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ある勇者のものがたり  作者: まだ考え中
1/1

勇者って使えないよね

    第一幕 勇者って使えないよね



 おい、勇者。勇者!!



   目を開けると俺は勇者だった。



    勘違い? いや、そんなもんじゃない。俺は勇者だった。




    なぜなら、今、俺は魔王の前にいるのだから。



   魔王「はははは。よく来たな。勇者よ」


   勇者「え? 俺? 俺が勇者?」


   魔王「ふ。ふざけるのか。それもよい。では、始めるか」



     魔王の攻撃。



        勇者に1のダメージ!




     は? なにいってんの? 俺が勇者?



   魔王「ばかな……。わたしのこんしんのいちげきが……」


   勇者「……」


   魔王「ふ……てかげんをしすぎたようだな……」


   魔王の攻撃



       勇者は死んだ。




     は?





    勇者ー! 周りで勇者の名前を呼ぶ声が聞こえる。



   え? 俺、終わっちゃうの……?




    勇者の視界が真っ白になった。




       とぅるるーん♪




     回復センターの音が聞こえる。



   あ、そうか……俺、傷ついたから回復してたんだ……。


    ボールの中で考えた。そうだよね。周りに同じようなやつらいるし……。


    てんてんてれれーん♪



    見事に回復しました。



      俺はこれからモンスターとして生きるんだ……。




    パカッ。



      暗いところから出た。やっと戦闘か……。



      目の前にはミニスカートの人が………………いない!?



     俺の青春を返してくれーーー!!


   あいつが……あいつがいないと俺の情動が収まらないんだよーー!!



     目の前にいたのは虫カゴを持った少年だった。こちらを見て睨んでいる。



「くそ、くそ……! 俺は、俺は……ミニスカートを見るために生まれてきたのに……!」


 歯噛みしている時間はなかった。もう戦闘だ。


   ああ……憂鬱になる……。

    こんな戦闘、さっさと終わらせたい……。



   俺は自分の歯に力を込め……あれ? 歯が無い?


   よく見れば手も足も無かった。



    な……!? よく見れば俺…………みのむし!!?



     固まるしか出来ない俺に何が出来る!?



    案の定死んでしまった……。





     ゲームオーバー。



     暗い画面が出たと思うとそこから俺の視界は暗転した。




    暗い画面からいきなり海の画面に変わった。



    あれ? 今度は航海?



      気づいたら樽の中にいた。



        どうも揺られているらしい。


    気にせず樽の中で揺られていると大きく揺れた。



     左舷に被弾! 現在消火活動中です!


    ああ……俺、このまま沈むのかな……。



       目を閉じた。




       おお、勇者よ。お前の名前を入力せい。



    なまえ:「      」


     おところ「        」



     好きな子の名前「       」



    性別 「  」



     あれ? 入力画面がある。ということは……。今度こそRPG?



    お、始まった。旅立ちの村だ。



    村長の村に向かった。



    案の定、村長から木の棒と使えない布の服と少しばかりの金をもらった。


    これで旅立てって? バカにしてる。


    考えても見ろ。この世の中、そんな金じゃ生きていけるわけないだろ。


    この世界に村長に金を要求する機能はないのか?



    「そんちょう。そんなんじゃおかねがたりません」



    「さあいくがよい。まおうをたおしてくるのじゃ!」



      「……」


    「そんちょう。金をください」



    「さあいくがよい。まおうをたおしてくるのじゃ!」



    「……」



    「そんちょう。しんでくれ」



    「さあいくがよい。まおうをたおしてくるのじゃ!」



    「……」



     だめだ。なにを言ってもダメだ。



    こんなじじい、何を言っても通じねえ。



    仕方ないのでそのまま村から出る。



     木の棒じゃ心許ないがしょうがない。くれないやつが悪いんだ。



    スライムに遭遇した。だが、俺は戦うつもりがないので、逃げる!!




     俺は逃げ出した!




      だが、スライムの集団に囲まれてしまった!!



     逃げれない……!!



      嘆息をすると俺はスライムたちを見た。くっついて大きくなるらしい。


    だが、そんなもんは俺には関係ない。



     俺には改造コードがある。



      これを入力すればレベルはMAXに。金は最大に!


       俺はなんの躊躇いもなく改造コードを入力した。



    ………………。




     数分待っても何も変化は現れなかった。持ち物が変わった様子もない。



   「あれ? 違ったっけ?」



     入力するコードを変える。



   だが、変わる様子はない。



    仕方ない。逃げ出すか……。

 

