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第13回 花束

 クリスマスの午後、村瀬はバイトを終えて、貴也の家の横の道路まで来ていた。

 千尋が言っていた血の跡が以前よりも濃くなっているような気がする。そして、その他にブレーキの跡まで見つけた。

 これはこないだは見つけられなかったものだ。


 無意識に煙草に火をつけて息を吐く。

 村瀬にはわかっていた。これが何を意味するのか。どうしてあの2人がこんなことになってしまったのか。

 そして、2人が思い出したとき、どんな結果がもたらされるかということも。


「もう時間がねぇな・・・・・」

 誰にというわけでもなく、村瀬はひとりごちた。


            ◇


 12月26日、孝太と一緒に図書館に来ていた。2人が入れ替わった日にこの辺りで何か事件が起こらなかったか調べるためだ。

 しかし、分厚い新聞紙を広げてみてもそれらしい記事は載っていなかった。

「あった?」

 隣で同じように調べている孝太に訊ねてみると、彼はないと首を振る。


「本当に血の跡だったんですか?」

「うーん・・・赤かったからそう見えたんだけど・・・」

 改めて訊かれると、だんだん自信がなくなってきた。すると、孝太は急に立ち上がった。

「今からそこに行ってみよう」


            ◇


 そして、実際に孝太に血の跡を見せると、彼はしばらく考え込んでしまった。

「どう?何か思い出した?」

「全然。これも血と言われればそう見えるけど・・・見てもぴんと来ないなぁ」

「そうなんだよね・・・私も事故った覚えないし・・・」

 そこまで言いかけたとき、こないだ見た光景を思い出した。確か、トラックとか鉄パイプとか・・・・・・


「千尋さん」

 急に名前を呼ばれて、千尋ははっとして顔を上げる。

「あのとき俺、千尋さんに何か失礼なことしましたか?」

「・・・・・?」

 言っている意味がわからない。

 しかし、千尋が考えている最中に孝太はなんでもないと強引に話を終わらせてしまった。


 ここで事故はなかったのかもしれない。この赤い跡ももっと前のもので、千尋たちとはなんの関係もないのかもしれない。

 そう思い始めたとき、視界の隅に1人の女の人が歩いてくるのが見えた。特に気にすることはなかったが、彼女が花束を持っていることに気づいて少しだけ気になってしまった。

 その女性は道路の隅に花を置いて、しばらく合掌していた。肩が小刻みに揺れている。あの血の跡の近くだった。


 しばらくして彼女が立ち去った後、千尋と孝太はその花束の近くまで行ってみた。

 言葉に出すことはできなかった。

 ―――ここで誰かが死んだんだ・・・・・・


            ◇


 それから2人は無言だった。お腹がすいたのでファーストフードの店に立ち寄ったときも会話らしいものはなかった。

 嫌な予感がしていた。悪い夢でも見ているのかもしれない。

 ・・・いや、悪い現実から目をそらして良い夢を見ているのかもしれない。


「まだ俺たちだって決まったわけじゃないです」

 ホットコーヒーをかき混ぜながら、孝太がぽつりと呟いた。

「だって死人が出たんなら、いくらなんでも新聞に載ります。だけど、それっぽいもんはなかった」

「そ、そうだね・・・」

 そう思わないとやっていけない。


 いつのまにか天気は曇り始めていた。ひょっとしたら雨が降るかもしれない。

 雨――そういえば、結婚前日も確か雨が降っていたような・・・・・


 キキィィィ

 そのとき、ものすごいブレーキ音がした。驚いて店から窓の外を見ると、黒い車が横断歩道を乗り越えて停車しているのが見えた。

 だけど、千尋も孝太もそれをじっくり見ている場合ではなかった。

 何かを思い出しかけた。思い出したくない何かを・・・・・・

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