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第11回 バレた後

 ついにこのときが来た。千尋はどこかでこの日が来ることを恐れ、そして望んでいた。

 貴也はもちろん千尋など見ていない。千尋の体をした孝太を見ている。


「貴也」

 今は生徒と先生という関係だったが、千尋はためらうことなくその名を呼んだ。

「その人は千尋じゃない・・・私が田中千尋だよ」

 その名前に反応したのか、貴也の瞳がこっちに向けられる。視界の隅で孝太がこくこくと頷いているのが見えた。


「ある事情で体が入れ替わっちゃったの。そこにいる私の体には矢吹孝太君がいる」

 もちろん信じられる話ではないことはわかっている。だけど、こうなった以上本当のことを話すしかなかった。

 覚えている限り全てのことを話した。その間、貴也は黙って聞いていた。


 話し終えても、貴也の反応はなかった。当たり前だろう。千尋だったらそんな話信じられない。

「信じられないのわかる。いなくなったことですごく迷惑かけたことも知ってる・・・もう婚約破棄されたってしょうがないって思ってる」

「やだよ、そんなの」

 初めて貴也が口を開いた。


「正直ちょっと信じられない・・・・体が入れ替わるなんてドラマの中の世界みたいだし・・・」

「じゃぁ・・・貴也のお尻には昔木から落ちてついたアザが今でも残っている!・・・・・これは千尋しか知らないことじゃない?」

 慌てたように貴也は孝太を見たが、彼は「俺知らないです」と言ってかぶりを振る。


 そのうち貴也はその場にへたり込んでしまった。

「た、貴也・・・ごめんね」

「いや・・・・結構最悪なことまで考えてたから・・・とりあえず無事でよかった・・・」

 こんなときにまで人の心配をする貴也は優しくてどうしようもなかった。

 千尋は嬉しくて貴也の頭を抱え込んだ。


            ◇


 その様子を、村瀬はアパートの階段の隅から見ていた。

 千尋と孝太にこの時間なら家にいると伝えてあったので、彼らが来ることは知っていた。それと同時に、村瀬は貴也も呼んだのだ。

 つまり、3人がかち合うようにした。

 正直板ばさみにあっているようで辛かったのだ。村瀬はこれで良かったんだと思う。


 煙草に火をつける。煙を吸ってから一息つく。

 さて・・・行くか。

 何食わぬ顔をして村瀬はみんなの前に姿を現した。


            ◇


 今日はクリスマスイブということもあって、千尋は貴也の家に行きいろいろと話すことにした。

 貴也が完全に信じているかはわからない。だけど、2人の思い出話に花が咲き、千尋は一瞬男になっている自分を忘れていた。


「でもほんとになんで入れ替わったんだろ・・・」

「あ、千尋がいなくなる前、俺顔洗ってたんだけど、そのときなんか悲鳴が聞こえたような」

「えっ!うそ!?」

 何かを思い出すように貴也が仰ぐ。


「千尋に今なんか聞こえた?って聞こうとしたらいないことに気づいて・・・・・」

「悲鳴・・・?」

 そのとき、何かが頭の中に浮かんできた。それは、道路だった。貴也の家の横の道。意外に大型車も通る。トラック。鉄パイプ。

「千尋?」


 はっとして我に返ると、心配そうな表情で貴也がこっちを見ていた。

「貴也、悲鳴の他に何か聞こえなかった?」

「んー・・・そのとき顔洗ってて聞こえなかったのかな・・・蛇口閉めたときに悲鳴は聞こえてきたから」

「そっか・・・ありがとう」


 何かが変だ。何かを忘れてる。わからないけど・・・・・・・


            ◇


「明日も会えない?また話がしたいんだ」

 帰り際にそう言われて、千尋は明日南と会うことを思い出した。

「明日は・・・デート」

 もごもごと言うと、案の定貴也にすごく驚かれた。

「え?誰と?」

「同じクラスの高原さん」


 しばらく間があった後、貴也は納得したようにこくこくと頷いた。

「楽しんできてね」

「もーどうすればいいのよー!これじゃ女の子同士のデートじゃん・・・」

 けらけらと笑うだけの貴也は絶対面白がっているようにしか見えなかった。

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