    後ろをちらりと見た。後ろから新手が来る様子はない。それを確認すると一気に後ろへ逃げ出した。



    はあ……はあ……。とりあえず追っ手が来る様子はないな……。



    俺は辺りを見回した。



    周りは森があるだけだった。



    ふーっ。やれやれだぜ。




    ちょうど目線の先に木で出来た小屋があった。


   「あれか。あの家が占いばばあの家だな」




    ゴンゴンと荒くノックをすると返事はなかった。そのままガチャリとドアを開けるとテーブルの真ん中にばばあは座っていた。


    「は?」



     ばばあの第一声がこれだった。



    こっちの方がは? だ。いきなり会った瞬間には? かよ。



    「返れ! クソガキが!」


     水晶を持ちながら罵声を浴びせてきた。



   無理無理。俺はここを通らないと次のステージに行けないんだから。そんなもん、無理だっつーの。


   「おい。さっさと道を教えろや、このばばあ」



    ばばあは人のことをちらりと見ると穿ったような目線を俺を見てきた。



    「てめえ。なにが言いたい。俺に道をさっさと教えろって言ってんだよ」


    「無理ぽ」



     ……。



    「ばばあ。てめえ、匿名掲示板にはまってるのか? だったら――」



    「いいからさっさと帰れ。このクソガキが。わしゃ、何年も勇者を待ったんじゃ。じゃというのに……イケメンじゃないではないか!」


   「ばばあ、くたばれ」



    「無理ぽ」



    「ぬるぽ」




    「ガッ」




     相当のねらーみたいだな。だったら――




    「勇者なんだけど、なんか質問ある?」



    「勇者って儲かるんですか」



    「知らねえよ」



    「氏ね」



    「だが断る」



    「相当のばばあだな。どうすっか……」



    「いいからイケメンをよこせ」



    「だが断る」




     ばばあはむかついた表情を見せると俺に対して指をおっ立ててきやがった。



    さて、どうするか……。




    選択肢1:このままばばあを倒す



    選択肢2:ばばあと言い合いをする



    選択肢3:水晶を奪い自分で占う



     どうするか……。




      占いばばあは占いが専門だ。待てよ……占ってもらう必要なんてあるのか?



    選択:ばばあから水晶を奪い、さっさと次の場所へ行く



    ばばあをなんとか騙し、俺は水晶を盗み、次の場所へと向かった。




    次の場所は城だった。水晶をなんとか弄り倒し、次の場所を映させたのだ。



    ふむ……。城か。王様から魔物の討伐を命じられるのかな?



     城に一歩踏み込んだそのとき。



     バガン。



     爆発音が城に轟いた。




     それも単発じゃない。複数の爆発音が聞こえた。



     は?  いやいやいや、爆発音なんてありえないっしょ。




     入ろうとした城は脆くも崩れていっていた。



     なぜか数分で城は焼け落ち、三階以上あった建物は門だけが残るものへと変わってしまった。



    呆然と立ち尽くす俺。



    入ろうとした城が崩れ落ちてしまったので、中にいるはずの王様からアイテムをもらえるかもわからない。中の状態が依然不明だ。


    中からは城の兵士が次々と出てくる。



    「……」



    呆然と立ち尽くしていると隣から声がかかった。



    「君はもしかして勇者かね!?」



     首を横に向けてみるといたのは見るからに王様然とした人だった。


    「まあ……」



    「そうか、そうか。無事でなによりだ。さっそくだが、魔物を討伐してほしい」



    「……無理」




    「そうかそうか、やってくれるか………………え?」



    「だから無理」



    「では頼んだぞ勇者よ」




    「断ってんだろうが、このジジイ!」



    ほっほっほと笑いながらじじいは去ってしまった。



   「はあ。もう少し楽だと思ったんだけどな……」



     セーブしますか


      はい・いいえ



    はいを選択。




    さて、止めるか。





      俺は現実世界に戻ると頭を切り替える。



 「ほんと、ゲームはクソゲーだな!」



    つけていたヘッドディスプレイを投げつける。



     カランと音がして、床に転がる。



     周りには本が積まれた山が沢山あった。



    そして周りにはペットボトルも幾らか転がっている。




    数本は中身が入っていて、数本は空だった。



    そのうちの一本を蹴り、小我詰人しょうが つめひとは怒鳴った。



  「あーあ、リアルもクソゲーだし、ゲームもクソゲーだし。なんだよ、このゲーム!」


   ソフトのケースを蹴った。そこには『リアルを充実させましょう! ゲームの中ではあなたは神です!!』と書かれている。



   男は30歳独身だった。魔法使える年齢を過ぎてしまい、彼女がいなくて焦っている。



    それに男はニートだった。いわゆる引きこもりのニート。



    ネトゲもやりつくし、やっているゲーム、やっているゲームで『出てけ!』と言われてきた。そう、男はゲームの世界からも爪弾きにされたのだ。

 だから、男はゲームにも絶望していた。ゲームで婚姻しようと思ったが、ことごとく断られてきた。そのどれもに本気で恋をし、どれも引きずってきた。

「……ああ、俺の人生、どうなるんだよ……」


  男は呻く。


   絶望するように。この世の全てを怨むように。



    あ……そういえば、俺……今日で31歳じゃん……。


     男はカレンダーを見た。今日は自分の誕生日だった。


   はは……これで死ぬのも悪くないかな……。


    男は完全に絶望していた。



     目は虚ろに。体からは生気が無いように。




    自分の体を見るとそういえば、もう何日も風呂に入ってなくて臭かった。そんなことも気にならないほど、ゲームをしていた。だから――




    今度は強くなってやる……。



    男はそう誓うと自らの命を絶った。




     はーい。ここでクイズでーす。



   男の目に可愛い女の子が浮かんだ。



    白い世界に天使のような女の子。自分には本物の天使のように見えた。




    「はいはいはい。いいですかー? あなたは今、どこにいるでしょうー?」


   天使……? らしき女の子が言う。



    「はは……俺もついにダメになったな……まさか、この死ぬ間際でも二次元の女の子が浮かぶなんて……」


   女の子はまさに俺の理想の女の子だった。どこからどう見てもまさに理想の女の子。現実世界にこんな子がいたらまともにお付き合いを申しこんでいるだろう。そんな女の子だった。



