第4話
リーナの後ろについてしばらく村の中を歩きながら周りをキョロキョロと見渡す。村の様子としては、”捨てられた村”と言うほど悲壮感が漂っているようには感じられない。掘っ建て小屋のような家も少しはあるが、ほとんどはある程度しっかりとした造りに見える。時折人影や気配をを感じるが、リーナによると今は働き手のほとんどが畑の方などに行っているのであまり村の中に人がいない時間なのだとのこと。実際リーナも、薬に使う薬草を森に採りに行っていた所、倒れていた修司を見つけたらしい。
そんなことを話していると、一つの今にも崩れそうな掘っ立て小屋の前についた。どう見ても村の顔役が住むような家には見えないが、どうやらここが目的地のようだ。
「アッシュさん、起きてますか〜?」
そんなことを言いながら、ある種前衛的ともいえなくもない菱形の形をした戸?を、結構な強さでドンっドンっと叩きながら中に向かって声をかける。
ああ、そんなに強く叩いたら崩れる!−そう内心で修司は焦っていたものの、見た目に反して案外丈夫な造りをしているのかその掘っ建て小屋はビクともしない。
何度かそうしながら声をかけていると、
「なんだよ、せっかく久々の休みで気持ち良く寝てたのによ・・・。ちょっと待ってろ!」
と、返事がし、ガサゴソという音が聞こえ出し少しすると目の前の戸が開いた。
中から出て来たのは、くすんだ茶色の短髪に茶色の目、ちょっとした顎髭を生やした筋骨隆々の大男であった。顔の老け具合から40代半ばほどに見えるが、雰囲気としては頼れる兄貴というような印象の人物だ。
「ん?リーナちゃんじゃないか?どうしたんだ一体?それに後ろの・・・なんだ、そいつは?なんでシーツなんか羽織って・・・ってかそいつシーツの下は裸か!?」
欠伸をし、ボリボリと頭をかきながら出て来てすぐにリーナに気づき、さらにはその後ろにいる修司に気づくと一気に目が覚めたようである。
「この人はシュージ オキタさん。今朝薬草を採りに森に入ったら倒れているのを見つけて、さっき目が覚めたばかりなんです。」
「ん?今朝森に入ったって・・・誰と一緒に行ったんだ?」
「うっ、えーっと、それは、そのぉ〜・・・」
「この馬鹿野郎!!あれだけ何回も一人で森に入るなって言ってるだろ!いくらこの間成人したといっても、一人前の狩人や冒険者、騎士だってこの森に一人で入ったら命がいくつあっても足りないのは知ってるだろ!!」
「ご、ごめんなさい・・・」
「ったく、ヘルダの婆さんも何考えてるんだ。自分の孫娘が心配じゃないのかよ・・・ったく。」
自分そっちのけでそんなやりとりをしているため、どうしたらいいものかと所在無さげにしていた修司であったが−
「まぁいい、で、結局そこのシュージ・・・だったか?がどうしたって?」
そう話を振られたことで、リーナもようやく修司が”迷い人”であることやアッシュのところへ来た目的−挨拶や男物の服の都合がつけられないかということ−をアッシュに伝える。
「なるほど、そいつは災難だったな。少し待ってろ。服ならサイズは直す必要があるだろうが俺のを何枚か譲ろう。」
そういうとアッシュは家の中に戻っていき、いくつかの服を持って来てくれた。
「お古で悪いがしばらくはこいつで我慢してくれ。しっかり働くなら次作る服のうち何枚かはお前に回すように手配しておくからな。とりあえず、自分にできることを見つけて頑張るんだな!わからないことや困ったことがあればいつでも言いに来な!」
「すみません、ありがとうございます。これからよろしくお願いします。」
そう頭を下げる修司に対し、良いってことよ、と言いながら肩を割と強い力でバシバシと叩かれる。
「そういや、寝床とかはどうするつもりなんだ?昔の家で、空いてるとこなら今一つか二つあったと思うが・・・。」
「あ、それに関してはしばらくうちで暮らしてもらおうかと思ってます。助けたのも私ですし、それに、この世界のこととかこれからどうするかを考えるにも一人だと大変だと思うので。」
「リーナちゃんの家か・・・。しかし・・・うーん、まぁ、ヘルダの婆さんもいるから大丈夫か。」
そう言うとアッシュは修司の首に腕を回し、少しリーナから離れると、
「念のため言っておくが、変な真似はするなよ?もし何かあったら・・・わかるよな?」
修司は勢いよく首を縦にブンブンと振る。
そんな修司とアッシュを見ながらリーナはどうしたんだろう?と、一人首を傾げている。
そんなアッシュへの挨拶も終わり、リーナ達の家に戻る途中、修司はずっと気になっていたことをリーナに聞いた。
「リーナさん、どうしてリーナさんもアッシュさんも、見ず知らずの私を色々と助けてくれるんですか?」
「うーん、そうですね。たぶんここが”捨てられた村”だから、かな。お婆ちゃんも言ってたけど、ここにいる人は、もともといた所から何かしらあって追い出されたり、逃げ出して来たような人たちがほとんどなんです。この村がいつからあって、どこから始まったのかはしらないけど、そうやって追われて来たような人たちをこの村の人が助けて、助けられた人が次の人を助けて、っていう風に続いてるんです。」
「そうだったんですか・・・。」
−けど、それだと・・・
「はい。実際のところ私も、ハーフエルフということで今から10年くらい前に追放されてここに辿り着いたんです。本当は私一人だけのはずだったのに、お婆ちゃんがついて来てくれて・・・。お婆ちゃん、あんな風に人のをことよくからかったりするけど、本当はすごく優しい人なんです。」
「すみません、リーナさん。なんだか話しづらいことを話させてしまったようで・・・。」
「ううん、別に大丈夫ですよ。あと、私のことは気軽にリーナって呼んでください!」
う、今日会ったばかりの美少女をいきなり下の名前で呼ぶっていうのはなかなかハードルが高いな・・・。けどこの世界だとそれが普通・・・なのか?−そんな風に考え込んでいると、明らかに”リーナ”と呼ばれることを待っている顔をこちらに向けてくる。
はぁ、と内心で溜息を吐きつつ諦めとともに勇気を持って−
「じゃぁ、改めて、これからよろしく、”リーナ”。」
そう言うと、
「はい、こちらこそよろしくお願いしますね!シュージさん!」
満面の笑顔で応えてくるリーナであり、その笑顔を見てドキッとする修司であった。
初めて書いている拙作ですが、徐々に読んでくださっている方が増えているようで、本当にありがとうございます。一応予定として、まずは温泉ができるところまでを1章として、そこまでは毎日の更新をするつもりでいます。
誤字等は見返して気をつけているつもりですが、もしあれば報告頂けると助かります。
まだまだ書き始めたばかりで、物語自体もまだまだ始まったばかりではありますが、楽しんで読んでいたたければ幸いです。