第28話
修司の考えとしてはこうだ。といってもそこまで大それたことではないが、パリトゥサを用いて木樋を作り、それを麓まで引っ張るというものだ。規模や諸々違うが、イメージとしては草津の湯畑のように木樋を通すことで湯温をちょうど良い温度まで下げつつ、遠くまで運ぶというものだ。
手間ではあるが、一度作ってしまえばいつでも気軽に入ることができるようになる。それこそ、大きめの浴槽にすればまとめて何人も入ることができる入浴施設にすることもできる。
そんな修司の話を聞いた他の面々としては、麓まで温泉を引っ張ることに否はない。ただ、どうしてもそうなると話が少しばかり大きくなってくるので、ひとまず村に戻ってから、それこそヘルダや顔役のアッシュなどとも相談をした方が良いだろうということになった。
そうして山を降りた面々は、夕食の後に再度集まり話し合うことを決めると一度解散した。
時刻はまだ昼過ぎという頃合いで、ほとんどの村人は何かしらの仕事なりをしている。アッシュがどこにいるかということを何人かに聞き歩き、おおよその見当がつくとアッシュのもとへ出向き、相談があるので夕食後にヘルダの家に来て欲しい旨を伝えると、修司は夕食までの間、色々と間取りや必要となるであろう細々としたもののアイデアを書き出していったのであった。
そして時刻は夕食過ぎ。ヘルダの家には、家人であるヘルダとリーナ、居候兼発起人の修司、オルド、バルド、バムリのドワーフ三人衆、村の顔役であるアッシュの計7人が集まった。
「それで、シュージから何やら相談があるって聞いて来たんだが、一体どういうことだ?」
そう言って周りを不思議そうに見回すのはアッシュだった。それは当然の疑問で、温泉開発を知っているもの以外からすれば、今いる面々の組み合わせでどういう話が飛び出してくるかというのは想像しがたいものがあった。強いていうなら先日のオルドが火傷を負った件に関係することだろうか−とアッシュはうっすら考えていた。
「はい、実を言いますと−。」
そう言って修司は温泉開発に至った経緯やその結果の現状、そしてこれから行いたいことを順を追ってアッシュに説明する。
「はー。お前たちそんなことやってたのか。まぁ、別に良いんじゃねぇか?村から行けるところに風呂があればそれこそ村の連中も喜ぶだろうしな。それにもうその温泉自体は掘り当てたんだろ?なら何が問題なんだ?」
「問題があるとすれば、一番大きいのは工期の問題があるかと思います。一応入浴施設となれば、側から見られないようにするためにも、簡単なつくりでも少しばかり大きな建物を作ることになりますし、そこまでの木樋の作成と設置なども考えると、結構な期間私は農作業の手伝いを、オルドさんたちには鍛治仕事などを休むことになってしまいますので・・・。」
「あー、なるほどな。まぁそこは多分なんとかなると思うぞ。そうだな、とりあえずオルド達三人のうち一人は鍛治仕事とかに回れるようにローテーションを組みながら作業をするとして、村人の中からも何人か手伝わせればその分早くできるだろ。」
「え、そんな!ただでさえ農作業を手伝わないといけないところなのに、逆にこちらに人手を割くなんて。」
「良いんだよ。幸い農作業が本格的に忙しくなる収穫期までまだ一月以上あるからな。それにな、今までこの村はどちらかっていうとその日その日を生きることで精一杯ってほどではないが、楽しみらしい楽しみってのもそんなに多くないんだよ。そんな中、風呂でもできれば少しは楽しみってのも出来るってもんだろ。だからそんなに固く考えなくて良いぞ。」
アッシュにそんな風に言われ、改めてありがたさを感じるとともに、多少の気遅れも振り切って、それじゃぁ−とばかりに日中に書いていた入浴施設の簡単な間取りや設備が記入されたものをドンっとテーブルに広げた。
最初はなんだ?と興味深げにそれを覗き込む面々だったが、見れば見るほど、三者三様の反応を示すこととなった。
まず実際にその施設や設備の設計や施工・開発の中心となるであろうドワーフ三人衆は修司が提示したものを見て嬉々とした表情を浮かべて興奮していく。
アッシュはというと、先ほど言ったことの手前、自重しろと言うことも若干憚られるため引き攣った表情を浮かべる羽目になった。
そしてヘルダはというと、またも大きな溜息をつきながら頭を抱える羽目になったのだった。




