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第12回 女の子とデート

 ついにこのときが来てしまった。千尋は緊張しながら待ち合わせ場所に来ていた。もう少し遅く来ても良かったと少しだけ後悔していた。

 寒いクリスマス。千尋は南と待ち合わせをしていた。向かう場所は映画館だった。

「見たい映画があるの」

 そう言った彼女はとても嬉しそうだった。


「矢吹君!」

 約束の時間5分前に南は現れた。クリスマスによく似合う白いコートが彼女にはよく似合っていた。

「よし。じゃぁ行こっか」

「うん」

 南は本当に嬉しそうだった。


 歩きながら2人はとりとめのない会話をする。

「見たい映画ってなんなの?」

「えっとね・・・矢吹君、興味ないかもしんないけど・・・」

 すごく恋愛!だと思ってしまう映画だろうと思っていたが、南が口にしたのは今話題になっている洋画だった。千尋も見てみたいと思っていた。


「いいね。見たい」

 素直にそう言った後の南の嬉しそうな顔を見てなんとなくわかった。きっと男の子でも気軽に見れる映画を選んでくれたのかもしれないと・・・


            ◇


 そして、その後をまるでストーカーのように追う2人組がいた。

「先生がまさかストーカーだったなんて意外です」

「いや、相手が男だったら絶対行かせないけど、女の子相手だったら話は別だよ」

 孝太から見ても、貴也がこの状況を楽しんでいるようにしか見えなかった。


「もしなんかあったらどうするんですか?高原さん、かなり俺のこと好きみたいだし、勢いでなんかあったら・・・俺はそのために来てるんですけど・・・」

「千尋の体で俺って言われるとなんか新鮮だな」

「先生!真面目に聞いてるんですか!?」

「聞いてる聞いてる」


 ぽんぽんと孝太の頭を叩いて笑う。本当にこの状況がわかっているのだろうか。

「俺がここに来たのは、もし変な連中に絡まれたら俺が助けるため」

 横顔を見て、孝太は貴也の心情がわかってしまい辛くなった。


 本当に入れ替わった理由がわからない。孝太は千尋と面識がなく、やっぱり偶然入れ替わったとしか考えられない。

 あの日は普通にリッキーの散歩に出かけて、普通に歩いて、普通に・・・・・?


「孝太、寒くないか?あったかいものでも飲もうか」

「あ、はい」

 孝太と貴也は近くに喫茶店に入った。千尋たちは映画館に入っていったので当分は出てこないだろう。

 孝太はホットコーヒーを頼んだ。それにいっぱいの砂糖とミルクを入れるが、貴也も同じものを頼んでもブラックで飲んだ。


「先生は大人ですね」

「そうか?結構子供っぽいってよく言われるぞ」

 はにかんだように笑いながら、貴也はコーヒーをすする。

「孝太だってその年でずいぶんしっかりしてると思うよ。俺が中学生のときなんかゲームで遊んでたことしか思い出せない」

「俺は・・・全然そんなんじゃないんです・・・・・」


 前の学校にいたときのことを思い出した。中学1年生のとき、明らかに自分のせいなのに、孝太は自分は悪くないと(かたく)なに否定したことがあった。そのときからだ。自分の周囲から友達がいなくなっていったのは。

 母から転校を言われたときは、正直ここから離れられるとほっとした。それから、新しい学校ではもっと大人になろうと決心したのだ。


 だけど、まだ新しい学校に行っていないのに、なぜか胸の中には新たな罪悪感が生まれている。これは自分の非を認めなかったあのときの感覚と同じ。

 知らないうちに孝太はあのときと同じことを繰り返してしまっているのだ。


 言葉にしたことはなかったが、孝太はそれがいつのことなのかわかる。

 それは、初めて体が入れ替わり庭で母に起こされたとき。真っ先にその罪悪感が心の中で広がった。

 その正体がなんなのかわからなかいが―――・・・体が入れ替わったことと関係しているのかもしれない。


            ◇


 映画が終わってからは千尋も南も適当に辺りをブラついていた。

 千尋はこのチャンスを待っていた。ずっと言おうと思っていたことを言う決心がついた。

「高原さん」

「え、何?」

 きょとんとした顔で南が振り返る。


 心の中で千尋は自分に気合を入れた。男口調を意識する。

「実は今、自分の中で1つの問題を抱えてるんだ。それが解決するまでは誰かとつきあうことは考えられない・・・・ごめん」

「そっ・・・か」

「でも」

 千尋は慌てて付け足す。

「きっといつか・・・俺のほうから告白するかもしんない。そのときは笑わないで聞いてほしいんだ・・・・・」


 それは昨日の夜に孝太に確認したことだった。千尋が孝太に本気で南を好きか訊いてみたところ、彼は迷うことなく真剣な表情で頷いた。それを見て、今日こう言うと孝太の了承を得た。

 南のためにも、早く元の体に戻りたいと心から千尋は思った。

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