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12月6日

今回はルドルフ目線です。


 あるじはとても忙しそうだ。

 

 昨日は朝食後、村に届けられたてんこ盛りの手紙を抱えて仕事部屋の更に階下にあるという保管庫へ向かい昼食の時間になっても戻らず、戻って来たと思ったら先日大掃除を決行した仕事部屋に篭ってひたすらペンを走らせて出て来ない。

 ティータイムの時間になってようやく顔を見せてくれたとホッとしたら「ごめんルドルフ! このリストをミニチュア・ツリーまで届けてくれない!?」と血走った目でお願いされた。

 私は主のモノ。お願いなどされなくとも命令一つで何でもするのに、心底申し訳なさそうに言うものだから、何となく言えなかった。


〈望めばいくらでも喜んで従いますのに……〉


 主のいないリビングで私は一人呟いた。

 既に主は就寝してしまい家の中はシンと静まり返っている。いや、就寝というのは間違いだ。正しくは倒れた、か。


〈仕事熱心なのは素晴らしいですが、食事は取って貰わないといけませんね〉


 今日も朝から工房と仕事部屋を行ったり来たり。昼食は無理矢理取らせたものの夕食は食べる元気もなかったようで、家に帰るなり倒れてしまった。

 たった二日でこの有様では先が思いやられる。

 三日前仕事部屋を片付けた時、結局サンタクロース家業に関する記述は見つからなかった。完全に手探りの状態で焦りや不安、プレッシャーがあるのだろうが、客観的に見て主が今行っていることは到底一人でこなせるようなものではない。

 冷静に考えれば分かりそうなものだが当人は気付いていない。


〈困った人ですね……まぁ私と違って学ぶことの出来る生き物ですからもう少し本人の好きにさせましょう〉


 あと2、3日様子を見て改善の兆しがなかったら進言することにしよう。

 それまでは見守るだけに留めておこう。そう決定して私はリビングの明かりを消した。


 眠りを必要としない私には夜は長い。それなら私も出来ることをしようじゃないか。

 私に出来て、主に出来ないこと。





〈【彼ら】に会いに行きますか―――〉






★ ― ★ ― ★ ― ★






「あ、ルドルフ」

〈こんばんは、スノウ〉


 やって来たのは厩舎だった。

 足を踏み入れると、入口に一番近いところにいたスノウが顔を出した。彼と会うのはマスターの家から主の家に来た時の一度きり。だが、賢いスノウは私のことを覚えていてくれていたようでにこやかに挨拶をしてくれた。


「こんな時間にどうしたの?」

〈ええ、実はどうしても会いたい方々がいまして〉

「もしかしてダッシャー達に会いに……?」

〈名前は存じ上げないのですが、多分スノウが思っている方々と同じだと思います〉


 そう言うとスノウは成る程ね、と頷いた。


「噂は聞いてるよ。ノエル、忙しいみたいだね」

〈ここまでそんな噂が回っているのですか?〉

「うん。僕らは普段ここから出れないけど、噂好きの森の妖精が村の様子を教えてくれるんだ。あ、そうそう。彼らならこの突き当たりにいるよ。まだ起きてるだろうし大丈夫だと思う」

 スノウは邪魔してごめん、と言って奥に下がった。

〈ありがとうございます。今度またゆっくり話しましょう〉

「うん。待ってるよ。じゃあごゆっくり」


 スノウに別れを告げて、私は暗い厩舎の奥へと歩みを進めた。

 10m程進んだところで頑丈な檻が見えた。暗い中でも分かる太く立派な檻だ。その中にいくつもの気配を感じる。


〈………………〉


 どう声を掛けようか。

 生憎名前は先程スノウに聞いたダッシャーしか知らない。確かここには八頭いるはずだ。一応、動物と機械という違いはあるとは言え、トナカイとしては彼らの方が先輩。ここは下手に出た方が得策か……

 そんなことを考えていると予想外に向こうから声を掛けてきた。


「お、新人じゃねーか」

「え!? ほんと?」

「暗くて見えねぇよ」

「怖い? 怖くない?」

「怖くないわよ。同じトナカイなんだから」

「でも生きてるニオイがしないよぉ」

「ねーねーもっと近くに来てよ」

「……あなたたち落ち着きなさい」


 一斉に喋り出した彼らを諌めたのは、一番最後に口を開いたトナカイだった。


「いらっしゃい、ルドルフくんだね。悪いけどもう少し近くに来てくれないかな。よくお顔を見せて」

 落ち着いた話し方をした雄のトナカイに言われるがまま、私は彼らの近く……檻のすぐ傍まで近付いた。

〈初めまして先輩方。ルドルフと申します〉

 膝を着いて頭を下げる。敬意を示しているポーズなのかは本物のトナカイではない私には分からないが、気持ちを表すために自然とそうした。

「これはこれはご丁寧にありがとう。私はヴィクセンそして彼らが―――」


「ダッシャー」

「ダンサー」

「プランサー」

「ダンナー」

「ブリッツェン」

「キューピッド」

「コメット」


「さぁ、兄弟。どうしたのかな? 私たちに話してごらん」


〈実は―――……〉






☆ ― ☆ ― ☆ ― ☆






 こうして12月6日が終わった。


 クリスマス当日まであと19日―――




ここまで読んで下さってありがとうございました。

次話は12月7日午後3時予定です。

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