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こんな緩い人間初めて見た

一通り話がまとまり、夕食も食べ終わったあと、美人2人に薦められて風呂に入らせてもらった。風呂も豪華だ。柚子湯なら入ったが薔薇の花びらの浮いた風呂は初めてったが、思ったより気持ちいい。

「志帆様、さっぱりしましたか?」

「良かったらこっちで風呂上がりのデザートでもどう?」

「ありがとう、いただきます」

サエンとサランに誘われてソファーに座り、寛ぐことにした。相変わらず座り心地が最高だ。

「あれ?1人足りない?」

「エン様でしたら今日はもうお休みになるそうですよ」

「久々だし、疲れたみたいだしね。志帆は大丈夫?」

頷く。体力はそれなりに有る。

「志帆は体力あるよね。何か訓練でも受けてたの?」

「訓練と言うか…両親兄姉全員格闘技経験者だから、必然的にあたしもやってただけだよ」

そうなのだ。アホみたいに強い家族に囲まれて育っているせいか、一通りの格闘技はやったことがある。それなりに成績も残したが、唯一姉だけには勝てたことが無い。

「ならある程度戦い方は分かってるのかな?」

「向こうに魔物はいないから魔物相手に戦えるかはちょっと分からない」

魔物なんて初めて見た。野生動物より強いんだろうか?

「お嬢様方、果物でんすよ」

人数型オッサン、もといスティーブがきれいに盛り付けられた果物を持って来てくれた。見たことのあるような物もあれば、全く見たことのない物まで様々だ。

「まあエン君が守るって言ってるんだし、志帆にも防御魔法があるし。さっき言った通り援護するから」

サエンがブドウによく似た物を摘まみながらこっちに笑顔を向けてくる。

「どうぞ、無理だけはなさらないでくださいね。貴女に何かあったら、ご家族に申し訳ないですもの」

2人ともこちらのことを真剣に心配してくれているようだ。人の嘘を見抜くのは得意な方だが、この美人達からは嘘をついているような独特の感じが無い。

「ありがとうございます。足手まといにならないように努力する」

「明日は旅の支度を整えて、明後日出発でよろしいですか?早い方がいいと思いますし」

サランの言葉に頷く。行動は早い方がいい。

「移動の大半はモッさんに乗ってるからいいんだけど、全部そういうわけにもいかないし、丸腰じゃあさすがにまずいしね」

「モッさん?」

「さっき志帆様も乗ってきたあの子ですよ。モーテルゲールモーテルモーテルという種族なんですけど、名前が長いので略しました」

あの爬虫類っぽいのか。というかこの世界でも略語はあるのか。

「あの子は早いから、順調に行けば5日程度で目的地に着く予定だね。ただ、途中で2人ほど拾っていくつもりなんだよね」

「前の旅でわたくし達と一緒に戦った、魔法使いのベトーネと剣士のムラカゲ、この2人に先ほど伝達を飛ばしましたので、わたくし達が着く頃には事情を把握してると思いますし。…一緒に行ってくれれば助かるんですけど」

ふぅ、とサランがため息をついた。

「ムラカゲは大丈夫でしょうけど、ベトーネは偏屈なおっさんなので上手く言わないと来てくれないんですよねぇ…けっこうな年だから腰痛がどうのとかうるさいですし」

「腕は一流だけど無駄に頑固だからねぇ…悪いやつじゃないんだけど口が悪い」

なんか面倒くさいオッサンなのは分かった。戦力は多い方がいいけど。

「まぁ何とかしましょう!腕は一流ですし」

サランがそう言った時だった。


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玄関の方から凄まじい勢いでドアノブを回す音が聞こえた。思わず身構える。サエンとサランは戦闘態勢に入ってる。

「志帆は下がってて」

サエンに言われて素直にソファーの後ろに身を隠す。今のあたしの状態だと足手まといは確実だろう。


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ドアノブの音は鳴り止まない。

「スティーブ、エン様に連絡をお願いします!」

「うちの魔方陣を掻い潜ってくるくらいだからそれなりの実力者だねぇ…腕がなるよ…!」

うわサエンの目がギラギラ輝いている。この人根っからの戦い好きなタイプだ。うちのねえちゃんそっくりだ。

「どこのおバカさんでしょうかね?聞き出さないといけませんね」

こったともこっちで何か荒々しい。2人共にさっきの雰囲気とはえらい違いだ。


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大丈夫かこのドアノブ、取れるんじゃないだろうか。何か開きそうな音がする。

