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第2回 再会

 1ヶ月ぶりに訪れた婚約者の家はなんだか寂しそうに見えた。

 村瀬にお願いして一緒に来てもらい、千尋はインターホンを押してみた。

『はい』

 出たのは以前にも聞いたことのある、婚約者の母親の声だった。

「こんちはー。村瀬です」

『村瀬君ね。どうぞあがって』


 ドアを開けて歓迎してくれたのは、見間違えようのないお義母さんになる予定だった人だ。千尋と目が合ったが、もちろん気づいてもらえることはなかった。自分はもう全く顔の違う少年になってしまったんだから。

 お義母さん、少し痩せたな・・・・・

「貴也なら2階にいるわ」

「うん。あ、こいつ俺の弟子みたいなもんだからよろしくね」

 軽い調子で村瀬は答えた。


「・・・・・私がいなくなったことで、みんなにすごく迷惑かけちゃったんだね・・・・・」

 階段の途中でひとり言のように呟く。

「前日なだけマシだろ。当日だったらもっと面倒なことになってたな」

 村瀬はひょうひょうと答えた。


 いざ貴也の部屋の前に来ると、やっぱり緊張してきた。だけど、会いたいという気持ちは変わらなかった。

「貴也ー入るぞー」

 相手の返事を待つことなく村瀬は部屋のドアを開ける。貴也の匂いがした。


「お前休みだからってゴロゴロしすぎだろ。おら、起きろ起きろ」

「なんだよ・・・いきなりだなー」

 ベッドから起き上がったのは、正真正銘自分の婚約者、今井貴也だった。それだけで千尋は泣きたくなってしまった。

 貴也、よかった・・・・・元気そうでよかった・・・・・


「あれ、その子どうしたの?まさか誘拐、とか?」

 貴也の視線が千尋に向けられた。思わずどきっとしてしまった。

 もろに目が合ってしまい、千尋は顔面が真っ赤になってしまうのをなんとか抑えた。

「なわけねぇだろ。弟子だ弟子」

 村瀬は図々しくベッドに座り込んだ。


「弟子なんだ。名前なんていうの?」

 屈託のない笑みで訊ねる貴也は全然変わっていなかった。照れ屋で不器用で子供が大好きでちょっとヤキモチやきで優しくて気配りができて寂しがり屋で・・・・・それから大好きで・・・・・・

 結婚したかった・・・・・この人と。


「あれ・・・・なんかどこかで見たことがある気がするなぁ」

 急に貴也がそんなことを呟いたので、千尋はどきっとしてしまった。もしかして自分のことがわかるんじゃないかと思ったとき、「あ」と貴也が声をあげた。

「思い出した。今度ウチのクラスに転入する矢吹(やぶき)孝太(こうた)君じゃない?」


 違うと言いそうになったところで、村瀬に腕を引っ張られてなぜか部屋の外まで連行された。

「お前、田中じゃねぇのかよ」

「田中千尋だよ。誰だよ矢吹って・・・」

「ほんじゃ、よくドラマとかである体が入れ替わったとかいうもんなんじゃねぇの?だとしたらお前の体のほうに矢吹ってのがいるはずだけど」


「どうしたの?2人とも」

 ドアを開けて貴也が顔を出す。千尋と村瀬は慌ててなんでもないように貴也の部屋に入っていった。

「にしても2人が知り合いだったなんてな・・・あ、俺は矢吹君の担任の今井貴也です。よろしくね」

「よ、よろしくお願いします」

 初めて貴也の前で発した言葉だった。なんとなくあさっての方向を見てごまかしていると、千尋の目にそれは映った。


 ―――昔千尋が無理やり飾った、2人の写真・・・・・それから指輪。

 慌てて貴也を見ると、彼の左手薬指には2人で買った婚約指輪がはめられていた。じゃあ、この指輪は・・・私の?


「それ、俺がつきあってた人だよ」

 千尋が写真を見ていることに気づいたのか、少しだけ寂しそうなトーンで貴也が話した。

「この指輪は・・・?」

「うん。彼女が忘れてったものなんだ」


 違う。こんな大事なもの忘れてったりしない。

 千尋はそのときのことを思い出していた。朝ごはんを作るために台所に立ったとき、指輪が汚れるのが嫌だったからはずしたんだ。

 きっとその最中に自分がいなくなって―――


 まるで別れを告げるように、結婚前日にいなくなったんだ・・・・・・


「そろそろ田中のこと踏ん切りがついたか?」

 村瀬の言葉に、貴也は声にならない声で呟いた。

「・・・・なぁ、村瀬・・・・・・なんで俺、嫌われたんかなぁ・・・・・・・」

そんなに重い内容ではないので、

次も気楽に読んでくださると嬉しいです;;

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