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「あれ中広くない?」

思わず声に出た。見た目こそこじんまりとした家だか、どう考えても見た目と中身が合わない。広すぎる。さっきの謁見の間ほどじゃないが広々とした空間が広がっている上、吹き抜けになっている玄関ホールから見上げると四階まである。外からはどう見ても二階建てにしか見えなかったが。インテリアはなんというのか、ロココ調?華やかで目に眩しい。美人2人がその中にいるともう絵画の世界だ。

「ベトーネという、私達の仲間の魔法使いが作った家ですわ。面倒くさいオッサンですけど、実力は世界一なんです」

「かなり偏屈なんだけどね」

「へー便利だなー」

こんな魔法があるなら便利だろう。不動産屋もびっくりだ。

「お疲れでしょう?どうぞ座ってくださいな」

美人Bに勧められるがまま、豪華なソファーに腰掛ける。ふっかふかで体が沈む。気持ちいい。

「あーやっと落ち着いたー」

隣で村人Aがだらけてる。まぁバタバタしてたから一息着きたくもなるだろう。あたしもけっこう疲れてる。

「お帰りなんせ、お嬢様方」

「うわびっくりした!」

背後から急に声がしたもんだからびっくりした。振り向くそこにいたのは小さいおっさんだった。正確に言えば生身ではなく、おっさん型のぬいぐるみだ、全長60㎝くらいの。

「ただいまースティーブ」

「すみませんが、お茶を入れていただけますか?」

 どうやらこのおっさん型ぬいぐるみはお手伝いさん的な役割を担っているようだ。村人Aも何の疑問も抱いていないのか、しっかり自分の分の飲み物を頼んでいる。

「そちらのお嬢様は初めてのお客様ですな、お飲み物はどうなさんす?」

 なんか微妙に日本語が怪しいが、そんな風に問いかけられてふと思考が止まる。この世界の事がほぼ分からないが、食べ物はあたしが知っているものはあるんだろうか?

「駒崎さん、こっちの世界の食べ物は…」

「悪いが全然分からん」

「だよね…何か飲みたいものある?」

ちょうどよい具合に村人Aが話を振ってくれた。助かる。

「冷たいお茶がいい。甘くないやつ。麦茶とか緑茶系」

「んー…スティーブ、彼女には冷たいリングリアを頼む」

「かしこまりなんした」

 トテトテ、という効果音が聞こえてきそうな感じで奥のほうへおっさん型ぬいぐるみが歩いていくのをぼんやりと見つめていると、ふいに美人AとBが話しかけてきた。

「えーと、そういえばお礼と自己紹介がまだだったよね。エン君を助けてくれてありがとう。私はサエン・ユラ。それで、こっちが」

「サラン・ユラと申します。本当にエン様を助けてくださってありがとうございます」

 ショートカットの方がサエン、ロングの方がサランか。名字が一緒ってことは姉妹だろうか?

「わたくし達は姉妹ではないんですよ。同じ養成学校の同期で、たまたま同じ家族名だったんです」

「最初はよく間違われたりしたけどね。私は格闘専門で、サランが回復と補助系魔法専門なのよ」

ちょうど見透かしたように説明してくれた。そうか、佐藤とか斎藤とか学年に複数いるのと同じ感覚だな。

「えーと、駒崎志帆です…」

…自分も名乗らなければならないと思ってとりあえず自分の名前を言ったが、こっから何を言えばいいのか分からない。自分の現状が把握できてない。それより何より。

「お二人の名前は分かったんだけど…あんた一体何者?」

 村人Aの方を見ると、複雑そうな表情を浮かべている。そういやあたし、ずっと勝手に心の中で村人Aって呼んでたから、こいつの名前も知らない。我ながらひどい。

「…向こうの世界ではおやっさんが『太郎』って呼んでくれてたから、そのまま鈴木太郎で通してたけど、こっちでの名前はエン・グローリー。これが俺の本当の名前だよ」

「そして、世界を救った『勇者様』なのよねー」

「…『勇者様』?」

 あれか、ゲームとか漫画とかで見かける世界を救ったあれとか、真に勇気のある者に使われるあれか。あいにくゲームも漫画もそんなに興味がないから簡単な知識しか無いが。

「そうですよ、エン様がいなければわたくしたちも、この世界も今頃存在してなかったんですよ」

 成程、色々な人間に慕われたり殿様と家臣の図になるのはそのせいか。まだ今一ピンとこないが。何せあたしの印象に残っているのは、自転車でコントのような見事なずっこけ方をする村人Aなのだ。確かにさっきありえない跳躍でなんかぶった切ったところは見てるが、どうも現実味が薄い。