「何だよ一体…」

丁度村人Aが着いた瞬間、ガチャリ鍵の外れる音がした。全員が武器を構えて扉を見る。

「いや~やっと開いたよこのドア。立て付け悪いんじゃない?」

「「「アンバー陛下!!??」」」

入ってきた人物の姿を見るなり、全員があっけにとられ、次に肩の力を抜いてため息をついた。なんと言うか『うわ面倒くさい』といったニュアンスで。

「なぜ陛下がこのような場所にいらっしゃるんですか?どうやってあのクソジジィの目をごまかしてやってきたんです?」

「…相変わらず想定外だわ…」

アンバー陛下と呼ばれたそいつは、ひょろっと背の高い男だ。腰まである長い紙を緩く束ねている。顔立ちは整っていて、どこかのアイドルグループにでもいたらさぞかし人気が出るだろう。…陛下ということは王子とかそういう偉い人になるんだろうか?

「駒崎さん、こいつは大丈夫だよ。こっち側の人間だ」

村人Aが剣を下ろした。どうやら味方らしい。

「…申し訳ありません皆さん。一応止めたんですが…」

「ガイ様もご一緒だったんですか!?」

もう1人入ってきたその人は、あたしとあまり年が変わらないように見えた。男性にしては小柄だが、かなりの強者なのは直感で分かった。

「久しぶり~エン。また会えて本当に嬉しいよ」

「あぁそうだな…とりあえず座らせても大丈夫か?」

サエンとサランに村人Aが聞いている。

「ええもちろんですわ。殿下、ガイ様もどうぞこちらへ。スティーブ、お茶の用意を」

「かしこまりんした」

2人がソファーに腰かける。優雅な所作というのだろうか、姿勢もきれいだ。

「そちらが今日の話題の異世界のお嬢さんかな?初めまして、俺はアンバー。一応王子だよ。噂通り強そうなお嬢さんだね~」

「……はぁどうも」

まぁやらかしたから仕方がない。噂もたぶんろくでもない物だろう事は簡単に想像できる。

「いや~君が暴れてくれたからまんまと出てこれたよ、ありがとう。外に出れるのは久しぶりなんだよね~」

「久しぶり?」

「そうそう、俺はエンが異世界に飛ばされる直前から今の今まで軟禁されてたんだよ~。無駄にクソジジィが仕事してくれたせいで中々逃げられなくてね。でも今日君が色々やってくれたおかげで俺に対する警備が緩くなったからガイが助けに来てくれたというわけだよ」

成る程、自分の保身に走ったのかクソジジィ。

「なんにせよ、逃げだせたなら良かった。本当に」

村人Aがホッとした表情をしている。

「丁度サエン殿とサラン殿が飛んでいくのが見えたので、恐らくこちらだろうと踏んで……連絡もせず押し掛けてしまい申し訳ありません。あのまま国内に留まり続けるのは危険だったので。言い訳になってしまいますが」

ガイと呼ばれた、護衛だろう人は本気で申し訳なさそうに頭を下げている。この人たぶん苦労人だ。

「大丈夫よ、ガイ。確かにここなら安全だわ、クソジジィも知らない場所だし」

「そういえばイオはどうしたんですか?」

「イオが我々の逃げた後始末をしています。一人の方が動きやすいとの事だったので、彼女に任せてきました。国を脱出して落ち着いたら連絡を寄越す手筈になってます」

「イオも一緒がよかったんだけどね~緊急事態だし、任せちゃったよ」

…この王子の口調を聞いてると何となく気が抜ける。たぶん深刻な話なんだろうけど、学校に行くときについでにゴミも捨てといて、位の感覚に聞こえる。

「いや~外の空気はやっぱりいいね、館の中とは大違いだよ。美人の顔も見れたしね。久しぶりに見た顔がガイだとありがたいけどテンションは上がんないよねぇ」

「俺も上がりませんよ」

「うわぁ雇い主に向かってこれだよ~無礼過ぎ~」

「そりゃこっちは命がかかってますからね」

「うん知ってるよ、ありがとうねガイ」

あっはっはと無邪気に笑っている。何なんだこの人、今まで見たことのない新しいタイプの人間だ。遼平に似ているが、それ以上に緩い。こんな緩い人間初めて見た。

少し呆れていると、村人Aが気付いたのかこっちに声をかけてきた。

「駒崎さん、こいつはさっき自分で言った通り、あの国の第9王子だよ。見ての通りアホっぽいけど、そこまでアホじゃない。隣がガイ・ラスティン。このアホ王子の護衛騎士だよ。俺の剣術の兄弟子でもあるんだ」

