第16話
「オンセン・・・ってのはなんだい?」
ヘルダのその一言に修司は驚いた。一応とはいえお風呂のことを知っていれば温泉のことも知っていると思ったからである。−お風呂は温泉などを模倣して作られたものだと思っていたからだ。
「温泉というのは、言ってみれば天然のお風呂のようなものなんです。基本的には、地下にある水を火山の熱や地面の熱によて温められて、それが地表に出てきているのを温泉と呼んでいるんです。」
「なるほどね。それはわかったけど、どうしてイグナーツ山脈の危ないと言われている、あの卵の腐った匂いのする場所が関係してくるんだい?」
「もし、この世界にあるものが、自分の元いた世界のものとそこまで変わらないとするなら、その腐った卵のような匂い−いわゆる腐卵臭は”硫黄”というものの匂いだと思うんです。それで、詳しい理由とか原理はよく知らないんですが、元いた世界ではそうした匂いの近くに温泉がよくあったので、もしかしたら−と思いまして。」
「ふーん。なるほどね。それならドワーフ連中が帰ってきたら一度話を聞いてみるのも良いんじゃないかい?あいつらはそれこそここに住んでからはしょっちゅうイグナーツ山脈に入ってるようだから、もしかしたら何か知ってるかもしれないよ。それに、お前さんの家の設計図も、ドワーフ連中じゃないとちゃんとしたのは引けないから、結局は諸々あいつらが帰ってきてからということになるね。」
余談だが、そのドワーフ達が来るまでは、村の住民は建築の知識もまるでない状態で、それぞれが思い思いに作っていたためしょっちゅう壊れたり、掘っ建て小屋のような見た目のものしかなかったのである。つまりアッシュのあの壊れそうで壊れない家もそういうことである。
そういうわけで、結局は家を作るにも温泉の確認をするにも、ドワーフ達が帰ってこないことには始まらないということになり、それらの話は一旦ここで終いとなった。
翌日からのしばらくの間も、これまで同様の日々を過ごし、その中でアッシュやトムをはじめとした人達にこの村に住むことになった旨を伝え、改めて挨拶をすると、皆が喜んで受け入れてくれた。
そうした日々を過ごし、数日が過ぎた頃。
ここ最近の魔法の練習として、蔓を操るイメージで魔力を流す練習をしていたのだが−
「・・・リーナ。なんだか今日の蔓、最初に渡されたものに比べて少し長い気がするんだけど、同じやつじゃないよね?」
そう言いつつも、ここ最近毎日使っていることもあり、なんとなくだが、今リーナから手渡された蔓が同じものだと修司はほぼ確信している。基本的な見た目や、いつも握っている部分の握った感触などが同じだからだ。違うのは長さだけ。ここ数日も少しの違和感は感じていたが、 毎日見ていたことから少し長くなった程度のことに気づいていなかったのだが、今日渡された時に、ふと気づいたのである。
「あ、やっぱりシュージさんもそう思いますか?私もなんだかシュージさんが魔法の練習をした後、なんだかちょっぴり長くなってるかなぁと思ってたんですよ。」
そんなリーナの発言を受けて修司は、
−気づいてたなら言ってくれよ−
と、内心で項垂れたのであった。
実際に、最初リーナから渡されたときは腰までの長さ−約1m−だったが、今手に持っているのは修司の肩ほどまでの長さ−約1.5m−になっていた。
「ちなみにだけど、この蔓ってそういう−切られた後も伸びるみたいな特徴があったりしないよね?」
そうリーナに確認をする修司だったが、当然のようにリーナはそんな特徴はないと言ってくる。
そうなると考えられる可能性は−
「俺の魔力−”木魔法”が原因で伸びてるって可能性が一番高いよな・・・。」
そう一人呟く修司だったが、正直なところ納得のいっていない部分があった。というのも、植物を伸ばすのとほぼ同じである、”植物を生やす”というイメージでの魔法の行使は以前にも行ったが、うんともすんとも言わなかったからである。
また、魔力量に関しては毎日練習している事もあり少しずつ伸びているが、それが理由にならないのは以前ヘルダに指摘された通りだ。
その上で相違点をよくよく考えていると−
「普段は動かすイメージでその蔓に魔法を使っているんですよね?それだったら試しに”その蔓を伸ばす”イメージで今日は魔法を使って見たらもっと伸びたりするんじゃないですか?」
リーナのその何気無い提案で修司は気づいた。
−確かに、以前は地面から、要は”何もないところから”植物を生やそうとはしたけど、”既にある植物を伸ばす”、つまり”成長させる”ことは試していなかったな−
改めてリーナの方を向くと、リーナは首をかしげるだけだった。
「そうだね。試してみるよ。」
そう言うと修司は、手に持つ蔓が伸びるイメージを持ちながら魔法を使う。