村人Aの方を見ると、複雑な表情を浮かべてる。そりゃそうだろう。

「向こうの世界でもエン様でしたらきっとご活躍してらっしゃったんでしょう!志帆様、よろしければお聞かせ願えませんかっ!?」

ここでまさかの空気読めない発言。村人Aが更に複雑な表情になる。

「私も聞きたい!あ、志帆って呼んでいい?あっちの世界はどんなところでエン君はどんなだった?やっぱりモテてた?まぁどんなにモテても負けないけどね!」

追加で空気読めない発言。なんだこの美人2人の村人Aへの心酔っぷりは。ここで本当の事を言ってもいいのか一瞬悩んだが、耐えきれなくなった村人Aからの制止が入った。

「その話しはまた今度でいいだろ…それより、今後どうするか考えないと。それに、俺がいなかった間の世界情勢も知りたい」

「えー聞きたいのにー!私の知らないエン君があるのは嫌ー!」

「エン様のご活躍は全て知っておきたいのに…」

こんな美女二人にここまで慕われてるこいつは一体何なんだろう。一歩間違えればストーカーじゃないだろうか。本人が気にしてないならいいのか。

「お茶でんすよー」

絶妙なタイミングでおっさん型ぬいぐるみがお茶を持って来てくれた。頭に乗っけて。あれだ、教科書で見たことがある。歩いてもお茶が揺れてないから思った以上に安定感があるらしい。

「ありがとうスティーブ」

「…ありがとうございます」

氷が入ったグラスには薄緑の飲み物が入っている。一口飲むと緑茶によく似た味がしてさっぱりする。バタバタしてて自覚が薄かったが、相当喉が乾いてたらしい。一気に飲み干す。

「お嬢様、おかわり持ってきますん?」

ありがたくお願いした。今ならまだまだ飲める。

「それと勇者どん、お湯の用意が出来てるから入ってきますん?」

「あーそうだった。ごめんソファー汚した。先に汚れ落としてくる」

そういや忘れてだけどこいつ返り血あびてたんだっけか。色々ありすぎて抜けてた。

「「それなら(わたくし)が一緒に」」

「お願いだから一人で入らせてくれ…」

2人のブーイングを受けながら、村人Aはそそくさと奥の方へ消えていった。

「仕方ない、じゃあエン君が一息ついたらまた話しましょ」

「しかたないですわね…」

心底ガッカリした顔の2人はやはりストーカー気質なんだな、と確信した。あれは村人Aも大変だろう。

ほんの少しだけ、あいつに同情した。



村人Aが風呂から戻り、一息つく頃にはすでに外が暗くなっていた。時間的に腹も減ったので、夕食を食べながら話そうと言うことになり、食卓の椅子に腰を降ろす。

…ふと、家の事が気になる。無断外泊になるんだろうか。心配されるより先にブチキレた姉ちゃんから鉄拳制裁がきそうだけど、連絡手段がないからどうしようもない。元の世界に戻って土下座と家事全てで怒りを和らげることができるだろうか。それだけじゃ済まなさそうなところが姉ちゃんの恐ろしいところだ。思わず身震いする。早く元の世界に帰ろう。