「初めまして、異世界のお嬢さん。貴女のおかげでこのアホ王子を助けることができました。感謝いたします」

「…えーとどういたしまして」

護衛の騎士とやらにもアホ呼ばわりされてるこの王子は大丈夫なんだろうか。ニコニコ笑ってスティーブからお茶を受け取り、これまた優雅な仕草で飲んでいる。

「ところでねぇエン、『太古の統治者の称号』のことなんだけどね~」

「は?」

いきなり切り出したこのアホ王子。村人Aが変な声を出す。

「たぶん君が呼び出された塔の地下にあるんだよねぇ。ただ無駄に仕事したあのクソジジィのせいで、誰も近づけなくなってるどころか制御すら効かなくなってるみたいなんだよ~」

ホントに困るよねえ、と首を傾げるがちっとも困ってないように見えるのは気のせいだろうか。サエンもサランも同じなのか、微妙な表情をしている。

「大変だけど、もう一度行かないとどうしようもなさそうだよ。えーと、異世界のお嬢さんの名前を聞いてなかったね~」

「…駒崎志帆です」

今日はよく自己紹介する日だな。

「志帆さんね。エンがもう一度保持者になれば、君は元の世界に帰れるよ。古い神々ならそれくらいの事はできるよ~」

「本当かアンバー!?」「マジで!?」

村人Aもあたしも思わず身を乗り出した。

「忘れられたとはいえ神様だからね~それくらいは。エンが保持者だったらちゃんと使いこなせてたし、大丈夫でしょ。クソジジィじゃあ無理だねぇ」

俄然やる気が出てきた。同時に面倒くさいことに巻き込んだであろう張本人のクソジジィにも再度ムカついてきた。次にあったら拳の一つくらい叩き込んでもバチは当たらないだろう。

「じゃあやっぱり早い方がいいね。とにかく今日はきちんと休んで、明日準備してから出発だわ」

サエンがいつの間に飲んでいたのかまたジョッキ片手にウンウン頷いている。

「アンバー陛下とガイ様はこの後どうします?行くあてが無いのでしたらこちらに御滞在でよろしいですか?」

「ありがとうサラン~そのつもりだったよ~」

最初から集るつもりだったらしいこの王子。

「…本当に申し訳ありません。せめてイオから連絡が来るまで匿っていただけると助かります」

こっちはさっきより更に縮こまって頭を下げている。

「構いませんよ。狭いところではございますが、どうぞゆっくりなさって下さい。ご用のある時はスティーブに仰っていただけると、大体は何とかなりますので」

「ありがとう~、それじゃ、腹が減ったから何か食べたいなぁ」

「…すみません、俺もさすがに空腹に耐えきれないので何かいただけると助かります」

そういえばここまで逃げてきたんだったか。そりゃ腹も減るだろう。

「かしこまりんした。お二人ともこちらへどぞー」

2人が奥の食堂へ消えていくのを見送り終えると、村人Aが深くため息をついた。こいつため息ばっかりついてるような気がするな。

「本当に無事で良かった。相変わらずだし」

「そうね。ガイも無事だし、イオちゃんなら1人で大丈夫でしょ」

「そうですわね…早く連絡がくると安心できるんですけど」

仕方ないがまたまた話が見えない。

「あ、駒崎さんごめん。アンバーは俺があっちの世界に送られるのを止めようとしたんだ。イオはどんな系統の魔法も使いこなせる、ガイ兄さんと同じ王子の護衛魔術師だよ。サランの妹弟子でもあるんだ」

空気を読んだのか村人Aが説明してくれた。成る程、とにかく味方なワケだ。

「さて、陛下達はスティーブに任せて、酒も飲んだことだしそろそろ休もうか。志帆もさすがに疲れない?大丈夫?」

「ありがとう。大丈夫と言いたいけど、さすがに疲れてきたから休ませてもらうよ」

ホントにそろそろ疲れた。布団に横になりたい。

「じゃあ今夜はおひらきにしましょう。エン様も志帆様もお休みなさい」

「デザートありがとうございました。お休みなさい」

「あぁお休み。…駒崎さんもお休み。慣れない所で申し訳ないけど、ゆっくり休んで」

「…ありがとう」

…意外な気遣いに少し驚いた。

まぁとにかく寝よう。有事の前の体調管理は万全に。いつも姉ちゃんに言われている言葉を思い出しながら、あたしは用意された寝室に向かった。

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