    「え……? 俺……まさか二次元の世界にいるの……?」


    「さあー? それはあなたの想像にお任せいたしますー」


    やけに能天気で軽い女の子はくすっと笑うと俺を白い世界に連れて行く。



   そこはパラダイスだった。次元を超えた場所といえばいいだろうか。今まで俺がプレイしてきたゲームのキャラたちが宙に浮かんでいる。奥へ奥へと進むと移動するたびに色々なキャラと出会う。


   「ふふ。おかしいですか? この世の中はこうなっているんですよ?」



    くすりと女の子が笑う。ずいぶんと歯がゆい思いをした。なんといっていいかわからない感情が俺の心を襲う。なんだろう……この……甘いかんじというか……胸がざわつく感じは……。女の子を見ているとそんな感情が出てくる。今まで誰とも感じたこと無いこの不思議な感じ。あいつは俺の運命の人か!?



   「はーい。到着しますよー」



   人の心の中を無視して女の子は言った。こちらががくりと肩を落としていると女の子はこちらの心を見透かしたかのように笑いかけてきた。




   「ふふふ。お兄さん。ここ初めて?」




    人をバカにしたように笑う。だが、その笑顔は邪気の無い笑顔で、こちらまで笑ってしまいそうだった。


    着きましたよって言われて見たのは見たこともない世界。



       アナザーワールド。そこはそう呼ばれているらしい。



    そこに俺は連れてこられたわけだ。少しだけ歩いてみると花が咲いていた。軽く手を触れるとこちらに応じるかのように揺れた。俺が不思議に思っているとその女の子が笑いかける。



    「どうです? これ、ここの花なんですよ」



     その笑顔には人を惹きつけるような不思議な魅力があった。俺、この人となら……。




     「さあ次に行きましょう」



     アナザーワールドというものは、意外に深いらしい。




     さきほどあった花がもう見えなくなってしまった。




     奥へ行くとさらに不思議になっていた。深い世界。何も無いのだ。黒い世界。ただそれだけ。


     目の前にあるものはといえば深い闇。ただそれだけ。手を突っ込んだらそのままその闇に引っ張られてしまいそうな。



     「さーて。ここでもんだいでーす」



     女の子が振り返って俺に問いかける。




      「ここはどこでしょう」




    女の子は俺に対して笑いかけた。だが、俺は答えることが出来なかった。なぜならこんなところ来たこともなければ見たことも無い。もし想像するとしたらブラックホールの中とかそれに等しいか。



    「しらねえよ。おまえが連れてきたんだろ」



    「ふふ。そういうと思っていましたよ」




     女の子は少しだけ笑うと奥へと俺を誘う。



      その手招きに引かれて俺のからだは移動してしまう。そう。勝手に動くのだ。まるでそこに引力でもあるかのように。


   引かれて行くとやはり闇に引っ張られた。闇に呑みこまれるように俺の体は闇に沈んでいく。それに抗えなかった。抗おうとする気も起きなかった。いや、頭の中では抗おうとしていたのかもしれない。だが、体が動かなかった。体が言うことをきかなかったのだ。腕を動かそうにも腕は動かずに引かれていく。足を動かそうにも足は動かない。ただ闇に引っ張られていくだけだ。女の子に向かって手を伸ばそうと腕を動かそうとするがその手も動かなかった。



     「ふふ。どうですか。闇に呑まれる快感は」



      俺の体は闇に呑まれていった。その後の記憶は覚えていない。ただ、闇の感触が気持ちよかったことだけは覚えている。




    目を開けるとそこは……。




      体が自由ということを知っているだろうか。




      体というものは解放されると自由になるのである。




       解放された体は自由に動く。



     そう。俺は宙に浮いていた。目を開けるとそこは病室の上だった。



     目を開けて目の前を見ているとそこには俺の体があった。




      ふふ。ごめんね。私にはこれしか出来ないの。



     そんな声が聞こえた。




     俺の体が浮いていられる時間はそうはない。


        必死になって動く。



     まだ生きていたい。ただそう思った。



     俺の体はまだ温かかった。入れる時間はまだある。


      ただ俺は必死に。そう必死に体の中に入っていった。



     目を開けるとそこは光の世界だった。



     だが、それは光が俺の目の中に入ってきているというだけで自分が光の世界にいるというわけではない。


    それだけを確認すると俺は腕に力を入れた。いける。まだ動ける。

      俺を抑えていたものを外すと俺はゆっくりと立ち上がった。

      


        






    

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