第33話
−ぃ、−ぉぃ、−ぶか、おい!しっかりしろ!」
何者かに肩を揺さぶられながら声をかけられる。意識を失っていたのか、いまいち状況が掴めない。意識が段々とはっきりしてくるとともに周囲の状況を確認する。とりあえず自分は裸で湯に浸かっている。
そこは見慣れた我が家のワンルームの浴室−などではなく、イグナーツ温泉の男湯の風呂場だった。
「おい!大丈夫か?こんなとこで寝たりしたら溺れて死ぬぞ?」
そんな風に声をかけるのは救急隊員などではなく、髭面に未だ火傷の跡が残るオルドであった。
「ん、あぁ、はい。すみません、少し疲れが溜まってたみたいですね。」
修司はそう言いながら苦笑する。
意識がはっきりした直後、てっきり今までのことは夢か何かで、自宅の風呂で救急隊員にでも起こされたのかと思ったのだが、結局はそんなことはなく、ちょっとホッとしたのだった。
「本当に大丈夫か?」
苦笑から何やらうっすらとした笑みに表情を変える修司を見てオルドは、訝しげな視線を向ける。
「えぇ、本当にもう大丈夫です。」
そう言う修司の顔を見て、一応納得するオルドだった。
修司自身、先ほどホットしたことに内心少し驚きつつも得心がいく気持ちで、意図せずそれが表情に出ていたのだ。
その後は特段何事も起こらずにゆっくりと温泉を堪能し、充分に満足したところで温泉を出た。
温泉を出たあと、あの先に針のついた名前も知らないものでフタをキュポッと開け、腰に手を当てながらよく冷えたフルーツ牛乳でも飲みたい気分だったが、当然ながらそんなものはないので、四人は揃って水を飲む。
とはいえ風呂上がりともなればただの水でも充分に美味い。
ぷはぁっという声を出した後、修司はオルド達に感想を聞く。
「どうでしたか?初めての温泉は?」
「いや〜良かった。本当に良かった。体の芯から温まって今まで溜まっていた疲れとかが溶けていくようだった。」
「本当にな。特にバキバキだった肩や腰が、ほれ、この通り。」
そう言いながらバムリなどは肩や腰を勢いよくグルグル回す。
「強いて言うなら後もう少し熱い方が良いかもしれないな。」
そう言うのはバルドだ。
「まぁ、その辺は他の皆さんの意見も聞きながらになると思います。それかゆくゆく施設の改良をする時に湯温の高めの浴槽を追加するかですね。」
そう修司が言うと、オルド達は早速にでも改良をしようと話だし、次々とあれがあった方が良い、こうした方が良いなどの意見を出していく。
流石にすぐは難しいだろうと考えた修司は、それらの話をなだめすかしていると、女湯ののれんをくぐってこちらへと歩いてくる人物がいた。
リーナだった。
そういえば半ば興奮していたためリーナのことを忘れていたが、どうやらリーナも女湯に入っていたようだった。
その腰まである長い金髪はまだ若干濡れており、上気した顔や少しでも体の火照りを逃がそうと少し緩んでいる首回りなど、その動作の一つ一つにどきっとさせられてしまう。−なぜこうも湯上りの女性というのは色っぽいのだろうか。
そんなことを考えながらリーナを見て、周りに気づかれないように小さく唾を飲み込むと、リーナもこちらに気が付いたようだ。
するとその上気した頬を軽く膨らませながらこちらへと近づいてくる。
「もう!ひどいじゃないですか!私のことほったらかしにしてオルドさん達とそそくさと男湯の方に行くなんて!」
腰を曲げながら下からこちらを見上げるように睨んでそう言うリーナだったが、色々と際どいため直視することができずあたふたしてしまう。
「あ、いや、そのー。・・・ごめんなさい。」
その後修司はしばらくリーナの機嫌取りに時間を取られ、オルド達はと言うと、気付いた時にはすでにそこにはいなかった。
そうしてなんとかリーナの機嫌が戻った時には時刻は夕方で、もうそろそろ村の人たちがやってくるだろうという時間になっていた。
慌てて諸々の準備を整えると、続々と村の人たちが集まってきた。
村に出来た初めての温泉ということで、多くの人が楽しみにしていたのだ。
続々とやってくる村人たちに歓迎の挨拶をしつつ施設の利用法や浴槽に入る前のマナーなどを説明するなど、なかなかに慌ただしくなっていく。
とても一人では手が足りず、それを見ていたリーナがやれたれという具合に女性客を受け持ってくれたことでなんとかなった。
温泉からあがった人たちに感想を聞くと、大好評だった。お湯で体を綺麗にできるのもそうだが、女性陣からはやはり周りを気にせず体を洗えることが好評だった。そして何よりも、疲れが溶けていくようだというのが最高だと。
湯温に関しては、何人かの男性からはもう少し熱めでも良いとの意見が聞かれたが、大方がちょうど良いとのことだった。
こうしてイグナーツ温泉の初日は大好評のうちに終わった。
それからの修司の日々は、朝起きると浴槽から湯を抜いて午前中いっぱいをかけて掃除をし、再び浴槽に湯を張る。午後は農作業の手伝いをする日もあれば、温泉を他の何かに使えないか考える日や源泉まで木樋を確認しに行く。そして夕方からはイグナーツ温泉の番頭となる。
大きなトラブルや大変なことが全くないわけではないし、浴室の掃除などは意外と重労働であったりもするが、毎日が充実しており、今更ながら夢でなくて良かったと思いながら、そんな日々をしばらくは過ごすのだった。
これにて一応1章は終わりとさせて頂きます。約1ヶ月、お付き合いくださりありがとうございました!
これ以降のプロットも考えてはあるのですが、なにぶん初めて書いたため1話1話はそこまで長くはないものの、毎日投稿するというのは結構大変なんですね。最初はかなり甘く見ていました。何度今日ぐらい休んでも良いかなと思ったことか・・・。
特に最近は忙しくなってきたこともあり、続きを書くにしても恐らく毎日投稿するのは難しくなると思います。
とりあえず少し様子を見て、続きを書けそうな見通しが立てば改めて何かしらの方法で報告をするかと思います。
改めてこれにて1章完結です。ここまでお付き合いくださりありがとうございました!