「じゃあ食べながらで悪いんだが、一体何があったか説明してほしい」

あのおっさん型ぬいぐるみが用意したのだろうか、食卓の上には美味しそうな匂いをさせた食事がところ狭しと並んでいる。見た目はあたしの知っている料理に似ている。

「志帆様もどうぞ召し上がってくださいな。スティーブの料理は絶品ですよ。お口に合うと良いんですが」

「いただきます」

ビーフシチューらしきものを一口食べる。…なんだこれめちゃくちゃ美味い。

「ねー美味しいでしょー!」

「うん、本当に美味しい」

おっさん型ぬいぐるみは照れてもじもじしてる。意外に可愛い。

「そっちのお肉も美味しいんですよ。わたくし毎日これでも構わないくらいですわ」

「サランは肉好きなんだよねー野菜ばっかりたべてそうだけど」

「見た目で判断されても困りますわ。お肉を食べなければ力も出ないでしょう?」

ねぇ?と話を降られたので頷く。あたしも肉派だ。

「野菜も美味しいじゃなーい!まぁ美味しいもの食べれたら何でも気にしないんだけどね!」

その通り、美味しいものは正義だ。

「…そろそろ俺がいない間に何があったか聞いてもいい?」

ふと控えめに村人Aが話しに入ってきた。食事が美味しくてうっかり忘れてた。美人2人も心酔してる割には村人A<食事らしい。なんと言うか、まぁ美味しいから仕方ない。

「あ、ごめんエン君」

「すみませんエン様…では、わたくしから説明しますね」

サランが一口お茶を飲んでから話始めた。

「わたくし達が太古の神々を討伐して、エン様があの不快な生物の策略で志帆様がいる世界に飛ばされた後、『太古の統治者の称号』は不快生物に奪われ、どこかに封印されています。はっきりした場所はまだ分かりません。今調べている最中ですので。そして現在の保持者に変わったとたん、また討伐以前のように魔物が現れ始めました」

「あのクソジジィじゃ役不足なのよ」

「幸い被害はまだそれほど大きくありません。主に最後に戦った古代の神殿付近で魔物が跋扈している状態です」

…要するにぶり返したような感じなのだろうか。

「成る程な…だから俺を呼び戻したのか」

吐き捨てるように村人Aが呟く。都合の良いように扱われればキレもするだろう。

「問題はそれだけじゃなくてねー。…この一連の流れに対してロンド帝国がご立腹で、数日前にこの状況をどうにか解決しないと宣戦布告するって言ってきたんだよね」

「ロンド帝国と戦争は避けないと。ただでさえ魔物が襲撃してくるのに、同じ人間相手にまで戦うほど、この国に余力はありませんもの」

「だからあのクソジジィは慌てふためいてるわけか。余計胸糞悪い」

この国にとっては二重苦になってるわけだ。大体の内容は分かった。ただ、その前の話をあたしは全く知らないので所々で話が見えないとのろがある。

「悪いんだけど、あたしはこっちの知識が無いからみんなが話している内容がどうも理解できないところがある。『太古の統治者の称号』って一体何?」

「そうですよね、ではその前の事も簡単に説明しますね」

サランが再び話をしてくれた。

「今から20年ほど前、突如世界に魔物が蔓延るようになったんです。多くの犠牲を払いながらも、魔物が発生してるのは西の果てにある誰も上陸したことの無い島だということまでは突き止めたんですが、打開策も無く人間達は自分達の生活を守るだけで精一杯だったんです」

「そんな時に現れたのが、エン君なのよねー。由緒正しい勇者の末裔!」

「…頼むから止めてくれ…」

村人Aがうなだれてる。あれか、先祖代々由緒正しい家柄みたいな感じなんだろうか。言われてみれば育ちが良さそうだ。

「色々ありまして、わたくしとサエン、あと2人いるんですが、5人でパーティーを組んで西の果ての島に向かって、元凶を倒して世界は平和を取り戻したはずだったんですが…」

「また魔物が出てきてるってわけなんだよねー。その元凶っていうのが、今よりもっともっと古い時代に祀られてた神様の成れの果てっていうね」

「…神様?」

「そう、人々から忘れ去られた寂しい神様達だよ」

村人Aがため息をついた。色々思い出しているらしい。

「『太古の統治者の称号』は、簡単に言えばその神様達と対等に渡り合える人間であることの証明書みたいなもんかな。昔は神様と人間の距離はもっと近くて、普通に会話することができたらしいんだけど、あくまで神様が上の立場だから。気まぐれに助けてもらうこともあったけど、その反対にひどい目にも合わされることもよくあったらしい。だから人間側が自分達を守るためにこの称号が生みだして、経緯までは分からないけど対等に渡り合えるようになったんだ。それ以外にも、神に近い能力を使うことができる。ただ、これは本人の資質次第で使えるかどうかが決まってくる」

「成る程。で、その称号があのクソジジィのところにあるけど役不足で使いこなせてないと」

3人が頷く。とことんダメだなあのクソジジィ。

「エン様が保持者の時は本当に世界は平和を享受していたんですよ。そういった経緯もあるので、この世界で称号を持っているということは非常に強い権力を持つことになるんです」

