第18話
ダンデの種子じゃなかった、というのはどういうことだろうか。実際手の中ではちゃんとダンデが咲いている。
そう考え、怪訝な表情をする修司。
「さっきお前さんに渡したのはダンデの仲間の”ホワイトダンデ”の種子だったのさ。名前の通り見た目はほとんどダンデと同じだが、花の色が黄色じゃなくて白色なのさ。それなのに咲いたのは黄色い花−つまりダンデとして成長したってことさね。」
そうヘルダから説明されるが、いまいちまだピンときていない。
「つまり、お前さんの持つイメージに”成長”が引っ張られたってことさね。まぁ、問題はどこまでイメージで変化を起こせるかってところかね。」
そう言われようやく理解した。というのも以前、種子から単純に成長させようと”具体的なイメージを持たず”魔力を注いだだけでは成長せず、”しっかりとイメージを持つ”ことでなんの問題もなく成長したがそれは言わばたまたまで、イメージの持ちようによって、どれほどまでかはわからないものの、ある程度性質を変化させる事が恐らく可能だという事だ。
「これはまた、調べ甲斐のある特性が見つかったねぇ。ひっひっひ。」
そうして色々と調べていく中で、イメージによって”成長を色々といじれる”らしい事が判明した。
具体的に今わかっていることとしては、成長しきっているものをさらに成長させること−これは性質の変化も含めて−はできないが、草花であれば、蕾ができる以前なら性質の変化を伴う成長ができるようだ。
ただし、その際には具体的なイメージをしなければいけないことや、あまりにもかけ離れているものには成長させる事ができないようだ。
そうして、あれこれ調べ始めて一週間以上が経った頃、これらのことが判明するとともに、毎日空になるまで魔法を使っていたおかげもあり、修司の魔力量も一般的な大人と同程度の量−ファイアボール換算6発分ほど−にまで増えた。
そうなってくると、いよいよヘルダやリーナにまでも良いように使われ出されてきた。−というのも、イメージ次第で性質をある程度変化させることができるので、ヘルダからは貴重な薬草の近縁種をやれその貴重な薬草にしろと言われ、リーナからは、普段話をする時に元いた世界の話もするので、そこで出てくる果物などを催促される。実際に木苺のようなものがなる植物からイチゴを作ったりした。
居候の身も、もう数日で一ヶ月になろうとしているので、当然文句の一つもないのだが。
しかしながら、流石にそろそろ迷惑をかけ続けるのも憚られるので、ドワーフ達がそろそろ戻ってこないかと思いながら今日も今日とて農作業の手伝いをしていると、何やら村の中が慌ただしい雰囲気になっているのに気づく。
一体どうしたんだろうか−と、作業していた手を休め、村の中の方を遠くから見ていると、向こうの方からリーナが慌てたようにこちらへと走ってきた。
「シュージさん!お願いします!ちょっと一緒にきてください!」
そう言うが早いか、リーナは修司の腕を掴みそのまま家の方へと引っ張っていく。
「ちょ、ちょっと、リーナ。落ち着いて。何があったの?」
リーナに引っ張られながらそう問うと、
「さっきドワーフの人たちがイグナーツ山脈から帰ってきたんですけど、そのうちの一人のオルドさんがひどい火傷をしてて、お婆ちゃんも今日はアッシュさん達と森の少し奥にある薬草を取りに行っているからいなくて。」
そう矢継ぎ早に言われ、おおよその現状を修司は把握した。
「リーナは応急処置とかできないの?というかなんで俺をそんなに急いで探してたのさ?」
走りながらそう質問する。
「応急処置ならできるんですけど、そのための薬草がないんです!なのでシュージさんにならなんとかできるかと思って!」
そうこうしているうちに家に着くと、外にまで中の喧騒が漏れていた。
「おい!ヘルダの婆さんはあとどれくらいで戻ってくるんだ!」
「わかんないけど、今急いでうちの旦那やガルフ達が北の森に向かったんだ!ここで騒いでもオルドの傷がよくなるわけじゃないんだ!それに、リーナちゃんも考えがあるってさっき飛び出して行ったろ!とにかく落ち着くんだよ!」
「この状態で落ち着けるかってんだ!」
−そんなやりとりが聞こえる中、意を決してリーナと二人家の中に入って行く。
「おぉ!リーナちゃん!戻ったかい!で、どうにかなりそうかい?」
そう声をかけてきたのは修司も何度か会ったことのある恰幅のいい女性−トムの奥さんであるマーヤだった。
「ん?誰だそいつは?そいつがオルドを治してくれるのか!?」
そう言うのは、身長は子供程度ながらもガッチリとした体つきをした全身毛むくじゃらの−いわゆるTHE ドワーフという見た目の人物である。・・・ドワーフだから当たり前なのだが。
初めて見る本物のドワーフに感動したのも束の間、今はそれどころではないと頭を切り替える。
「ごめんなさい。紹介は後でしっかりしますから。シュージさん、とにかくこっちへ!」
そう言いながら、普段ヘルダが調剤室として使っている部屋に引っ張り込まれる。
その際、恐らく急に拵えたであろう担架のようなものに寝かされた状態のドワーフ−オルドをちらと見たが、上半身−特に腕や胸、顔の一部がひどく水ぶくれていたりする姿が目に入った。
そうして調剤室に入ると、リーナは棚や引き出しを漁り、いくつかの細長い種子を手渡してきた。
「これが火傷に効く薬草−ヴェラロエの種子なんです!どうにか成長させることができませんか!?」
そうリーナから言われ、修司はなんとも言えない表情となってしまった。
というのも、修司はヴェラロエという薬草を知らない−つまりは”具体的なイメージ”を持てないのだ。