第6話
すみません、本日少し長めです。
−魔族の国。
やはりファンタジーな世界なだけあって魔族が存在し、その国もあるのか−と納得しようとしていると。
「ちょっと、おばあちゃん!!」
そういってリーナは何やらヘルダに対して怒った雰囲気を向けている。
「ヘッヘッヘ。悪かったね。冗談だよ。確かに”魔族の国”と呼ばれている国はあるけどね、それは基本的に”ヒューマン”がそう呼んでるだけさね。本当の名前はバイガリ王国といって、”獣人族”の国なんだよ。」
どうやらまたこの性悪B−ヘルダさんにからかわれていたようである。・・・この人はからかわないで話すということが果たしてできないのだろうか?
「だとするとどうしてヒューマンは獣人族の国を”魔族の国”なんて呼んでいるんですか?」
「それはね、獣人は他の”ヒト種”とは決定的な違いがあるから、ヒューマンからするとデミヒューマンですらない”魔族”だ−と呼んでるのさ。まぁ、ヒューマンだけじゃなく、エルフやドワーフの中にも獣人のことを”魔族”だって呼んでる奴は少なくないがね。」
「それで、その違いというのは何なんですか?」
「獣人族と他のヒト種との決定的な違いはね、”魔法を使えるか使えないか”という違いさね。」
−でた、魔法。さすがファンタジー世界。この世界には魔法がある−そう聞くと正直なところちょっと興奮しなくもない。果たしてこの世界にはどんな魔法があるのか、そして肝心なのは自分にも使えるのだろうか−魔法と聞いて軽くトリップしてしまったが、少し落ち着いて考えてみる。
そもそも”魔法を使えるか使えないか”で獣人族のことを魔族と読んでいるのであれば、獣人は魔法を使えて他の種族は使えない、ということではないか?それに自分が使えるかどうか−という点で考えれば、元々この世界の人間ではないし、この世界にくる前に神様に出会ってチートスキルやら何やらを授けよう!というよなことがあったわけでもない。トリップから復帰してすぐさまトリップしていると−
「・・・ぉぃ、・・・ージ、・・・聞いてるのかい!?」
そう言うヘルダの声でようやく現実?世界に復帰した。
「すみません、ちょっと魔法って聞いて興奮しすぎてました。なにぶん元いた世界には魔法なんてなかったものですから。」
年甲斐もなく興奮していたため、少し恥ずかしげに謝る修司であった。
「そうなのかい。けど魔法っていうのはなんとなく知ってるんだね。まぁいい。ともかく獣人は他の種族と違って”魔法を使えない”。その分身体能力やらは圧倒的に獣人の方が高いんだけど、その違いをもって獣人のことを”魔族”と呼ぶ奴がいるのさ。」
話を聞いた修司は、思ったままの疑問をヘルダにぶつけた。
「それって普通は逆なんじゃないですか?魔法を使える・使えないで分けるなら使える方が”魔族”と呼ばれそうな気がするのですが。」
そう言われたヘルダは少し驚いたような表情をした。
「確かに、言われてみればお前さんのいう通りかもしれないね。まぁ、そもそも私は獣人族のことを魔族だなんて呼んじゃいないけどね。・・・一応、獣人族のことを魔族と呼んでいる奴らのいっていることとしては、獣人族は魔物の延長線上だから魔族だ、っていうのが多いね。魔物っていうのはほとんど野生の獣と変わりはしないんだけどね、普通の獣より大きかったり凶暴で、身体能力が高いのさ。だから魔法が使えず身体能力が高い獣人は魔族だ−ってことらしいね。馬鹿馬鹿しい話さね。」
−さらにその後話を聞くと、神聖法王国ルチオが旗振り役で、数年に一度の頻度で、アルント王国、ボリス帝国を加えた三ヶ国、時にはエルフの国であるアルカナムも加わった四ヶ国の連合軍とバイガリ王国との戦争が行われているらしい。そしてこの”捨てられた村”には、そんな戦争で傷を負い、戦場から逃げてきたものもいるらしい−当然獣人族も。
その話を終えると、しばらくヘルダは修司の顔を窺っていた。そんなヘルダの様子にどうしたのかと思っていると−
「よかったよ。この村に獣人族がいると聞いてお前さんが嫌な顔や怖がったそぶりを見せないで。」
と少し安心した表情をしていた。
「まぁ、元々自分がいた世界にはいわゆる”ヒューマン”以外の種族というのはいませんでしたけど、物語の中なんかでよく見聞きする種族だから−なのかもしれませんね。それに・・・」
「それに?」
「あぁ、いえ、なんでもありません!」
−言えない。むしろ獣人族と聞いてどんな種族がいるのか−場合によっては耳とか尻尾があるならモフれないか−なんて。
「それよりも、せっかくなので魔法についてもっと詳しく教えてもらえませんか!?」
そう言って話題をそらした修司であった。実際魔法について詳しく聞きたいという欲求があったのも事実ではあるが。
そうしてヘルダに魔法について教えてもらった内容は次の通りである。
そもそも魔法とは、己の持つ魔力を”魔石”を媒介にして、適性のある属性の具現化であったり操作することを言う。
”魔石”とは、魔物の体内にある宝石のような結晶であり、ある一定以上の大きさであれば媒介として成り立つとの事。ちなみに大きさなどによる媒介としての優劣はないらしい。また、魔石を媒介として使用しなければ、どの種族も魔法を使う事は出来ないとのこと。
そして魔法の属性には、火属性、水属性、土属性、風属性の4大元素に加えて聖属性の五つの属性がある。これらのうちどの属性に適正があるかを知るには、魔石に己の魔力を流して見なければわからない。とはいえ種族によってある程度適正属性の傾向がある。
まずヒューマンは、特にどれかの属性に偏る事なく、火・水・土・風のうちどれか一つに適正を持つ。ただし、ヒューマンだけに稀に聖属性に適正のあるものが現れる。
次にエルフは、水か風の属性に適正があるものがほとんどであり、稀に二つの属性に適正を持つものが現れることがある。
そしてドワーフだが、ご想像の通り火か土の属性に適正があるものがほとんどであり、エルフ同様ドワーフにも稀に二つの属性に適正を持つものが現れることがある。
また、魔法と聞くと、なんでも出来そうなイメージがあるが、この世界ではそのほとんどが生活のために使われている。戦闘用の魔法も当然あるが、いわゆるファイアボールやファイアアローのように遠距離から魔法を飛ばすか、剣などの武器に付加するというものがほとんどで、威力としては、ファイアアローはいわゆる火矢と同程度、火属性を剣にエンチャントしたものは剣に油などを塗って火をつけるのとほぼ同じである。加えてどれだけ鍛えても、それらを一日10回ほど行えば、魔力が空っぽになるという程度であるらしい。
とはいえ魔法は魔法である。使い方によって有用なのは間違いない。話を聞いていて修司はやはり自分でも使ってみたい−という気持ちが高まっていた。
そして魔法に関することもあらかた話したといった頃にヘルダはおもむろに懐から何やら宝石のようなものを取り出すと−
「それじゃぁ、お前さんも、試しになんの魔法が使えるのか、やってみるかい?」