第13話
そんなこんなで修司がこの世界に来て一週間ほどが経とうとしていた。
午前中はリーナと−二人っきりではないが−薬草採取をし、午後からは畑で農作業。農作業後はこの世界の読み書きや知識の勉強を夕食まで行い、夕食後は”魔法”の練習。基本的には毎日この繰り返しである。中には薬草採取に行かない日もあり、その時にはアッシュなどに簡単な剣の手ほどきを受けたり−センスは皆無だったが−する日もあった。
薬草採取や畑での農作業は周りの人達が助けてくれることもあり、少しずつではあるが様になって来たというか、人並みにこなせるようになって来ていた。特に読み書きに関しては、難しい文書でなければほとんど問題なくできるようになっていた。
それに対し魔法−修司にしか今の所使えない”木魔法”に関しては、これといった進歩が見られない。ヘルダ曰く、この世界の魔法は基本的には魔法詠唱だったり魔法陣のようなものは存在せず、イメージ−言ってしまえば感覚によって使われているとのこと。
そしてほとんどの場合、同じ属性の人の魔法を見たり、どういったイメージや感覚で使っているかを聞くことで、大抵の人は感覚や手応えを掴むのである。中には詠唱をすることでイメージをしやすくしたり、魔法の規模を一定にする者もいないこともないが、どちらかというと少数派である。
こうした点において”木魔法”は、修司の他に使い手がおらず、物語や伝承なりで伝わっているということもないので完全な手探り状態なのである。
一応、元いた世界で小さい頃や学生の間は人並みにアニメや漫画、ゲームなどもしていたことから、なんとなくこんなことができるんじゃないか−と色々試してはみたものの、手応えはゼロだった。
−なんとなく”木魔法”っていうと、某九尾のキツネを宿した少年忍者が○影目指して頑張る漫画に出てくる初代○影の忍術みたいなことが出来るんじゃないかと思って色々試してるんだけどなぁ−
具体的にここ最近主に試していることとしては、木の生えるイメージをしながら地面に魔力を注いでみたり、木の矢を空中に生成して飛ばすイメージであるが、魔力を垂れ流すだけでうんともすんともいわない。
一時、単純にやろうとしてることに対して魔力量が足りないだけなのでは−とも思ったが、ヘルダに相談したところ、それはないとのことだった。
仮に先の木の矢を飛ばす魔法を”木魔法でできる魔法”だったのであれば、消費魔力量に応じた規模で何かしら反応はあるのだという。要するに、魔力量が足りなかっただけであれば、爪楊枝が生成されて飛んでいたはずなのである。
思いつく大体のものをやってどうしようかと悩んでいると−
「一回目線を変えて見たら良いんじゃないですか?火魔法なんかは竃の火に魔力をもうちょっと注いで火力を強くしたり、水魔法なんかは桶の中の水とかをある程度自在に操れるって言いますし。シュージさんの場合、魔石から蔓が生えて来たから、蔓に魔力を流したらもしかしたら何か反応があるんじゃないですか?」
と、リーナがアドバイスをくれた。
既存のものに魔力を注ぐ−か。確かに修司はそうしたことはまだ試していなかった。
物は試し−と早速やってみようということになり、リーナはどこからともなく1mほどの蔓を持って来た。そうしたリーナを見て修司はたまに、実はリーナは未来からやって来たどら焼きが大好きな○型ロボットよろしく便利なポケットを持っているのではなかろうか−と仕様もないことを思ってしまうのである。
それはさておき、リーナから渡された蔓の端を手に持ち、魔力を注いでみると、僅かにだが蛇のようにうねうねと動いた。それを見た修司は、もっと明確に色々と動くようにイメージしながら魔力を注ぐと、おおよそイメージ通りに蔓が動いた。やっと反応を見せた”木魔法”にテンションが上がり、色々と動かす修司だったが、数分も動かしていると魔力がすっからかんになっていた。
そんな修司に対して、おめでとうございます!−とリーナが満面の笑みで言ってくれる。
「ありがとう。リーナのアドバイスのおかげだよ。今はまだ少しの時間動かしたら魔力がすっからかんになっちゃうけど、これからも色々試して何ができるかとか探してみるよ。」
「いいえ、そんな全然。私も思いつき程度で言っただけですから。けど、お役に立てたなら良かったです!とりあえず、この蔓は一旦片付けちゃいますね!」
そんなリーナに手に持っていた蔓を渡しつつ修司は、
−本当に良い子だよな。今回もリーナのおかげでなんとか木魔法の糸口が見つかったかもしれないし。・・・ただなぁ。蔓を鞭みたいに操ることができたとしても、俺自身鞭なんか使ったことないし、それだったら”本物の鞭”を使った方が色々と良いだろうし・・・。他に何かできるのかなぁ−
そんなことを考えていた修司は、蔓を片付けようと巻き取っていたリーナがちょっと首を傾げていたのを見ていなかった。
−この蔓ってこんなに長かったっけ?−
そんな風に思いながら、気持ちふた巻きほど多く巻いた蔓を持って片付けに行くリーナだった。