる

 勢いよく職員室の扉を開けると、何人かの先生が不思議そうな表情でこっちを見てきた。特に、千尋の苦手な体育の先生は怪訝(けげん)そうだった。

 そんなことにも構わず、千尋は一直線に貴也の机へと向かっていった。

「どうしたの、孝太」

 貴也も何事か驚いている。


「あ・・・・・いえ、あの・・・・なんでもないです」

 今さっき女の子に告白されましたなんて恥ずかしくて言えるわけがない。貴也を前にすることによって、千尋はようやく落ち着いていくのを感じた。

「2年5組はどう?」

「みんないい人たちです。すぐに友達ができました」

「そっか・・・よかったな」


 そのときの貴也のはにかんだように笑う表情が、千尋が以前見た光景と重なった。

 あれは確か、去年のクリスマス。貴也からもらったクリスマスプレゼントに千尋が大喜びしたときに見せた表情だった。

 だめだ・・・思い出したら悲しくなってきた・・・・・


「そうだ。簡単に学校案内しとこうか」

 貴也はすくっと立ち上がって、千尋を職員室の外へと連れていった。


            ◇


 一通りの教室を案内してもらい、大体の位置を覚えたところに、知らない女子生徒が現れた。彼女はまっすぐに貴也に向かってくる。

「今井先生!私と結婚してください!」

 千尋は鼻から牛乳が出るような錯覚を覚えた。

 はぁぁ!?なに今の・・・錯覚?


 対する貴也は困ったように笑っているだけだった。

「先生優しいからまた騙されちゃうよ!私が守ってあげる!」

 騙されるってひょっとして私が?そんなことするかぁぁぁ!!

「私本気なんだから!」


「ありがとう」

 貴也の出した言葉に、千尋は唖然とし、女子生徒は嬉しそうに微笑んだ。そして、

「約束ね!」

 と言い残して、足取り軽やかに去っていった。


            ◇


「約束しちゃっていいんですか!?」

 まさか貴也の心がこんなに変わりやすいなんて思わなくて、思わず千尋は抗議をしてしまう。

「彼女は騙してなんかないです!絶対に!!」

 もちろん自分のことだから断言して言えることだ。


 貴也はしばらく無言だったが、やがて少しだけ寂しそうに笑った。

「誰にも言わなかったけど、みんな知ってるんだなー・・・孝太は?村瀬に聞いたの?」

「い、いや・・・その・・・」

 もごもごと言うと、また貴也は笑った。


「うん・・・彼女はそんな人じゃないって信じてる・・・・・だけどもし本当にそうだったとしても、俺の気持ちに変わりはないよ。それぐらい好きだ」


 こんなセリフ、今まで聞いたことがなかった。だから嬉しくて頬が赤くなるのを俯いてごまかした。

「・・・・・その言葉彼女に言ってあげてください」

「えぇぇ・・・照れるなぁ。普段だったら絶対言えないけど・・・・また会えるためだったら何度だって言えるよ」


 言いたい。自分が田中千尋だって・・・・・だけど信じてもらえないだろう。

 なんだか騙しているような気がしてきた。


「不思議だな。孝太にならなんでも話せるような気がするんだ。ありがとう」

 その貴也の言葉が嬉しくて切なくて、なんだか涙が出てきそうになった。


            ◇


 孝太の家に帰宅すると、いつから来ていたのか村瀬がいた。彼は大学卒業後就職せず、今はフリーターとして毎日の食費を稼いでいるらしかった。

 いつも不思議に思うのだが、村瀬とつきあう女は大変なんじゃないかと思う。

「よっ!元気にしてるか?」

 いつものように軽い調子で村瀬は声をかけてきた。


「なによ・・・冷やかしに来たんなら帰ってよ」

「うわ・・なんだその言い方。心の友に向かって」

 意味不明である。


 ちょうどそのとき2階から孝太が降りてきて、千尋は南に告白されたことを思い出した。

 一応本人に言ってから断るべきだと思い、貴也からもらった学級写真を見せて今日のことを話した。すると・・・

「へぇ・・・かわいいじゃん。まさか断るなんて言わないよね?」


 それは千尋にとって意外な言葉だった。

「当たり前じゃん。だって今日会ったばっかりだし、私女だよ?」

「会った初日につきあうことなんて珍しいことじゃないよ。それに体は男だ。学校ではお姉さんは矢吹孝太として生活しなきゃだって」


 つまりどういうことだ・・・?

「つまりその女の子とつきあえって話だろ」

 村瀬がとんでもないことを口にして、強引に話はまとまった。

なんだか同性愛のような展開になってきました;

本人たちにそのつもりはないんですけどねー……

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