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第14回 誕生日会

 12月27日。その日、たまたま電話のかかってきた村瀬に昨日見た花束のことを相談すると、いきなり彼はこう言い出した。

『今から貴也んち集合。孝太にもそう言っとけよ』

「は?」

 相手の都合なんてこれっぽっちも考えていない男は一方的に電話を切った。


 仕方なく2人して貴也の家に行くと、そこには貴也とまるで自分の家のようにくつろいでいる村瀬の姿があった。

「よぉ。おせーよ」

 いけしゃあしゃあと彼は言ってのける。

「これでも早いほうなんだけど。なんなの?突然」

「いや〜昨日俺の誕生日だったのに、誰も祝ってくれなかったからさー・・・自分で誕生日会を開くことにした」

 意味不明である。


「一言言ってくれればプレゼント買ってきたのに」

「義務的なプレゼントはいらねぇ」

 そう言ってよいしょっと何かを机の上に置いた。自分で買ってきたらしい寿司だった。

「よっしゃ!孝太も遠慮せずに食えよ!俺のおごりだ」

 本来祝われるはずの男は、自分で誕生日会を企画し、自分で食料を買ってきたらしかった。


「俺はちゃんとメール送っただろ?」

 イカにしょうゆをつけながら貴也は言う。その間、村瀬はネギトロを頬張っていた。

「おう。お前には感謝してるよ」


 結局ほとんどの寿司を食べたのは買ってきた村瀬本人だった。他の人はいきなりだったため、お腹をすかせておかなかったのだ。

「あの、先生の家にゲームとかってないんですか?」

 孝太が訊ねると、あるよと答えて貴也はテレビの下を探り出す。


 出したのはWiiだった。

「やっぱ誕生日会っていったらみんなでゲームじゃないですか?」

「おー!いいな、やるか!」

 村瀬が張り切ってテレビの前に陣取る。貴也と千尋も顔を見合わせて苦笑した。


            ◇


 気がつけば4人とも夢中になってやっていた。

「よっしゃー!」

「げっ!サイアクだぁぁ!」

 大人も子供も関係なく、騒いで笑って楽しんだ。

 やりながらなんとなく気づき始めた。もしかしたら自分たちが死んだかもしれないと落ちこんでいた千尋と孝太を元気づけるために、誕生日会なんて開いたんじゃないかと・・・・


 まだゲームに熱中している孝太と村瀬を置いて、千尋は台所まで行って洗い物をすることにした。すると、貴也が手伝ってくれた。

「ありがとう」

 2人で家事をしていると、まるで新婚のようだった。男同士だったが。


 もし思い出したらどうなるんだろう・・・・・思い出すことで自分はいなくなってしまうのかもしれない。

 それは悲しすぎる。なんで自分がこんな目に遭うのかと悲しくなってきた。

 それから・・・・二度と貴也に会えなくなってしまうかもしれない自分が嫌だった。


「千尋、1日遅くなったけど、これクリスマスプレゼント」

 いきなりそう言われて、予期していなかったとはいえとても驚いた。

「うっそ・・・嬉しい・・・・ありがとう。開けてもいい?」

「うん」


 中から出てきたのは、今日発売のCDだった。千尋の好きなグループ『アルト』のシングル。本当に嬉しかった。

「千尋が元に戻ったら、一緒にライブ行こうな」

 元に戻ったら・・・・千尋はどうなるかわからない。もしかしたらこの世にはいないかもしれない。


「うん。約束」

 そう言うことしかできなかった。例え、それが叶わなかったとしても・・・・・・・


            ◇


「村瀬、今日はありがとうね」

 今日はお礼を言ってばかりだと自分でも思いながら千尋は村瀬に向かう。彼は興味なさげにただ煙草を吸っているだけだった。

「別に礼なんて言われることしてねぇぞ」

「うん・・・そうかもね」

「おい、どっちだよ」


 その反応がいつもどおりでほっとした。もしかしたら村瀬とこうやって話すのは最後になるかもしれない。

 だから、ちゃんと言っておこうと思った。今まで言えなかった分全てを。


「村瀬がいなかったら、きっと私貴也と結婚することなんてできなかった」

「まだ結婚してねぇだろ」

「それから、今回も村瀬のおかげでここまでやってくことができた」

「なんだよ。もうなんもおごんねぇぞ」

「ありがとう」


 素直にお礼を言うと、村瀬は少し驚いたような表情で固まってしまった。何か失礼なことでも言ったのだろうか、と千尋がとまどっていると、村瀬は苦笑して煙草の火を消した。

「どういたしまして」

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