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第16回 もう面倒はみきれない

 孝太と協力して村瀬を捜すが、彼はなかなか見つからなかった。家にも帰っていない、バイト先にも顔を出していない、駅やコンビニなど思いつく所はほとんど行ってみた。もちろん何度も事故現場にも行ってみた。

 だけど、見つからなかった。


「思い当たる所他にないんですか!?」

「ないよ・・・ねぇ、ここって何なの?」

 それは1番疑問に思うところだった。自分たちは事故ったはずだ。それなのに怪我の1つもしていないどころか、その話題すら出ていない。


 嫌な予感がする。このまま村瀬が見つからなかったら・・・・・・

「――千尋さん・・・」

 孝太の声に気がついて、千尋は顔を上げる。孝太は別の方向を見ていた。千尋もそれにならう。


「―――!」

 誰もいなかった。いや、誰もいなさすぎた。そこは駅前のはずだ。それなのに突然(・・)誰もいなくなってしまった。


「なんで?」

「・・・・本当は俺たちはここにいない存在なんじゃないから・・・・なんじゃないですか?」

 それに千尋は答えることができなかった。こんな非現実的な状況を見せられて、もう何を思えばいいのかわからなくなってしまった。

 どうしたらいいんだろう・・・・・・


 しんと静まり返る世界。自分たち以外には誰もいないのかもしれない。

 ふと思った。この世界に村瀬がいなければいいと。そうしたらきっと彼は生きているような気がしてきた。


 だけど、現実は常に千尋の思っている方向とは別の方へ進む。

「よぉ」

 目の前にはずっと捜していた人物――村瀬が現れた。


            ◇


「なんとなくわかってた。お前らが思い出すの」

 村瀬はいつものように軽い調子で話す。その様子は事故のことなど全く意識していないようだった。

「俺はあの事故で死んだ。たぶん」

 千尋は心の中に重い石がのしかかるのを感じた。

「正確には死んだのはそれよりもずっと後だけどな。11月13日、気がついたらこうなってた」


 11月13日・・・それは千尋がこの体になる1日前だった。

「49日って知ってるか?その間にあの世に行くんだよ」

 まるで他人事のように村瀬は言う。対する千尋たちはあの世という言葉を聞いただけで動けなくなってしまった。


「なんで・・・?ここはどこなの?」

 声が震える。

「ここはお前らが作り出した世界だ。お前ら2人とも自分のせいで俺が怪我したって思い込んで、現実の世界じゃ意識不明なんだよ。なんか精神入れ替わるっていうややこしいことにもなりやがって・・・こんなんじゃすんなり天国に行けねぇだろうが」

 困ったように笑って村瀬は言う。

「ほんとは俺が事情を説明すればよかったんだけどな・・・・俺自身がもうちょっとこの世界を楽しみたくて言わなかった。現実世界でお前らを心配してる人たちには悪いことしたな」


            ◇


 孝太はそのとき、事故のことを考えていた。

 リッキーが飛び出し、自分も後を追ってすぐ女の人と男の人が現れた。そして、気がついたら男の人が血まみれで倒れていた。

 まず最初に思ったことは・・・・・俺のせいじゃない、だった。

 自分が感じていた罪悪感の正体はこれだったんだ。


 情けない。新しい場所ではそういう自分から生まれ変わろうと思っていたのに、ちっとも自分は変わっていなかった。


 そう思ったときだ。孝太は何かに後ろ襟首(えりくび)を掴まれる感覚を覚えた。

 そして、気がつくと、体が宙に浮くように感じていた。


            ◇


 村瀬は2人の変化をその瞳でしっかりと見ていた。

 とうとうこのときが来たんだな。そう思うと少しだけ寂しさを感じるような気もしてきた。

 千尋と孝太の驚く表情が見て取れる。

 もう2人は元の世界に戻ろうとしている。真実を知って、あるべき場所に戻らなくちゃいけないから。

 ここは2人にとって自分を守るための世界だった。

 だけど、いつまでもここにいるわけにはいかない。

 自分が逝く前に2人をちゃんとあるべき場所に帰すこと。それが村瀬の役割だと思った。


 ったく、世話がやけるんだよ。千尋も貴也も、俺がいなきゃ話すこともできなかったくせに・・・・誰のおかげでここまで来れたと思ってんだよ。

 ほんとに・・・・・ほんとに・・・・・・

 もう面倒はみきれねぇ。後は自分らでやっとけよ。


「村瀬!」

 必死にこっちに手を伸ばそうとしてくる千尋を村瀬は見た。

 違うだろ。この手を伸ばすのは俺じゃねぇ。お前のことは貴也が幸せにしてくれる。あいつはそういうやつだ。守ると決めたら絶対守ってくれる。


 1つだけ欲を言えば――――――


「村瀬!!!」

「はっ?」


 そのとき、強引に腕を掴まれた。それと同時に村瀬も何かに引っ張られてしまった。


 ――――その手を俺が守りたかった。

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