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第2話

 さて、どうしたものか・・・。

 まぁ恐らく、あまり認めたくはないが自分は今異世界にいるのだろう。ここで考えなければいけないのは、目の前にいる2人のエルフにどこまで話して良いのかということ。

 特に最近読んでた異世界召喚ものなどでは異世界人を半ば奴隷にしようとする王族なんかが出てきていたのもあり、下手に自分は異世界人で気がついたら今の状況だったなどと言えば、褒賞目当てにそのような王族に引き渡される可能性もあるのではなかろうか。


 とはいえこのままだんまりを決め込むのも難しいので当たり障りのない範囲で話をしつつ、情報収集するしかないか。それに森で真っ裸で倒れていた男を助けるような人達だ。そこまで警戒することもないだろう。


 「いえ、私は貴族などではなく、私のいたところでは皆名字を持っているのです。ちなみに修司が名前で沖田が名字です。日本語とは私の国の言葉なのですが・・・。」


 「ふーん。なるほどねぇ。」

 そう頷き、なにやら鋭い視線でこちらを見てくるエルフの老婦人ことヘルダ。


 何かやらかしただろうか・・・そう内心冷や汗をかきしばしの沈黙に耐えていると−


 「つまりあれだね。お前さんは”迷い人”ってやつかね?」


 そう言われ修司は軽くビクッとする。”迷い人”−なにやら異世界人のような単語が出てきた。いやいや、まさか先ほどのやりとりだけで流石にすぐにバレるようなことはないだろう。ここは知らないふりして誤魔化すしかないだろう。


 「すみません、迷い人というのがなんのことだかさっぱりわからないのですが・・・。」


 「ん?あぁ、お前さんのように別の世界から何かの拍子でこの世界に迷い込んじまったやつを迷い人っていうのさ。」


 はい完全に異世界人のことでしたーーー!しかも俺がそれだと最早確信していらっしゃるーーー!

 終わった。え、なに?どこでミスったの?日本語っていうのがアウトだったの?聞いたことのない言語の一つや二つくらい普通あるでしょ?とりあえず切り替えなければ。この後どうするかが大事だ。


 「それにしてもお前さんも災難だねぇ。知らない世界に迷い込んじまった上に、よりにもよってこの村に来ちまっただなんて。」


 どういうことだろうか!?この村に来たことが災難!?やはりここは何か異世界人−もとい迷い人にとってまずい場所なのだろうか。


 「・・・ヘルダさんの仰る通り、恐らく私はその迷い人というものなんでしょう。ちなみにこの村に来たことが災難というのは一体どういうことなんでしょうか。私がその迷い人であるということが何か関係あるのでしょうか?」


 「うん?あぁ、いや、お前さんが迷い人であることは別に何も問題じゃぁないのさ。お前さんが今いるこの村はね、”捨てられた村”と言ってね、周りを凶暴な魔物の生息地に囲まれ、住民のほとんどが国から追われたりした者やその子孫ばかりの、どこの国からも認識されていない寂れた村だってことさ。」


 なるほど、そういうことか・・・。ヘルダさんの言っていることを信じるのであれば、ひとまずは安心しても良いのだろう。それにしても、”捨てられた村”、か・・・。


 「なるほど、なんとはなくですが、今の状況が少しずつわかって来た気がします。差し支え無ければ教えて欲しいのですが、私のような”迷い人”というのは頻繁に現れるようなものなのでしょうか?あと、どうして先ほどの会話だけで私が迷い人だとわかったのでしょうか?」


 「いいや、むしろほとんど伝承やおとぎ話でしか聞かないようなもんさね。少なくともここ数百年とかで迷い人が現れたなんて話はないんじゃないかね。私がお前さんを迷い人だと思ったのは、ニホン語っていう知らない言語が出て来たからだね。」


 ・・・やっぱり日本語っていうワードがアウトだったのか。ということはカマをかけられたのか?にしては確信めいた言い方だった気がするが・・・。


 「なんで私がニホン語っていう知らない言語のことだけでお前さんのことを迷い人だと思ったのか腑に落ちないって表情だね。・・・お前さん、これを読めるかい?」


 そう言ってヘルダは何やら文章らしきものが書かれた紙を手渡して来た。


 「・・・いいえ、全く。」


 「だろうね。これは共通語で書かれていてね、今私たちが話しているのも共通語さね。というよりも今のこの世界には共通語しか存在しないのさね。」


 世界に一つしか言語が存在しない−そんなことあり得るのだろうか。国が一つしかない、もしくはこの世界なり大陸−かどうかは知らないが−がとてつもなく狭いというようなことであれば全くないこともないのかもしれないが、先ほど国が複数あるようなことを言っていたし、それならばそこまで世界が極端に狭いということもそうそうないだろう。にも関わらず言語が一つしかない−それに今のこの世界にはというのはどういうことだろうか。


 「それこそ神話の世界の話にはなるけど、昔はそれぞれの国、それぞれの種族ごとにそれはたくさんの言語があったらしい。実際に遥か昔の遺跡で、共通語以外の言語で書かれた碑文なんかも見つかってるから本当のことなんだろうけど、その時代は今よりももっと国同士や種族間の対立が激しく、あちこちで戦争が起こっていたらしい。その状況を嘆かれたこの世界の女神の1柱が、全ての言語を一つにすることで互いをより理解し、争いを減らして欲しいと願い、それを境にこの世界には共通語しかなくなっちまった、と言われているのさ。」


 なんとも信じられないような話ではあるが、自分がこうして異世界にいることを考えると、何かそうした超常の力、というのもあるのかもしれない。

 なんにせよ、そういうことであれば、確かに共通語以外の言葉で話している認識の者というのは、こちらの世界の普通ではないのだろう。・・・くそ、ファンタジーに嵌められた。


 そしてもう一つ、修司は悪態をつきたくなった事実に気がついた。


 はぁー。会話はなんでか知らないがこうしてできるとしても、先ほど手渡された紙の文章を全く読めなかったってことは、文字やら文法は自力で覚えなきゃならないってことだよなぁ・・・。

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