「…前回の戦いの時に俺が称号の保持者になったときに魔物は封印したはずだったんだけど、あのクソジジィがクソすぎるから封印が解かれたんだと思う」

全てはクソジジィのせいじゃないか。余計腹が立つ。

「それで、何で駒崎さんまでこっちの世界に来ちゃったのか、その上魔法まで使えるのかが疑問なんだけど…」

3人がこちらを見た。そんなのあたしが知りたい。

「まだ推測の域を出ませんが、恐らく太古の神々が何らかの影響を及ぼしたんだと思います。志帆様のいた世界に、魔法は存在していないんですよね?」

「見たことも聞いたこともない。魔法は非科学的なものって扱いになるかな」

「実際俺が向こうの世界にいた時は、何をやっても魔法は使えなかったよ。魔力とか、根本的に無いんだろうな。文化も何もかもが違いすぎる。最初はあまりにも現実味が無さすぎておとぎ話の世界かと思った」

あたしがこっちに来た時と感想が似ている。立場が変わればそうなるよな。あたしが見ているこの世界は村人Aにとって当たり前の現実なのだ。元の世界があたしにとっての現実であるのと同じで。

「私たちがちょうど駆けつける直前に見た光と、志帆がクソジジィにキレた時にやったあれは、レベルが高すぎて普通じゃまず使えない防御魔法なんだよね。話にしか聞いたことが無いよ」

いつの間にかサエンは食事を終えていて、グラスジョッキを片手にビールらしきものを飲んでいる。空になったジョッキがすでにテーブルの端に4個ほど置かれているが、酒に強いのか全く酔った気配はない。かなりのハイスペースでジョッキを空けているその姿はうちの母さんに似ている。

「なので、あの不快生物に言われた通りにするのは不本意極まりないし今すぐあの世に送って差し上げたいくらい嫌いなのですが、一度西の果ての島に行く必要があるかと思います」

「このままだとこっちにも被害が出てくるし。本当は称号を先に取り戻せばいいんだけど、一度保持者が変わったから取り戻してハイ終わりって分けにもいかないんだよねぇ…」

サエンはジョッキの中身を飲み干した。すぐ近くにいたおっさん型ぬいぐるみから新しいジョッキを受け取ってる。ホントよく飲むなこの人。

「何で?」

「称号の所有者になるにはその人の血が必要なんです。それを祭壇に捧げて初めて所有者として認識されます。…たぶんあの不快生物は魔物がいなかったのでたどり着くのは比較的容易だったんでしょうね」

なんか映画で聞いたような話だか、ふと疑問が浮かんだ。

「その称号ってどんな物なん?形とか色とか。祭壇に血を捧げるって言ったけど、本体が無いと駄目なんじゃないか?」

「たぶん駒崎さんがイメージしてるものとは似ても似つかないと思う…とにかく血を捧げて所有者になれば問題はないよ」

そういうものなのか。イメージできない以上、これに関しては考えても無駄だろう。実際見てみないと分からない。

「じゃあ、古代神殿に行くってことで問題ないな。…ところで…駒崎さんはどうする?」

「へ?」

間抜けな声が出た。

「ここにいた方が安全だと思うから、俺はここに残った方が良いと思うんだけど…巻き込まれただけの君が、危険に晒される理由はない」

「私もその方がいいと思うよ。道中危ないし」

「ここならスティーブもいますから身の回りのお世話にも困りませんよ」

「いや一緒に行く」

「「え!?」」

美人2人の声がハモる。普通なら忠告を聞くところなんだろうが、生憎あたしは姉に『己のことは己で始末をつけろ』と常日頃から叩き込まれている。自分の進退に関わることを他人任せにできるか。

「…何となく駒崎さんならそう言うと思ってたんだ…」

村人Aがため息をついた。

「止めても無駄だろうし、駒崎さんがそういうなら一緒に行こう。…君のことは必ず守るよ。2人もそれでいいな?」

サエンとサランは困惑した顔をしていたが、村人Aの決定は絶対らしい。

「志帆にはあの防御魔法もあるから心強いと思うけど…無理だけはしないでね?」

「エン様が決めたことですし、わたくし達も全力で援護しますね」

「…ありがとうございます」

そうだ、ここでじっとしててもどうにもならないのだ。だったら動いた方がずっといい。

とにかく行動あるのみだ。うん。

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