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最終回 まさか

 あったかい・・・・・って思ってたのにすきま風だろうか。顔が寒くなってきた。

「・・・・・・」

 目を開けると、白い天井が広がっていた。まぶしくない電灯があるが、今そこを照らす明かりがそれではないことに気づく。

 なんとなくそこがどこなのか、千尋はわかっていた。


 ゆっくりと上半身を起こしてみる。自分の体だ。少しだけ重いような気がする。

 病室の中には誰もいなかった。ベッドの近くにはイスがあるだけだった。

 千尋は点滴につながれていないことを確認してから病室を出た。


 自分の体を確認しながら廊下を歩く。大丈夫。うん。今何時なんだろう・・・全然人がいない。

 千尋はとりとめのないことを考えながら、別のことを考えないようにしていた。っていうことを考えないようにした。


 気がついたらなんだかよくわからない廊下まで来ていた。千尋は誰かの足音に気づいて振り返った。

 廊下の向こう側、そこに誰かが立っていた。

 その人物は走ってこっちまでやって来て、2メートル先で立ち止まる。それ以上近づいていいのかわからないというようにも見えた。


「貴也・・・・・」

 その瞬間、千尋は貴也によって抱きしめられていた。

「千尋・・・・千尋・・・・・・」

 何度も何度も貴也はその名を呼ぶ。彼の体は震えていた。千尋は彼の背中に手をまわした。

「貴也ぁ・・・・・」


 泣きじゃくった。子供のように泣いた。お互いの名前を何度も呼んで、意味もなく謝った。

 少しして落ち着いてきた。千尋は消え入るような声で呟いた。

「村瀬は・・・・・・・・?」

 その言葉に、貴也は千尋の体を離した。すごく言いにくそうにしているのがわかった。


 それだけでわかった。

「――私・・・・私が村瀬を巻き込んじゃった・・・・・」

「違う。村瀬は自分から千尋たちを守ったんだ・・・・・・あいつはそういうやつだから」

 そういうやつ・・・うん、そうだよね。死んでも他人の心配して・・・あいつほんとにバカだよ・・・・・ほんとに・・・・


 ほんとに涙が止まらないよ・・・・・


            ◇


 その後、簡単な検査や警察の取調べを終えて、千尋はすぐに退院することができた。その際に孝太にも再会することができた。だけど、お互いに何も話さなかった。だって2人が関わることは本来なかったのだから。

 貴也はずっと傍にいれくれた。貴也なら守ってくれると言った村瀬の言葉を思い出した。

 結局、これはただの事故として片付けられた。千尋たちがなかなか目を覚まさなかったのも事件のショックということになっていた。


 月日が流れると共に、このことは忘れ去られていった。


 だけど、千尋だけはこのことを忘れないと誓った。今こうして自分が生きているのは他ならぬ村瀬のおかげだ。彼の分も精一杯生きたい。

 だから忘れない。絶対。







            ◇


 ――2年後。千尋と貴也は結婚した。

 その夜、2人は新しい家には戻らず、式場の近くのホテルに泊まった。

「貴也、今日から改めてよろしくお願いします」

「いえいえ。こちらこそよろしく願いします」

 2人は丁寧に頭を下げて笑い合った。


 大勢の人に祝福された、人生で最も幸せな1日だった。だけど、ここに本来来るはずだった人物が来られなかったのは寂しい。

 千尋の考えていることがわかったのだろう。貴也がレストランに行こうと言い出し、千尋は頷いた。


 1階のレストランは混んでいた。2人は30分並んでようやくテーブルに座ることができた。

 ウェイトレスはまだ来ない。

「・・・・・・・・・」

 代わりに、隣に座る女の子と目が合った。彼女は交互に千尋と貴也を見る。


「結婚おめでとう。さっき見えた」

 彼女は気さくに話しかけてきた。2人は顔を見合わせてからありがとうと言った。

 だけど、女の子の次の言葉は、

「ほんとだよ。世話がやけるよ・・・」


 ん?耳を疑って再度女の子を見ると、彼女ははにかんだように笑って走り去ってしまった。

 入れ違いにウェイトレスが来る。

「ご注文をお伺いいたします」

「まさか・・・・」

「はい?」

「まさかねぇ・・・・・・」

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

結構暗い話になってしまいましたが…許してください;;

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