第22話
遅くなりすみませんm(_ _)m
オルドに修司が頭を下げると、若干空気が重くなったように感じる。
そうして、少しの間気まずい沈黙が続くと−
「一応聞くが、何のためにそこに行きたいんだ?正直なとこあんな場所にはもう近づきたくもないってのはお前にもわかるだろう?」
オルドの問いかけに対し修司は頷く。
「はい。けど、どうしてもそこに行って確かめたいことがあるんです。」
そう言う修司の表情は真剣でだった。その表情を見てオルドも少し身構えて改めて修司に問う。
「で、その確かめたいものってのは?」
真面目な表情で修司は一言だけ告げる。
「温泉です。」
修司のその発言を受け、またもしばしの沈黙が広がった。
オルド達はというと、怒りの感情が全くなかったわけではないが、それ以上に呆れの色が強く、三人揃って開いた口がふさがっていない。しかし、そんな状況も長くは続かず、やがてオルドが再稼働する。
「温泉ってのは、あれか?あの自然とできる風呂みたいなものだよな?そんなもんのために俺たちにあそこまでもう一度行って案内しろって言うのか?」
そう言っているうちに徐々に怒りの感情が優ってきたのか、語気が後半になるにつれ強くなってきた。
そしてそのオルドの発言を聞いて−しまった!と思った人物がいた。
ヘルダである。
そう。オルドは言ってしまったのである。温泉をそんなもん−と。
以前ヘルダは同じように温泉を蔑ろにする発言をし、修司から徹底して温泉の良さを長時間プレゼンされたのである。同じことが繰り返されると瞬間的に理解したヘルダは止めに入ろうとしたが、既に遅かった。
「そんなもの?まさかオルドさん達までヘルダさんと同じように温泉の良さを知らないだなんて・・・。」
そう言って頭を振る修司を見てヘルダは手遅れだということを悟った。そして気づいたのは、いつの間にかリーナが何処かへと逃げ果せていたのである。
−我が孫ながらなんて勘の良い。けど私を置いていったことはあとで後悔させないとね−
と、半ば現実逃避気味に考えるヘルダだった。
一方オルド達ドワーフ達はというと−
「ふざけるなよ!そこのエルフの婆さんと俺たちを一緒にするんじゃねぇ!」
という具合に怒りが明後日の方向に向かっていた。
「それは失礼いたしました。しかし良い機会なので、是非オルドさん達にも自分が知っている温泉の良さというものをお伝えしたいと思います。」
それから修司はというと、先日ヘルダに説明した事に加え、さらに温泉にはいわゆる湯治と呼ぶべきまさに今のオルドさんにもぴったり−果たして火傷に効果があるのかは定かじゃないが−の効果が期待できる事などを付け加えて行く。
意外な事に、ヘルダとは違いドワーフ三人衆は修司のプレゼンをよく聞いていた。そんなドワーフ達へのトドメとして、修司は禁断の贅沢の話をする。
「これまでの説明からもいかに温泉が有益かはわかっていただけたかと思います。さらに温泉には一つ、禁断の贅沢と呼ばれるものがあるのです。しかもそれは、確実にオルドさん達もお飲むものであると断言できます。」
そう言われドワーフ三人衆はゴクリと生唾を飲み込みながら、若干身を乗り出す。
「それは−、温泉に入りながらの飲酒です!」
おお!とドワーフ三人衆からは声が漏れる−のを見てヘルダは呆れながら頭を抱える。
「先ほどの説明の通り温泉に入ると体が温められると血行が良くなります。そんな状態でお酒を飲めば−どうなるか皆さんなら想像がつきますね?」
うむ!と大きく頷くドワーフ三人衆を見て満足気に修司も頷き返し、さらに続ける。
「今はまだ暖かい季節ですが、これから寒くなってくると聞いています。想像して見てください。そんな外は寒い中、体は温泉に浸ってリラックス状態。そこへお酒を飲んで程よく酔いはするものの、冷たい空気が頭だけ冷やしてくれるのを。」
そう言うと、勢いよくドワーフ三人衆は立ち上がると−
「こうしちゃおれん、今すぐ行くぞ!さっさと確認して何が何でも温泉を作るぞ!」
オルドが代表して言うと残りの二人もおお!と応える。
会心のプレゼンだった−と、むしろそこまで長くはなかったが社会人生活を送っていたのは今のプレゼンをするためだったのではとすら修司は思っていた。−決してドワーフまじちょろいとかは思ってないのだ。
こうして心強い味方を得た修司は、ドワーフのその場のノリと勢いに押されて、一緒に家を飛び出して行くのだった。
後に残ったのは、修司のプレゼンが始まる前よりも若干やつれたように見えるヘルダだけであった−はずだが、大きな溜息をつき、抱えていた頭を上げると、目の前にリーナが立っており、一言−お疲れ様、と言いながら紅茶を差し出してきた。
修司たちがもう夜も更けて、今から向かうのは到底無理だと冷静になって戻ってきたのは、リーナを半眼で見ながら黙って紅茶を受け取り、一口飲んでひとごこちついた時であった。




