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第一話「まずは死のう」

俺の名前は高橋 たける

強そうでかっこいい名前だろ?

名は体を表すという言葉があるが、どうやら俺は例外のようだ。

猛々しい名前に反して、俺は元気のかけらもない枯れた34歳の引きこもりだ。

職歴なしのニートって奴だな。いや、今日をもって、その称号も剥奪されることになる。

そう、今日は俺の誕生日、すなわち35歳になるわけだ。ニートって奴は年齢制限があるらしく

34歳を超えると、ただの無職になるそうだ。ま、俺自身はそんなに焦りはないよ。

今まで通りネットしてゲームしてオナニーして寝るだけだ。そう、俺に焦りはないんだ、俺にはね。

問題は親だ。最近、1階から微かに聞こえてくる両親の会話が妙にものものしい。

今も何やら、話し声が聞こえる。

「……たける……35……潮時……」

「殺……ガス……隠ぺい……」


おいおい、今日はいつもよりハードな内容だぞ。潮時ってなんだよ……。

つーか殺すって言ってないか?しかもガスで……。

ふざけんな!俺はこの生活に満足してんだ!!つーか親のくせに子供殺そうとするなよ!

さすがに頭にきた俺は、親に怒鳴りつけてやろうと、顔を真っ赤にして、部屋の扉を蹴破った。


「ふざけっ!……え?」


扉を開けた目の前に、ガスマスクを被った母親が立っていた。

「え?何?ちょ、まじでガス使うのか?」


うろたえる俺を無視して、母親はつぶやいた。

「ハッピーバースデー!たけちゃん!」

そして、手に携えている、ホース状の物体の先端を俺に向けて言った。

「アーンド プレゼント」

「フォー」


「ユー」

シュゴオオッと聞きなれない音を立てて、何らかのガスが噴出された。


「げほっごほっ……ちょ……さすがにっ……げほっまっ……」

ガスを浴びた俺は強烈な吐き気と頭痛を感じた。息ができない。苦しい。死ぬ。いやマジで!!!!

これまでの出来事走馬灯のように頭を駆け巡る。


小学校時代……何もなし。

中学校時代……何もなし。

高校時代……何もなし。

ニート時代……何もなし。


あれ?なんもねぇぞ。家と学校と通学路の風景だけが、俺の頭にフラッシュバックしている。

それ以外にこれといった目立ったものはない。

思えば何にもない人生だった。虐待やいじめにあったことはなかった。だけど、恋人も友達もいなかった。

真っ白。あるのは怠惰な性格が生んだ謎の倦怠感。ただただ、すべてがだるくメンドクサイ。

いつか、何とかなるだろうと思いつつ、気づけば35歳。

毒にも薬にもならぬ存在で、ついに、実の親にまで見捨てられた。

なんて

なんて哀れな俺だ。

そう考えると、死ぬのも悪くないのかもしれんな。35歳という節目で丁度いいし。


意識が次第に冷静になると共に、息苦しさも和らいできた。

ああ、なんだろう、これが死か、思ってたより安らかな気分だ……。


そうして、俺の頭の中は真っ白になった。



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