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第3話

 この世界には言語が一つしかない−。そのことに様々な衝撃を受けつつも、改めて自分は異世界に来てしまったんだなぁと、なんとも言えない気持ちになってきていた。


 −さて、今後どうするべきかな。ここが異世界で夢じゃないってことはほぼ確定。もし俺がこの世界に来たのが”異世界転移”なら、どうにかすれば元いた世界に戻れるかもしれない。けど、別に召喚魔法とかで呼び出されたわけではないから、なんらかの手がかりもない状態。それにもし、これが異世界転生なのだとしたら、元の世界で俺は恐らく自宅の風呂場で溺死しているはず・・・当然全裸で。そうなると、そもそも元いた世界に戻るのは色々な齟齬が起きそうで無理そう・・・。けど異世界転生なら普通は赤ちゃんスタートじゃないのか?・・・うーん、わからん。それに、そもそも俺は元いた世界に帰りたいのか・・・?帰ったところで待っているのは弩ブラック企業での地獄の日々。両親とかは心配するかな・・・?もともと放任主義で、社会人になってからはそれこそ一度も連絡すら互いにしてないけど・・・。うちの両親なら俺が行方不明になっても、きっとどこかで生きてるだろうって特に気にしなさそうだな・・・。


 そう考え込んでいると–


 「いろいろ考えてるところ悪いがね、とりあえずお前さんは一旦この村の・・・まぁ、なんだ、顔役のアッシュってやつのところに行ってきな。リーナ、案内してやりな。」


 「?アッシュさんのところ?なんで?」


 「なんだかんだと言ってこの村の顔役はあいつだろうから挨拶はしなきゃいけないし、それにうちには男物の服なんてないからねぇ。二度手間三度手間になるくらいならこのまま連れて行った方が一度に済んで楽だろう。」

 そうニヤつきながらヘルダは言う。


 つまり、この性悪ば–ヘルダさんは、このままの格好−全裸にシーツを纏っただけの姿−で村の中を歩けと言っているのだ。


 森の中で倒れていたところをここまで連れてきてもらい、なおかつ介抱してもらった身である。当然断るどころか文句の一つも言えない立場だ。


 リーナさんに向かって、

 「すみませんが、よろしくお願いします。」

 と笑顔で頭を下げる。若干こめかみのあたりがピクピクしていたのはご愛嬌である。


 リーナさんもリーナさんで、祖母が申し訳ありませんと言うようなバツの悪そうな笑顔で案内を了承してくれたのである。



 リーナさんの後ろについて部屋を出ると、目の前と、少し歩いた先の突き当たりに扉のある狭い廊下だった。そのまま突き当たりの扉を抜けるとそこは広くはないが、テーブルや椅子、かまどのようなものがあることからダイニングキッチンのようなところなのだろう。その部屋を横切り反対側にある扉を出ると、少しではあるが、いろいろなハーブが混ざったような匂いのするカウンターのある部屋だった。なるほど、そういえば薬師をしているとのことだったので、住居兼店舗のような形になっているのだな、と一人納得していると−


 「ここが一応玄関なので、その、なんと言うか・・・気をつけてください?ね。」


 リーナさんはそう、俺の今の格好を気遣いつつも、この場合どう声をかけていいのか迷いながら声をかけてくれた。


 どうすればあの性悪からこのような良い子が生まれてくるのだろうか−祖母と孫なので実際に生んでいるわけではないが−と、ちょっとした感慨にふけっていた。


 玄関を出ると外は明るかった。そして何よりも感じたのが空気の清浄さだった。生まれも育ちも東京で、排ガスがそこら中ではき出されている環境にいたためそれを普通に感じていたが、いかにこれまで過ごしてきた環境の空気が汚れていたかを思い知らされるとともに、その感動に、半ば無意識のうちに大きく腕を広げ、胸を開いて深呼吸をしてしまった−そう、()()()()()()のである。


 幸いにも、周りには誰もいなかった−リーナ以外は。


 ちょうど深呼吸をして限界まで空気を吸い込んだあたりで、リーナがこちらに振り向いた。


 一瞬お互い何が起きたかわからず、見つめ合う二人。片や金髪碧眼の美少女エルフ。片やシーツをスーパー○ンのマントよろしく背後にたなびかせながら大きく胸を開いている露出狂である。


 リーナの視線が徐々に下がり、一定のところまで行くと慌ててこちらに背を向ける。


 「ちょ、ちょっと何してるんですか!?気をつけてって言ったばかりじゃないですか!?」


 「す、すいません!あまりにも自分がいた世界に比べて空気が美味しかったものだからつい深呼吸を!」

 そう言いながら慌ててシーツにくるまる。


 少しの間、気まづい沈黙が続いたが、気を取りなおすようにリーナが、

 「つ、次からは気をつけてくださいね!周りに人がいなかったから良かったですけど、少し間違ってたら大騒ぎだったんですからね!」

 耳の先を少し赤くしながらそう言うと、早くついて来てください!と言うかのように少し足早に案内を再開したのである。


 そんな可愛い姿を見、なおかつ痴態を晒した自分の案内をやめることなく対応してくれるリーナ位に対し、修司はなんて良い子なのだろうと思いつつ、もうここまでの痴態を晒した自分に怖いものは何もないと、内心で思っていたのは秘密である。

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