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第10回 出会いから結婚前日まで(後編)


貴也視点です。



 学生の間に結婚という言葉を意識したことはなかったが、社会人になって初めて考えるようになった。

 23歳新米教師の貴也は、友人の結婚式に参加していた。中学のときは最も色恋に興味のなかった男が1番最初に結婚したのだ。


「俺は村瀬が最初だと思ったんだけどな」

 新郎の沢村が正直にそう言った。貴也は、村瀬が中学のときに何人かの女の子とつきあっていたことを思い出した。

「ありえねぇだろ。自分じゃぜってー結婚できないって思うし」

「そうでもないだろ。今井は?今彼女いるの?」


「えっ?」

 別のことを考えていた貴也は驚いて顔を上げた。

「あ・・ごめん。聞いてなかった」

「貴也はー・・・最近彼女と濃厚な夜を過ごしてるのでそれどころじゃないんだよ」

 村瀬が冗談でそんなことを言い、沢村がへ〜っとのってくる。


「やるじゃん、今井!」

「ちがっ!村瀬が本当のこと言うわけないだろ!」

 親友だからこそ言える言葉だ。

「照れんな照れんな。こないだ俺が電話したとき最中だったなんて誰にも言わねぇから安心しな?」

「村瀬、お前もう帰れ!」


            ◇


 その1週間後、貴也は千尋とデートした。正確には、彼女に買い物につきあってほしいと頼まれたのだ。

 千尋が行きたかった所は書店らしい。正確にはCDを買いたかったらしい。

「アルトのCDが昨日発売日だったんだ」

 アルトというのは最近顔を出し始めた4人組のグループだった。千尋は彼らの大ファンなのだ。


 千尋がCDを見ている間、ふと貴也は結婚情報誌を見つけた。今まで開いたこともないものだったが、周りに誰もいないことを確認して読んでみた。

 それには、式場の情報や婚約指輪、様々なドレスなど、結婚に関わることが多く書かれていた。

 貴也はいつのまにか真剣に見てしまっていた。


「何読んでるの?」

 そんな声が聞こえてきても、貴也は特に考えることなく答えてしまった。

「んー・・・最近の式場ってすごいなぁって・・・・俺らもこういう所でしたいな・・・」

 しばらくして、ようやく自分が何を言ったのか理解した。すごく恥ずかしくなってしまった。


「やっ・・・今すぐってわけじゃなくて・・・・・」

 もごもごと言い訳をしていると、千尋は嬉しそうに笑った。

「うん!したい!」

「え・・・いいの?」

 なんとも的外れなことを訊いてしまった。だけど、千尋は勢いよく頷いた。

「なんか嬉しい。貴也が考えてくれたことが」


 ってなカンジで2人のプロポーズは書店で行われた。

 貴也はもっと高級な店でそういうことをしなかったことに後悔していたが、千尋はすごく嬉しそうにしていたので良しとすることにした。


            ◇


 婚約指輪を渡したのは、一緒に遊びに行った観覧車の中だった。本当はてっぺんで渡そうと思っていたのだが、照れくさくてなかなか言い出せず、結局終わりがけに渡すことになった。

「・・・・・本当は1番上で渡したかったんだけど・・」

「おそっ」

 だけど左手薬指にはめた指輪を見て少しだけ瞳を潤ませた。


「ありがとう・・・・・ほんとに嬉しい・・・」

 このときの彼女を見て思った。この人を一生幸せにしよう。俺の手で・・・・・


            ◇


 守ろうと思った。貴也自身の手で千尋を幸せにしようと考えていた。

 だけど、あの日それは起こった。


 結婚前日、千尋は貴也の家にやって来た。ちょうど両親が仕事に行ってしまい、朝ごはんを作ろうとしていたときだ。

「じゃあ私が作るよ」

 彼女の厚意に甘えて、自分は顔を洗うことにした。


 そのとき誰かの悲鳴が聞こえてきた。

 なんだ今の・・・?寝ぼけた頭ではそれ以上考えることができなかった。

 だから、台所にいるはずの彼女に訊こうと思った。


「ねぇ千尋。今なんか聞こえなかった・・・・・」

 言いかけたときだった。彼女がいないことに気づいた。


「―――千尋?」


            ◇


 そして、千尋は今・・・目の前にいる―――――

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