第31話
そして翌日、遂にオープニングセレモニーの日となった。
午前中は源泉や木樋、温泉施設自体の最終確認をするため、セレモニー自体は昼過ぎに行うことになっている。
源泉の下まで修司、リーナ、オルド、バルド、バムリの5人で行き、源泉を確認すると、未だに勢いよく湧き出している。それを見て5人、特に修司とドワーフ達は遂にここまで来たという感慨にふけっていた。
その後、前もって話していた通りにバルドとバムリがその場に残り、他の3人は木樋を確認しながら山を降りて行く。確認するといっても、これまでも何度も確認しているので、念入りに確認するというよりも、落石や何かしらの動物などがぶつかって破損していないかチェックするくらいなのでそれほど手間もなく昼前には麓の温泉施設に着いた。
そこではトムの妻であるマーヤを筆頭に何人かの女性陣を中心にセレモニーの準備がなされていた。
「マーヤさん、おはようございます。わざわざ手伝っていただいてすみません。」
「いいんだよ。私らもなんだかんだで楽しみにしてたからねぇ。それにこういうお祝い事ってのはこの村だとなかなか無いからね。こういう時くらい皆で騒がしくやりたいもんだよ。」
そう言いながら豪快に笑う。
そんなマーヤ達に改めて礼を言うと、修司達は施設内の確認に向かう。
施設の入り口はこの村では珍しい引き戸になっており、営業時は開け放して戸の半分ほどの長さの暖簾だけがかかっている状態になる。
暖簾をくぐるとそこは土間のようになっており、石畳が敷き詰められた少しのスペースと、そこから先は一段高い木の床となっている。これもやはりこの村−というより世界か−では珍しく、石畳のところで靴を脱ぎ、木の床の部分は土足厳禁になっている。
入り口の正面にはいわゆる番頭台があり、その周りに幾つかの長椅子がある以外は何も無い空間となっている。そしてその部屋の左右の壁にそれぞれ扉−これもまた引き戸−があり、そこにも暖簾がかかっているが、入り口のものより長く、戸の3/4程の長さがあり、入り口から入って右側の暖簾は青みがかった色に”男湯”と漢字で書かれており、反対側の暖簾は赤みがかった色に”女湯”とこれまた漢字で書いてある。
当初は漢字ではなくこの世界の文字で書く予定だったが、修司からしてみるとなんとなく違和感というか味気なさというか−があったため、ちょっとしたわがままを通したのだ。その際文字がわからず混乱しないかという不安も出たが、色もついていることから大丈夫だろう、ということでなんとか通ったのである。
引き戸の先は一箇所を除き基本的には左右対称でほぼ全く同じ作りとなっている。まずは脱衣所−といっても簡単な棚が幾つも並んでいるだけの部屋となっており、その棚に脱いだ服などを置けるようになっている。
そして脱衣所の先にはいよいよ風呂場が待っている。風呂場は修司のこだわり通りに総檜ならぬ総パリトゥサ風呂となっている。
ここまでは日本でもよくある銭湯と同じような作りだが、風呂場だけ若干様相が異なる。とはいっても、脱衣所から入った先のスペースに簡単な洗い場があり、その先に浴槽があるのは同じだ。違うのは、洗い場の中心に小さな浴槽とでもいうものがある点だ。
そのようなものがある理由は、この世界に”シャワー”がないためだ。日本の銭湯などであれば何人分ものイスと黄色いケロ○ンの丸桶−とは限らないが−とシャワーが並んでいるが、この世界にそんなものはない。そこで考えたのが、体を洗うための湯を汲むための湯槽を洗い場の中心に作ることだった。そのため、洗い場には湯槽の周りにコの字型に椅子と手桶が配置されている。
そしてその奥には10人以上がゆったり入れる大きさの浴槽がある。
これでこの温泉施設のほぼ全てである。が、男湯の方にだけ、さらに奥に扉がある。その扉の先こそドワーフ三人衆の頑とした姿勢によって作られた露天風呂である。ちなみにこの露天風呂はパリトゥサではなく岩で作られていて、大きさもそこまで大きくなく、5人ほどで入るのがちょうど良いくらいだ。
当然ながら露天風呂とはいえある程度の高さの壁はあるが、屋根はなく、またイグナーツ山脈側の壁を少し低くしているためその威容を楽しみながら入ることができる。
露天風呂を作っている時に、女性陣から不公平との声が若干あったのだが、露天風呂のその性質ゆえイグナーツ山脈に少し登ればそこから丸見えであり、その点の対処のしようがないことを説明すると大抵の人は納得してくれたのだが、数名の豪気な女性が覗きなど気にしないと言い、なかなか折れてくれなかったので、たまに男湯と女湯を入れ替えることや、女湯にも露天風呂が欲しいとの要望が大きくなったり、何かしらの対処策ができるようになったら女湯にも露天風呂を作ることを約束してようやく引き下がってくれた。
こうして施設のすべての確認を終えると、時刻はちょうど昼過ぎとなり、いよいよオープニングセレモニーの時間となった。




