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第27話

 それはちょうど、バルドとオルドが掘削作業を交代した直後だった。


 今日もダメかもしれないな−とそうした気持ちで掘削作業に入るオルドだったが、いつものように沈下で穴の底を沈めていると、途中で自分の魔法がかき消えたのがわかった。

 どうしたのかと首を傾げていると、次第に穴の奥底から何やら体の芯に響くような音が唸りを上げながら徐々に大きくなってくる。心なしか、地面が少し揺れてすらいるのでは−と思った時にようやく気付いた。


 「出るぞ!!」


 急に皆の方を振り返りたった一言、そう大きくオルドが声をあげ、皆がオルドの方を見た瞬間、温泉がものすごい勢いで噴き出した。


 その光景を見た瞬間、皆が笑顔で喜び、肩を抱き合いながら笑いあう−ことはなかった。皆笑顔にはなった。互いに喜び合おうともした。だが、その前に起きたのは阿鼻叫喚の惨状だった。


 「ちょっ!熱い!熱い!マジで!!」


 「キャァっ!あ、熱いです!」


 「ふぬあぁぁ!」


 「なんぞこれしき!鍛冶場の暑さに比べ・・・無理じゃ!熱い!」


 「熱い!死ぬ!逃げろぉ!」


 空高く吹き上がった温泉の熱水が雨のように辺り一帯に降り注ぐように落ちてくると、あまりの熱さに皆思い思いのものを頭上に掲げて熱水避けとしながらその場から急いで避難する。


 ひとまず熱水の雨が降っていない安全圏までたどり着いた五人は、先ほどより幾分かは勢いが弱まったものの、未だに2〜3m程の水柱を立てて噴き出している温泉を見ると、次の瞬間には修司に目を向ける。


 「おい、どうすんだ、あれ?」


 「あ・・・あはは、どうしましょうかね、あれ?」


 そう言って笑ってごまかそうとしている修司に他の四人はジトっとした目を向ける。


 正直なところ、そんな目を向けられても困るのは修司も同じだった。というのも、色々と想定外だったからだ。修司の中での温泉のイメージにあるのは二種類。自然に懇々と湧き出してくるいわゆる天然温泉と、もっぱら都市部などにある、地下から温水などを組み上げてボイラーなどで温め直しているものである。


 たまに録画して見ていた某農作業系アイドル?が村や島を開拓する番組などでも、温泉ではないが井戸を掘って出てくる水の量などは、染み出してくるような量だったので、正直そんな感じで出てくるものだと思っていたのだ。漫画などで温泉が今目の前のように吹き出す描写を見たことがないわけではないが、あれは漫画などに特有の過剰演出の類だろうと考えていた。


 「ま、まぁきっともう少し待てば、温泉の勢いも弱くなる・・・と思います。」


 修司はお風呂が大好きで週に一度の楽しみとして好んで入っていたが、別に温泉を開発したこともなければそうした知識が豊富−ある意味では豊富だが−というわけではないため、こうした事態になっているのである。


 実際に、仮に温泉開発のプロや開発経験のあるものが修司達が行なっている温泉開発を目にしたら呆れて何も言えなかっただろう。そんな状態でこうして温泉を掘り当てただけ奇跡に近いようなものなのだが、それを知る者はこの場には誰もいない。


 とりあえずは、どうこう出来る状況ではないので、先ほど熱水の雨を浴びて所々軽く赤くなっている部分に、念の為にリーナが持って来ていたヴェラロエの塗り薬を用いて手当しながら、今後どうするかを話し合うことになった。


 話し合っている間も温泉は吹き出し続けていたが、徐々にその勢いは弱まり、今では温泉を貯めるために作っていた湯受けを満たしてその中心−つまりは温泉の湧き出し穴の真上−の水面を30〜40cmほど盛り上げているに留まっている。


 そんな現状を見て、今なら入れるのでは?−とリーナを除いた四人が互いに顔を見合わせると、恐る恐る温泉に上方から近づくも、その熱気だけでこれは無理だろうと修司は尻込みする。そんな中、バムリだけがそのまま近づき、恐る恐る指先を温泉につけるも、すぐに飛び退いてこちらに戻って来た。


 「ありゃとてもじゃないが入れないぞ。」


 温泉に入れた指に必死に息を吹きかけて冷ましながらそう言う。


 そんな中、修司は−


 「あ、けど温泉が熱いならそれはそれで好都合かもしれません。」


 どういうことか−と皆が修司に視線を向け続きを促す。


 「もともとは、歩いて行ける距離−というほど結果的には近くはなかったですが、そうしたところに温泉ができれば良いな、と思っていたのですが、これだけ熱いなら、上手く引っ張れば、それこそ村の近くの麓辺りで温泉が作れるんじゃないかと思いまして。」


 そう言う修司の提案に他の四人はこれまた顔を見合わせるのだった。

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