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12月8日

今度はユール目線です。

「なーんかさ、変なワケ。昨日家に帰って来てからおかしいの」


 オカシイのはお前の頭だ。


「相変わらずクールなんだけど、どこか上の空っていうか」


 クールも何もアイツの顔面筋は固定されてるだろうが!


「ねぇ、どう思うユール」






「…………知るかボケ。邪魔するなら帰れ」


 今日ほど阿呆ノエルの息の根を止めたいと思ったことはない。

 突然やって来たかと思ったら作業台の上で気分良く惰眠を貪っていた私を叩き起こすとは本当にイイ度胸をしている。昼夜逆転の生活を常としている私にとって、今《正午》は真夜中だ。

 珍しく真剣な眼差しで「話があるんだ」なんて言うからカフェインを摂取してまで起きてやったというのに、口を開けばなんだそれは。

 ルドルフの様子がおかしいだと?

 おかしいのはお前だ。

「何でそんなこと言うのさ! 心配じゃないの? 生みの親でしょ!?」

 目尻に涙を浮かべながら白衣を掴むノエルの頭にピコハンをお見舞いして私は隠すことなく長く大きな溜息を吐いた。

「あのな、ノエル。アイツはロボットだ。顔面筋は動かない。それに一度私の手を離れた以上、私は何もせん」

 きっぱりと言い放つと、よく言えば繊細、悪く言えばヘタレの幼馴染は大粒の涙を流し始めた。


 なんだコイツ。情緒不安定なのか?


「昨日リスト私に来たでしょ? 本当に変わった様子はなかった?」

 一瞬で涙を引っ込めてノエルは声のトーンを落とし、真面目な顔で再度聞いてきた。冗談ではなく、本気で心配している様子に少し驚いた。

「いや……(寝起きでぼんやりしてたし)これと言って気付かなかったが」

「そう……」

「随分気に掛けているんだな」

 意外だった。ノエルは人当たりは良いが特定の誰かと付き合う人間ではなかった。余程ルドルフと相性が良いのか珍しい行動に興味が湧いた。

「自分でもよく分かんないんだけどね。僕って今までユールとしか付き合いがなかったじゃない? 村の人たちとも仲は良いけど深い付き合いはしていないし。でもルドルフは成り行きとは言え一緒に暮らすようになって、毎日顔を会わせて会話して……ロボットなのに人間みたいな感情を持ってる。本人は作り物って言うけど僕は違うと思ってる。なんか上手く言えないけど―――」

 うんうん唸りながら答えるノエルに私は笑みを漏らした。

 ここまで思っていて、たった一つの単語も出ないのか。ホント馬鹿だな。

「要するにお前はルドルフが好きなんだろう? 付き合いの長さや立場など関係ない。ついでに言えば人間とロボットという違いも瑣末なことだ。アイツがお前をどう思っているかは知らんが、お前はアイツが何か悩んでるのか気になって仕方ない。でも聞けないから私のところへ来た。違うか?」

 【好き】という単語にぴくりと肩を揺らしたノエルは僅かに目を見開いて私を見つめる。

 思ってもみなかった、とでも言うように。

「好き……なのかな?」

「そう思うがな。多分お前が私に抱く感情と同じ、友愛やらの情が芽生え始めている」

 生まれた時からずっと一緒にいる私に対する感情は、恐らく友情というより家族愛に近いものかもしれないが、ルドルフに対する感情は友情に近いはずだ。

 ノエルにもルドルフ本人にも伝えていないが、ルドルフにはノエルに対する絶対服従のプログラムは組んでいない。ロボットはロボットだがルドルフは自分で考え、成長するように敢えて不完全な状態にしてある。

 まぁ、私の魔法があればこそ出来るシロモノではあるが。

「確かに仲良くなれればいいなぁとは思ってる。この気持ちは、そう……なの?」

「そんなことも分からずに生きて来たことが奇跡に近いな。と言うかこんなトコで油売ってても良いのか? 余裕があるなら構わないが、そろそろ会議があるんじゃなかったか」

 プレゼント製作も重要だが、サンタクロースがいる村として自身の村の飾り付けも盛大に行わないといけない。毎年の飾り付けは村の子ども達と奥さん方が一緒にやっている。子ども達はともかく奥さん方はプレゼント製作もあるから飾り付けの場所を決めて空いた時間に各自して貰わないといけない。

 勘違いでなければその為の会議が今日だったはずだが……

 置時計を顎でしゃくってみせるとノエルは顔面蒼白になってうろたえ始めた。

「えっ、うっそやばい!! もうこんな時間!?」

 急いで上着を羽織りそこら中散らばっている本を薙ぎ倒す勢いで入口へ駆け出して行った。

「慌しいヤツだな。足元には気を付けろよ」

 そう言って私はもう一度寝ようと毛布を掴み作業台へと向かう。もう完全に目は覚めてしまったが、横になればまたその内寝れるだろう。

「うん! ってかユール」

 詰まれた本で見えなくなったノエルが声を張り上げた。

「何だ?」

「あのさっ! やっぱり僕、ルドルフが気になるんだ。だからっ―――」

 言いかけたノエルの言葉を遮る。

 こういう時幼馴染というものは厄介だ。言いたいことが―――恐らくお互いに―――分かってしまう。

「あー、ハイハイ。分かった。今夜様子を見て来てやるからお前はお前の仕事をしろ」

「ありがとうっっ!!」

 姿は見えないが、きっと満面の笑みを浮かべているであろう、ノエルの明るい声が研究室ラボに響いた。


 ガチャンッ


 扉が閉まる音がして、静寂が戻って来る。


「……私も大概ノエルに甘いな。おば様やおじ様のことを言えない」


 結局何だかんだと世話を焼いてしまうのは幼馴染だからなのか、それとも……―――






☆ ― ☆ ― ☆ ― ☆





 

 こうして12月8日が終わった。


 クリスマス当日まであと17日―――





ここまで読んで下さってありがとうございます。

次話は12月9日午前3時頃を予定してします。

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