第25話
腐卵臭があたりを漂う中、窪みや臭の変化に気をつけながらしばらく進むと、ところどころ岩の表面が金色のようなオレンジ色をしたものが転がっている場所に着いた。
「ここだ。この岩を辿って行ったらちょっとした穴があったんだ。」
そう言いながらオルドはそれらの岩を辿るように警戒しながらも先に進む。修司やリーナ達もその後に続く。
「あったぞ。あれだ!」
そう言うオルドの視線の先には、直径30cmほどの穴があった。
またいつ蒸気が噴き出してくるのかわからないためすぐ近くにまでは寄らないようにしながらもその穴を確認する。
「それでどうだい?目的の温泉になるかどうかとかわかりそうか?」
オルドにそう尋ねられると、
「確信は持てませんが、可能性は高いと思います。蒸気が吹き出すということは、少なくとも地下に熱水があるのはほぼ間違いないと思います。恐らく今はこの穴の先が細くなっていたりするために、時たま蒸気が出るだけという状況なんだと思います。なのでここをその熱水まで掘り進めてやれば、自然と今まで押さえつけられてた熱水が出てくると思います。噴き出してくる量によってはもう一工夫必要になるかもしれませんが、一応その場合の手も上手くいくかはわからないですが考えてあります。」
「そうか。よし。それじゃぁ問題はどう掘り進めていくかだな。」
というのも、どうやら土魔法で穴を掘る場合、その部分の地面を沈下させて作るため、同じ場所に連続行使すれば、どんどん地面の密度が高くなり効率が悪くなるとのことだった。このことは、本番前の練習ということで予定を立てた次の日にオルド達が試してみた結果判明したことである。
「その点は、一応考えてあります。恐らくですが、沈下とアースボールの魔法を交互に行えば大丈夫だと思います。」
アースボールとは、言ってしまえばファイアボールの土魔法版のようなもので、周囲の土を球状にして飛ばす魔法だ。
「沈下して圧縮された部分をアースボールにすれば圧縮された部分が取り除かれるはずなので、沈下を繰り返すよりも効率は上がると思います。」
「確かにお前の言うとおりかもしれないが、アースボールなんて直径30cmくらいのもんしかできねぇぞ?元々の予定だと直径1mくらいの穴を掘るつもりだったんだろ?」
「はい。ただ、よくよく考えてみると、そこまで大きな穴でなくても大丈夫かな、と思いまして。それに、もしかしたら掘り進めても温泉が出ない場合もあるので、それならより早くそのことがわかるように直径が小さくてもより早く深く掘れる方が良いかと思いまして。もし温泉を掘り当てて、もう少し穴が広い方が良さそうであれば、掘った穴を広げるなり、手間ではありますが近くに別の穴をもう一度掘れば良いでしょうし。」
「うーむ、なるほどな。ということは、穴の大きさ自体はあのままで良いんだな?」
そう言ってオルドは件の穴を指差す。
オルドに対し首肯してみせると、頭をガリガリとかきながらぶつぶつと何か言っている。
「二度手間になる可能性も考えると・・・だがそれにしても・・・そうなると1日で掘れる深さは大体・・・。」
しばらくそうしていると、見通しが立ったのか、頭をかくのをやめてシュージの方へと向き直る。
「わかった。それで行こう。やってみないことにはわからんが、恐らく穴の直径を狭めても1日に掘れる深さは当初想定していたのとあまり変わらんだろう。沈下自体は当初より深くできるが、アースボールにも魔力を取られるからな。」
そう言うと、早速とばかりにオルド達は件の穴へと少し近づき、土魔法で沈下させ始める。沈下させるのも一瞬でというわけにはいかず、徐々に押し込む形で沈下させるので、それなりに時間がかかる。
その間修司やリーナ達も、それぞれのやるべきことをやる。
まずリーナだが、その辺にある手頃ないしを集め簡単な竃のような物を作ると、昼食の準備を始める。
ドワーフ三人衆のうち土魔法を使っていない二人は、念のため周囲を警戒している。滅多にあることではないが、イグナーツ山脈の山頂付近には魔物が生息しており、ごく稀に中腹や麓付近まで降りてくることがあるためである。
そして修司はというと、ここまで背負ってきたバッグの中から若木の苗のようなものを取り出すのだった。